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第5回 大学選択はどう変わるか(2)

2015/09/12

連載 社会の地殻変動と大学

第5回 大学選択はどう変わるか(2)

金子 元久

 前回の本欄では、かつては決定的な影響力を持った学力選抜の力が相対化し、意欲や大学の個性の役割が重要な意味を持ってきたことを述べた。今回は高校生の意欲について考えてみたい。
 高校生が大学への進学を考える時に、まず将来に何をしたいと考えているかが、重要であることは当然と言えよう。こうした背景から、高校でも大学でも「キャリア教育」の重要性が唱えられ、またそれを目的とした授業も行われている。また今回の入試改革でも個人の「意欲」を入学者選抜の重要な視点とすることがうたわれている。
 しかし高校生が将来の展望を明確に持ち、それへの階梯として大学を選択する、という構図は、皮肉なことに今、むしろ実現しにくくなっているのではないだろうか。
 人間の長い歴史を振り返ってみると、ごく最近まで若者は一定の「身分」に生まれつき、その将来は生まれた時から決まっていた。身分という言葉がなくなっても、多くの若者は家業を継ぐことが多かった。
 近代とはそうした制約が取り払われて、若者が新しい機会を得ることができる時代である。しかしそこでも、実は望まれたのは高い生活水準であって、必ずしも具体的な仕事ではない。これは日本のように近代化が急速に起こった国では特に著しい。
 戦後日本では、大卒ホワイトカラーとして、組織に分担された業務をこなしていくことが具体的な仕事になった。モノを作ったり、売買する仕事は、具体的なイメージを持ちやすい。しかしそれも、多くは大きな組織の中に取り込まれる。
 しかも1990 年代以降の日本では、製造業はもはや最大の産業ではなくなった。最近の大卒の就職先の産業を見ると、すでに半数近くが「サービス業」に就職している。しかしそれは実は極めて多様な業種の集まりでしかない。
 こうした状況の中では、高校生が具体的な将来の職業について具体的なイメージを持ち、選択することは極めて難しい。しかも仕事自体はますます多様化するだけでなく、流動化しているのである。
 では高校生はどのように将来を考え、大学を選んでいるのか。私は大きく分けて三つのタイプがあると考える。
 第一は、具体的な職業のイメージがあり、それに従って大学を選択する場合である。典型的なのは、将来、医師や看護師、薬剤師など医療関連の職業に就くことを考え、そのための資格を得ることができる大学を選ぶ場合である。あるいはまた教師を志し、関連する学部を選ぶ学生もこれに入る。
 ただしこうした学生は、必ずしも大多数ではない。私どもが行った高校生、大学生調査(注)の結果から考えると、大学入学者の2割程度だろう。
 第二のタイプは、高校までの勉強の中で、何らかの好きな科目や分野ができて、それをもとに大学を選択する場合である。数学や理科が好きであったり、あるいは不得意でなかったりする高校生が工学部や理学部を選ぶ。あるいは英語が好きな学生が、関連する大学を選ぶのがこれにあたる。
 第三のタイプは、いずれにもあてはまらないタイプだ。特定の職業を志望しているわけでもなく、特に何かの教科が好きというわけでもない。むしろ大学に入ってそれを見つけようとしている、とも言える。このタイプは着実に増えているし、それが悪いとは私は思わない。前述のような状況を考えれば、大学入学までに無理やりに将来を選択させようというほうが間違っている。
 しかし他方、こうした選択は、大学で学ぶ意欲につながりにくい、従って大学教育を利用することを難しくすることも事実である。
 こうした学生を含めて、育てていく大学をどう作るか、またそれをどう選ぶかが課題となるのである。

 

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