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第65回 東京外国語大学 立石 博高 第12代学長
2015/04/13
真の多言語グローバル人材の育成を目指して
東京外国語大学 第12代学長
立石 博高
大学のグローバル化が盛んな昨今において、戦前から日本の語学教育の先導的役割を担い、大学の国際化に貢献してきた東京外国語大学(東京都府中市)。
同大は、文部科学省平成26年度「スーパーグローバル大学創成支援」事業において、「グローバル化牽引型」として採択されるなど、深化・発展を遂げてき た。2023年に大学創立150周年を控え、学期制の変更など、さまざまな取り組みで改革を推し進める同大について、立石博高学長にお話をうかがった。
スーパーグローバル大学として
日本の国際化を牽引
―独自の取り組み「スーパーグローバル大学構想」についてお聞かせください。
私が学長を務める任期期間において、必ず実行すべき課題として「TUFS アクションプラン2013-2017」を立ち上げました。この方針に基づいた項目を立てて、大学として実現すべき課題を「スーパーグローバル大学構想」の グランド・デザインとして改めて掲げたのです。
そうした取り組みが評価され、昨年、文部科学省より平成26年度「スーパーグローバル大学創成支援」事業に採択されました。
その具体的な施策内容として、「世界から日本へ、日本から世界へ」をスローガンとし、基本となる三つの柱を採り決めました。一つ目は「真のグローバル人材 を養成する」ということ。具体的には1人2回以上の留学経験を推奨する「留学200%」です。そして、現状600 人程度の海外からの留学生数を、10年後には2倍にしたいと考えています。
加えて二つ目は、本学と提携する海外協定校に「日本語教育・日本教 育」の拠点となる「Global Japan Office」を設置し、日本に関する教育活動の拠点としていきます。現在はミャンマーの「ヤンゴン大学オフィス」と台湾の「淡江大学オフィス」が開設さ れていますが、10年後には38拠点に拡大していく予定です。
こうした活動を通じて、海外協定校との教育連携を強化し、さまざまな提携を進めて いきたいと考えています。その一つに世界の留学先大学との単位互換制度の充実があります。現状、本学の留学希望者は休学などの措置を取って長期留学を果た している者も多いことから、そういったことがないよう、海外協定校との単位互換や短期留学プログラムの充実を図り、学生の負担が少なくなるよう制度を整え ていく予定です。そのための対策の一つとして海外協力校との多様な「Joint Education Program」を充実させていきます。これによって、本学の教育課程の中に海外留学をしっかりと組み込んでいくことが可能となってくるのです。
また、4月からは「TUFSクォーター制」という、1年を4つの学期に分ける教育システムを導入しました。従来の春・秋の2学期に加え、夏と冬の2学期を 設置し、学びやすい環境を整えました。また、春と秋学期には、少人数教育を中心に演習や実習などを通じて、じっくり学問を学ぶことが可能となりました。
一方、夏・冬学期では、あえて必修の授業を置かず、学生の興味に応じた科目の履修や、海外への留学、新しい言語習得への挑戦、海外や国内のインターンシップ、ボランティア活動など、さまざまなことに挑戦が可能となります。
―大学教育として目指す方向性は「多言語グローバル人材」とうかがいました。
言語能力だけでなく、その国の文化や歴史的背景、現状置かれている社会情勢など、さまざまな事柄を俯瞰できる「真の多言語グローバル人材」の育成に向け て、大きな大学改革を推し進めています。本学の成り立ちは近代国家の言語教育に基づいた文化理解などが教育の根幹にあります。戦時中はツールとしての言語 教育が求められるなど、時代に応じて教育の在り方そのものを変えてきた経緯はありますが、基本である「Foreign Studies」といった概念は変わりません。
これらの教育内容を充実させることで、異文化理解や学術的な語学研究に加え、ビジネスや国際貿易などの現場において活用できる実用的な語学力を高めていくことが可能となります。この二つがうまく融合した教育カリキュラムが現在の本学の強みとなっています。
また、こうしたプランを実行する上で欠かせないのが一定数の留学生の確保と、それに伴った資金援助です。これまでは寄付資金の「国際教育支援基金」を用い て学資支援を行っていましたが、先々の計画を考えるとそれだけでは十分にフォローができないと分かりました。そこで、建学150 周年を迎えることを契機に、2023 年を目標に「建学150 周年基金」を立ち上げ、10億円程度の寄付金を募っています。こうした目標を達成するために欠かせないのが、卒業生とのネットワークです。世界中に存在す る卒業生のつながりを活かし、国内外の卒業生に向けて協力してもらうよう、メッセージを発信しています。
―「日本の大学のグローバル化を支援すること」を目標に掲げていらっしゃいます。
本学だけにとどまらず、他大学のグローバル化を推進することも本学の役割であると認識しています。その一つが留学生の相談に応じる「留学支援室」の存在で す。現在は「TUFS 留学支援共同利用センター」という名称に変え、留学生の送り出しと受け入れをスムーズに行えるように務めています。
また、「共同利用」の名が示す通り、本学に限らず、近隣大学に在籍する留学生が利用できるように仕組みを整えています。具体的には、留学生の母国語による相談対応がメインになります。英語や中国語、韓国語などはもちろん、少数派の言語であっても対応が可能です。
学生数が減少し、大学ごとの学生獲得が激しくなっている状況ではありますが、国際社会を目指していく上で、他大学と協働してグローバル化に取り組んでいくことは大きな意義を持っていると感じています。
その意味では、「多摩アカデミックコンソーシアム」や「全国外大連合」などはその最たる例でしょう。加えて、最近では、東京農工大学(東京都府中市)や電 気通信大学(東京都調布市)、日本体育大学(東京都世田谷区)などの他分野を専門とする大学とも個別協定を結んでおり、それぞれの学びを活かした学問を展 開する予定です。いずれの大学とも、本学の持つ外国語教育の強みを活かしてさまざまな展開をしていくことを考えています。
異文化理解と多文化共生を学び
インターカルチュラリティを身につける
―大学としてこれから目指す方向性をご披露ください。
グローバル化が進展する現代において、さまざまな文化が衝突し、軋轢を生み出しています。こうした現状から、文化的多様性を尊重することを目的とした「イ ンターカルチュラリティ」という考え方が注目されています。本学では、この考え方を学生に身につけてもらうために、スローガンとして掲げ、教育カリキュラ ムの中に取り入れています。
現代の日本において「日本」を強調する方々は世界で起こっている出来事や現状をしっかりと理解していないことが少な くありません。ですから、国家単位あるいは地域単位を越えた文化間の相互理解や異文化理解が重要となってくるのです。「世界を知る」という学びに立ち返っ た際に、まず必要なことは自国である日本を知ることなのです。高校までの授業では日本史と世界史が別々に行われていますが、歴史学の観点から見れば、両科 目は本来、同一で学ぶべき内容です。その意味でも、世界のみならず、日本の言語・文化・社会を改めて教育研究できる体制を整備し、そのための知の拠点を作 ることが本学の使命であると考えています。
―最後に高等学校の先生方にメッセージをお願い致します。
開学当初の本学は外国語学 部の1 学部で構成されていましたが、時代が変わり、大学教育に求められるニーズが変わっていく中で、2 学部に改編しました。そして、国際ビジネスの場で活躍する人材育成と、国際的教養を持った国際職業人の育成を掲げ、カリキュラムそのものを深化・発展させ てきたのです。
また、学生募集は国内のみならず、海外からの受験者も受験しやすい入試を検討しています。加えて、文部科学省が支援する「国費留 学」に関する優先配置校として本学は選定されていますので、これまで以上に世界中から学生が集まってくるでしょう。変化が続く現代において、世界中でさま ざまな出来事が起こり、社会構造そのものが大きく変わっています。当然、社会が求める人材の在り方も様変わりしていますので、大学教育はより一層の改革が 求められているのです。
そういった意味では、高等学校の進路指導においても、現在の社会情勢や大学の在り方などを含みながら、大きな視点に立って、生徒のみなさんを導いて欲しいと思います。高大接続の視点を持って今後も邁進して参ります。
東京外国語大学 第12代学長
立石 博高
大学のグローバル化が盛んな昨今において、戦前から日本の語学教育の先導的役割を担い、大学の国際化に貢献してきた東京外国語大学(東京都府中市)。
同大は、文部科学省平成26年度「スーパーグローバル大学創成支援」事業において、「グローバル化牽引型」として採択されるなど、深化・発展を遂げてき た。2023年に大学創立150周年を控え、学期制の変更など、さまざまな取り組みで改革を推し進める同大について、立石博高学長にお話をうかがった。
スーパーグローバル大学として
日本の国際化を牽引
―独自の取り組み「スーパーグローバル大学構想」についてお聞かせください。
私が学長を務める任期期間において、必ず実行すべき課題として「TUFS アクションプラン2013-2017」を立ち上げました。この方針に基づいた項目を立てて、大学として実現すべき課題を「スーパーグローバル大学構想」の グランド・デザインとして改めて掲げたのです。
そうした取り組みが評価され、昨年、文部科学省より平成26年度「スーパーグローバル大学創成支援」事業に採択されました。
その具体的な施策内容として、「世界から日本へ、日本から世界へ」をスローガンとし、基本となる三つの柱を採り決めました。一つ目は「真のグローバル人材 を養成する」ということ。具体的には1人2回以上の留学経験を推奨する「留学200%」です。そして、現状600 人程度の海外からの留学生数を、10年後には2倍にしたいと考えています。
加えて二つ目は、本学と提携する海外協定校に「日本語教育・日本教 育」の拠点となる「Global Japan Office」を設置し、日本に関する教育活動の拠点としていきます。現在はミャンマーの「ヤンゴン大学オフィス」と台湾の「淡江大学オフィス」が開設さ れていますが、10年後には38拠点に拡大していく予定です。
こうした活動を通じて、海外協定校との教育連携を強化し、さまざまな提携を進めて いきたいと考えています。その一つに世界の留学先大学との単位互換制度の充実があります。現状、本学の留学希望者は休学などの措置を取って長期留学を果た している者も多いことから、そういったことがないよう、海外協定校との単位互換や短期留学プログラムの充実を図り、学生の負担が少なくなるよう制度を整え ていく予定です。そのための対策の一つとして海外協力校との多様な「Joint Education Program」を充実させていきます。これによって、本学の教育課程の中に海外留学をしっかりと組み込んでいくことが可能となってくるのです。
また、4月からは「TUFSクォーター制」という、1年を4つの学期に分ける教育システムを導入しました。従来の春・秋の2学期に加え、夏と冬の2学期を 設置し、学びやすい環境を整えました。また、春と秋学期には、少人数教育を中心に演習や実習などを通じて、じっくり学問を学ぶことが可能となりました。
一方、夏・冬学期では、あえて必修の授業を置かず、学生の興味に応じた科目の履修や、海外への留学、新しい言語習得への挑戦、海外や国内のインターンシップ、ボランティア活動など、さまざまなことに挑戦が可能となります。
―大学教育として目指す方向性は「多言語グローバル人材」とうかがいました。
言語能力だけでなく、その国の文化や歴史的背景、現状置かれている社会情勢など、さまざまな事柄を俯瞰できる「真の多言語グローバル人材」の育成に向け て、大きな大学改革を推し進めています。本学の成り立ちは近代国家の言語教育に基づいた文化理解などが教育の根幹にあります。戦時中はツールとしての言語 教育が求められるなど、時代に応じて教育の在り方そのものを変えてきた経緯はありますが、基本である「Foreign Studies」といった概念は変わりません。
これらの教育内容を充実させることで、異文化理解や学術的な語学研究に加え、ビジネスや国際貿易などの現場において活用できる実用的な語学力を高めていくことが可能となります。この二つがうまく融合した教育カリキュラムが現在の本学の強みとなっています。
また、こうしたプランを実行する上で欠かせないのが一定数の留学生の確保と、それに伴った資金援助です。これまでは寄付資金の「国際教育支援基金」を用い て学資支援を行っていましたが、先々の計画を考えるとそれだけでは十分にフォローができないと分かりました。そこで、建学150 周年を迎えることを契機に、2023 年を目標に「建学150 周年基金」を立ち上げ、10億円程度の寄付金を募っています。こうした目標を達成するために欠かせないのが、卒業生とのネットワークです。世界中に存在す る卒業生のつながりを活かし、国内外の卒業生に向けて協力してもらうよう、メッセージを発信しています。
―「日本の大学のグローバル化を支援すること」を目標に掲げていらっしゃいます。
本学だけにとどまらず、他大学のグローバル化を推進することも本学の役割であると認識しています。その一つが留学生の相談に応じる「留学支援室」の存在で す。現在は「TUFS 留学支援共同利用センター」という名称に変え、留学生の送り出しと受け入れをスムーズに行えるように務めています。
また、「共同利用」の名が示す通り、本学に限らず、近隣大学に在籍する留学生が利用できるように仕組みを整えています。具体的には、留学生の母国語による相談対応がメインになります。英語や中国語、韓国語などはもちろん、少数派の言語であっても対応が可能です。
学生数が減少し、大学ごとの学生獲得が激しくなっている状況ではありますが、国際社会を目指していく上で、他大学と協働してグローバル化に取り組んでいくことは大きな意義を持っていると感じています。
その意味では、「多摩アカデミックコンソーシアム」や「全国外大連合」などはその最たる例でしょう。加えて、最近では、東京農工大学(東京都府中市)や電 気通信大学(東京都調布市)、日本体育大学(東京都世田谷区)などの他分野を専門とする大学とも個別協定を結んでおり、それぞれの学びを活かした学問を展 開する予定です。いずれの大学とも、本学の持つ外国語教育の強みを活かしてさまざまな展開をしていくことを考えています。
異文化理解と多文化共生を学び
インターカルチュラリティを身につける
―大学としてこれから目指す方向性をご披露ください。
グローバル化が進展する現代において、さまざまな文化が衝突し、軋轢を生み出しています。こうした現状から、文化的多様性を尊重することを目的とした「イ ンターカルチュラリティ」という考え方が注目されています。本学では、この考え方を学生に身につけてもらうために、スローガンとして掲げ、教育カリキュラ ムの中に取り入れています。
現代の日本において「日本」を強調する方々は世界で起こっている出来事や現状をしっかりと理解していないことが少な くありません。ですから、国家単位あるいは地域単位を越えた文化間の相互理解や異文化理解が重要となってくるのです。「世界を知る」という学びに立ち返っ た際に、まず必要なことは自国である日本を知ることなのです。高校までの授業では日本史と世界史が別々に行われていますが、歴史学の観点から見れば、両科 目は本来、同一で学ぶべき内容です。その意味でも、世界のみならず、日本の言語・文化・社会を改めて教育研究できる体制を整備し、そのための知の拠点を作 ることが本学の使命であると考えています。
―最後に高等学校の先生方にメッセージをお願い致します。
開学当初の本学は外国語学 部の1 学部で構成されていましたが、時代が変わり、大学教育に求められるニーズが変わっていく中で、2 学部に改編しました。そして、国際ビジネスの場で活躍する人材育成と、国際的教養を持った国際職業人の育成を掲げ、カリキュラムそのものを深化・発展させ てきたのです。
また、学生募集は国内のみならず、海外からの受験者も受験しやすい入試を検討しています。加えて、文部科学省が支援する「国費留 学」に関する優先配置校として本学は選定されていますので、これまで以上に世界中から学生が集まってくるでしょう。変化が続く現代において、世界中でさま ざまな出来事が起こり、社会構造そのものが大きく変わっています。当然、社会が求める人材の在り方も様変わりしていますので、大学教育はより一層の改革が 求められているのです。
そういった意味では、高等学校の進路指導においても、現在の社会情勢や大学の在り方などを含みながら、大きな視点に立って、生徒のみなさんを導いて欲しいと思います。高大接続の視点を持って今後も邁進して参ります。
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