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第3回 意味ある入試改革を

2015/06/17

連載 社会の地殻変動と大学

第3回 意味ある入試改革を

金子 元久
 

 入試改革の議論が進んでいるが、新しい接続体制が、日本の社会と教育に意味を持ち得るか否かは、大学および高校、そして政策がどのように機能するかにかかっている。
 第一に大学にとって高大接続は入試の問題であると同時に、入学希望者の確保の問題でもある。また入学試験の受験者を多く獲得し、受験倍率を高く見せることが、大学の社会的な威信、評判につながる。それが、入試の種類・期日を多く設定する行動につながってきた。
 他方で学力不問の選抜が、大学内部での教育困難を生じさせてきたことも事実である。また同時に入試の種類・期日が多いことが、試験実施の負担を重くしてきた。試験問題の作成、採点を大学内部だけでは負担できない場合もある。将来に向かって、大学教育の質がさらに厳しく問われることになれば、こうした潜在的な問題が顕在化し、それにいかに対処するかが、大学自身にとって大きな問題となってくる。新しい接続体制における「基礎テスト」「進学希望者テスト」が幅広い学力を測定するのに十分な内容を持つものとなれば、それを活用することは個々の大学にとっても重要なメリットを持つことになるはずである。大学の決断が求められる。
 同時に個々の大学が設定する選抜は、大学の特性に応じて、大学の教育に最も適合する入学者を選ぶ、という観点から、常に検証を行うことが求められる。
 第二に高校にとっても課題は大きい。選抜制による序列づけと、1990 年代からの多様化政策の中で、高校教育全体としてどのような役割を果たすべきか、という視点からの議論が十分に行われてきたとはいえない。
 また学力・能力を幅広くとらえることが求められるとすると、個々の授業がどのような形で、そうした学力・能力の形成に関わるかが、非常に重要な問題となることはいうまでもない。
 それにどのように取り組むかは、高校の教育課程、指導要領の設計だけの問題ではない。むしろ個々の教科、科目の授業を、具体的にどのような形で進めるかが問われる。また個々の授業を超えた教育の体制をどう形成するかも重要な問題である。いずれにしても個々の高校、大学教員の自発的な取り組みと、それを地方、全国レベルで整理する体制が必要となってくる。
 第三に、以上の点からいっても政策・行政の課題は大きい。高大接続の改革は、単にセンター試験の手直しにとどまるのではなく高校教育、大学教育の改革、さらには日本の国民教育の基本的な枠組みの改革につながることからいってもそれは当然であろう。
 具体的な焦点となるのは、「基礎テスト」「進学希望者テスト」「個別選抜」の三層からなる接続体制に、いかにして大学を組みこむか、という点である。個々の大学の自主性を尊重するのと同時に、一定の誘導を行う必要があるかもしれない。
 また個々の大学にとっては入学者選抜を見直すことは、容易ではない。特に入学者選抜の方法の評価と、開発には技術的な問題も含まれる。こうした点で個々の大学を支援する仕組みを作ることも求められる。
 こうしてみると新しい高大接続体制が、所期の目的を果たすには課題が多いことが明らかである。その意味で、さらに環境の熟すのを待つべきだという議論もある。
 しかしこの課題を放置することは考えられない。ここ数年間、ほぼ120 万人程度で推移してきた18歳人口は2020 年頃を境として再び減少し始める。今、改革への具体的な準備を始めなければ、現在の接続体制の矛盾はさらに深化することになる。
 急速に変化しつつある国際社会の中で、日本が活力のある社会となっていくための変換を遂げるための猶予期間はもはや長くない。高大接続体制の転換はそうした過程の一つの、しかし重要な環となっている。議論を前に進め、具体的な改革に結びつけることが求められている。 

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