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連載第7回 大学改革を問い直す

2015/03/03

連載 大学改革を問い直す

第7回 大学ガバナンス改革の行方

藤田英典


 この15年ほどさまざまな改革が進められてきたが、それらの改革は必要かつ適切なものであったのだろうか。
 この間の改革動向は、大まかに次の三段階に分けることができる。① 2002 年の「教養教育」答申と「大学の質保証」答申、および05年の「将来像」答申②08年の「学士課程教育」答申と12年の「大学教育の質的転換」答申③教育再生実行会議13年の第3次提言「大学教育等の在り方」と第4次提言「高大接続の在り方」、及び中教審14年の「高大接続・大学入試改革」答申と15年の文科大臣決定「高大接続改革実行プラン」など。
 ①は現代の大学の使命を教育・研究・社会貢献にあると捉え、教育面を中心に「21世紀型市民」(05年)の育成を目的に教養教育・専門基礎教育の充実を図り、アドミッション・ポリシー(AP)、カリキュラム・ポリシー(CP)、ディプロマ・ポリシー(DP)の明確化・公表や認証評価により大学教育の質保証を図ること、および大学の機能別分化等を提言した。②の08年答申は「学士力」の概念と要素を示し、その学習成果の評価徹底を提言し、12年答申は「能動的学修」への質的転換が必要だとし、そのためにアセスメント・テスト(学修到達度調査)、学修行動調査、ルーブリック等、学生の学修成果の把握と大学間比較が可能な「アニュアル・レポート」の作成・公表を提言した。③は、教育面では②の提言内容の促進とグローバル化に対応した実践的英語力の向上や学事歴の柔軟化を提言し、加えて「達成度テスト」(新テスト)、「ガバナンス改革」や、AP・CP・DP の一体的策定・公表の義務化を進めるとしている。
 以上の改革動向には次のような特徴と問題がある。第1は、わずか15年ほどの間に六つもの中教審答申と三つの実行会議提言が続いたこと。その改革案は段階を追うごとに細部にわたり具体化され実施されてきたが、このような相次ぐトップダウンの改革は大学現場に時間の劣化と改革疲れをもたらし、教育の質の歪みと低下を招きかねない。
 第2は、①→②→③と進むにつれ、改革の基調に質的変化が起こったこと。①の基調は大学の使命の確認と教育の質向上・質保証を図る点にあった。ところが②は、①が提言した(大学の自主性に基づく)機能別分化論を踏襲して「能動的学修」の促進など教育の充実を求めたが、その一方で、教育課程・方法等に関わる「学士力」の形成と成績評価の厳格化など成果主義・評価主義の傾向を強め、個々の大学や教員の自主性と創意工夫を制約する傾向を強めた。③はその傾向をさらに強め、高大接続「新テスト」、「人間力」(内閣府)や「社会人基礎力」(経済産業省)も含む能力形成、全学的教学マネジメント改革と「大学ポートレート」による情報公開、ガバナンス改革と財政支援の「メリハリある配分」等を進めるという。
 こうした基調変化には次の二点で問題がある。①大学の経営と教育への市場的・行政的・技術的統制を強め、「緩やかな連結looselycoupling」のメリットを狭める点②個々の大学や教員の自律性・自主性と創意工夫を制約し、教育の矮小化をもたらしかねない点。大学は目標・方法の多様性と各部局の特徴等の故に経営面でも教育面でも「緩やかな連結」を特徴とする。高大接続も雇用市場との接続もタイトにしようとすると、適切性・通用性や柔軟性と質の低下を招く。
 筆者は9年前に海外のジャーナルに"Change or Reform”と題する小論を寄稿し好評を得た。その趣旨は〈改革が次々と進められているが、学校・大学や教員が適切かつ有効に対応しなければならないのは実質的な変化に対してであって、無用・有害な改革に対してではない〉という点にあった。上記のような弊害を回避するためにも、大学の自律性・自主性を尊重し、各大学と教員の「誠実かつ適切な経営・教育の改善と実践」に委ね、それを支援することが重要であろう。


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