トップページ > トップインタビュー > 第67回 東北大学 里見進 第21代総長
第67回 東北大学 里見進 第21代総長
2016/05/30
「ワールドクラスへの飛躍」と「復興・新生の先導」を目指して
東北大学 里見進 第21代総長
1907年(明治40年)に、日本で3番目の帝国大学として開学した東北大学(仙台市)。「研究第一」、「門戸開放」、「実学尊重」の三つの理念を基に、数多くの研究成果を創出し、平和で公正な人類社会の発展に大きく貢献をしてきた。現在、文系4学部、理系6学部と16の大学院および三つの専門職大学院を有する国内トップレベルの総合大学として、グローバルリーダーとなれる人材の育成を行っている。同大が実践する数々の取り組みを牽引する里見進総長を訪ね、今後のビジョンについてうかがった。
研究中心大学として
人類社会の持続的発展に貢献
―東北大学グローバルビジョン(里見ビジョン)の進捗についてお聞かせください。
私が総長としての任期中に目指すべき本学のあるべき姿(七つのビジョン)とその実現の柱となる施策やその工程表を示したものを「里見ビジョン」として策定しました。
具体的には、教育、研究、震災復興、産学連携、社会連携、キャンパス環境、そして大学経営の七つの項目を念頭に取りまとめたものです。
その中から、いくつかポイントを絞ってお話します。まず、教育面ですが、グローバルリーダーを育成するための教養教育の充実を核とする教育改革を進めてきました。
それは学士課程から博士課程までのレベルに合わせた高度な教養教育プログラムを構築するもので、これまでの教養教育の組織を見直し、統合しながらも教員を増やし内容の充実を図ってきました。現在では学生がグローバルリーダーとして必要な能力を身につけることができる環境を提供することが可能となりました。
それらは①専門力②鳥瞰力③問題発見・解決力④異文化・国際理解力⑤コミュニケーション力⑥リーダーシップ力の六つのキイ・コンピテンシーと呼ばれるもので、教育活動を通じて知識や技能だけでなく、具体的な課題に対応し、解決するために必要な能力を意味します。
そしてグローバル人材養成のための学修支援として、多様な海外・研修留学プログラムの実施や海外大学との連携強化、そして海外からの留学生受け入れ促進を強化し、双方向での教育の国際化を目指しています。また、海外留学をする学生に対する渡航一時金や奨学金を支給する「東北大学基金グローバル萩海外留学奨励賞」や留学生と日本人学生が同居する寮施設「ユニバーシティ・ハウス」など、海外留学への支援や学内での異文化交流のための環境整備も進めています。
2014年に文部科学省が主導する「スーパーグローバル大学創成支援」の「トップ型」に本学のプログラムが採択されたことも“グローバルキャンパス”としての環境充実に大きく寄与しています。
―研究面での充実も急務とお考えであるとうかがいました。
東北大学のビジョンとして、教育と同等以上に本学が有する資源を注力すべきは研究面に対してであると位置づけています。世界の大学と伍して戦っていくには、多彩な研究力を引き出す環境・支援体制の整備が必要不可欠です。
そのためには、新たな発想で改革に臨む必要があります。実際、学部や研究科の専門性が高いが故に縦割りになりがちな組織の習性を逆にメリットと変えるようなドラスティックな改革を進めています。
世界から優れた研究者が集う場を創り出すために国際的、戦略的視点から学内全体を見渡し、部局間の調整と調和を図りつつ創造的なプロジェクトを学内各組織が連携して支援する体制を構築しています。こうした「研究第一」の本学の理念に基づく実践は、世界的な情報サービス企業、トムソンロイター社(本社アメリカ・ニューヨーク州)の調査(2015 年4月)による「高被引用論文数ランキング」国内研究機関トップ5にランクされたことでも実証されています。
―今後の課題はありますか?
これは、本学だけでなく日本の大学界全体に共通する問題でもありますが、若手研究者に対する支援の充実を図ることが挙げられます。
東北大学では学問に対する研究意欲の高い大学院生を支援するために、経済的支援を行い研究が継続できる環境を整備しています。しかし、執行できる予算の限界もあり限定的な支援となっているのが現実です。また、各研究科でも若手の研究者を育成することが予算の問題から難しくなってきています。
そこで本部直轄で学際科学フロンティア研究所に50人規模の若手研究者を所属させて5年間自由に研究させるために給与を支給するシステムも構築しました。この制度は世界中から公募をしましたのでかなりの高倍率となっています。
―大学院教育の重要性は日本ではあまり認識されていないようです。
本学では理系を中心に学部から大学院に進学する学生が多い現状を踏まえ、世界水準の研究成果を上げていくためにも大学院での教育を非常に重要視しています。ところが日本の場合、大学院に進学したいと思わせる環境がいまだ充分に整備されていません。経済的な問題を解消して大学院生を増やし安心して研究に打ち込めるようにするのは社会全体の責務であり、今後の日本の発展のために喫緊の課題であると考えています。
日本の企業が新卒者を採用する場合、まだ学部生が中心ですが、今後は大学院生の採用に注力すべきです。最近では日本企業のトップも海外企業には博士号を持つ経営幹部が多い現状を認識してきていますので、大学院生の活用により前向きになることを期待しています。
本学が進めている教育と研究の戦略的構想は、世界水準を目指すものであり、人類社会の発展に大きく貢献できるものと確信しています。
「東北復興・日本新生の先導」への実践的取り組み
―東日本大震災当時は、東北大学病院長として、被災者救援の指揮を執られたとうかがいました。
震災当時、私たちの医療施設も甚大な被害を受けましたが、医療に携わる者として、被災者の救援は当然のこととして全力を尽くしました。
ご承知のように、東日本大震災は東北地方に非常に大きな傷跡を残しました。東北大学は被災地の中心にある総合大学として、復興に全力を傾ける使命があると考えます。
震災発生後直ちに被災地に入り、地震・津波の被害状況を調査し、医療活動等に奮闘する中、震災の翌月には「東北大学災害復興新生研究機構」という組織を立ち上げました。これは、震災からの復興に寄与する研究・教育・社会貢献を実践するために、現在八つのプロジェクトと「復興アクション100+(プラス)」をその取り組みとして展開しています。
―東北の復興には若い力が必要ですね。
まさにその通りです。最初に申し上げましたが、本学では六つのコンピテンシーを身につけることができる教育環境を整えています。 さまざまな困難に対して前向きに対応できる人材を養成していくことで、東北の復興のみならず、日本の発展に貢献していくことが責務です。
本学に入学を希望する高校生にも、高い志と柔軟な発想を持っていただきたいと思います。
―貴学でAO入試を積極的に導入・実施しているのはそのような生徒に入学してもらうため
でしょうか?
多様な生徒が集まることにより、大学は活性化します。社会に広く関心を持ち、問題解決能力の素地のある方に受験してもらいたいですね。実際、AO入試で入学した学生の追跡調査と分析をしていますが、特にAO入試Ⅱ期で選抜された学生の成長は頼もしいものがあり、AO入試制度の成果には確信を持っています。本学のAO入試は学力と人間力を合わせて評価をしていますので、むしろ一般入試よりハードルが高いかも知れません。
地域創生から世界水準の研究まで、さまざまなフィールドで活躍できる人材を育てていくこ
と、それが私たちの使命であり大学人としての思いです。
これからも東北大学で学びたいという強い意欲を持った多くの高校生に入学を果たしていただきたいですね。
東北大学 里見進 第21代総長
1907年(明治40年)に、日本で3番目の帝国大学として開学した東北大学(仙台市)。「研究第一」、「門戸開放」、「実学尊重」の三つの理念を基に、数多くの研究成果を創出し、平和で公正な人類社会の発展に大きく貢献をしてきた。現在、文系4学部、理系6学部と16の大学院および三つの専門職大学院を有する国内トップレベルの総合大学として、グローバルリーダーとなれる人材の育成を行っている。同大が実践する数々の取り組みを牽引する里見進総長を訪ね、今後のビジョンについてうかがった。
研究中心大学として
人類社会の持続的発展に貢献
―東北大学グローバルビジョン(里見ビジョン)の進捗についてお聞かせください。
私が総長としての任期中に目指すべき本学のあるべき姿(七つのビジョン)とその実現の柱となる施策やその工程表を示したものを「里見ビジョン」として策定しました。
具体的には、教育、研究、震災復興、産学連携、社会連携、キャンパス環境、そして大学経営の七つの項目を念頭に取りまとめたものです。
その中から、いくつかポイントを絞ってお話します。まず、教育面ですが、グローバルリーダーを育成するための教養教育の充実を核とする教育改革を進めてきました。
それは学士課程から博士課程までのレベルに合わせた高度な教養教育プログラムを構築するもので、これまでの教養教育の組織を見直し、統合しながらも教員を増やし内容の充実を図ってきました。現在では学生がグローバルリーダーとして必要な能力を身につけることができる環境を提供することが可能となりました。
それらは①専門力②鳥瞰力③問題発見・解決力④異文化・国際理解力⑤コミュニケーション力⑥リーダーシップ力の六つのキイ・コンピテンシーと呼ばれるもので、教育活動を通じて知識や技能だけでなく、具体的な課題に対応し、解決するために必要な能力を意味します。
そしてグローバル人材養成のための学修支援として、多様な海外・研修留学プログラムの実施や海外大学との連携強化、そして海外からの留学生受け入れ促進を強化し、双方向での教育の国際化を目指しています。また、海外留学をする学生に対する渡航一時金や奨学金を支給する「東北大学基金グローバル萩海外留学奨励賞」や留学生と日本人学生が同居する寮施設「ユニバーシティ・ハウス」など、海外留学への支援や学内での異文化交流のための環境整備も進めています。
2014年に文部科学省が主導する「スーパーグローバル大学創成支援」の「トップ型」に本学のプログラムが採択されたことも“グローバルキャンパス”としての環境充実に大きく寄与しています。
―研究面での充実も急務とお考えであるとうかがいました。
東北大学のビジョンとして、教育と同等以上に本学が有する資源を注力すべきは研究面に対してであると位置づけています。世界の大学と伍して戦っていくには、多彩な研究力を引き出す環境・支援体制の整備が必要不可欠です。
そのためには、新たな発想で改革に臨む必要があります。実際、学部や研究科の専門性が高いが故に縦割りになりがちな組織の習性を逆にメリットと変えるようなドラスティックな改革を進めています。
世界から優れた研究者が集う場を創り出すために国際的、戦略的視点から学内全体を見渡し、部局間の調整と調和を図りつつ創造的なプロジェクトを学内各組織が連携して支援する体制を構築しています。こうした「研究第一」の本学の理念に基づく実践は、世界的な情報サービス企業、トムソンロイター社(本社アメリカ・ニューヨーク州)の調査(2015 年4月)による「高被引用論文数ランキング」国内研究機関トップ5にランクされたことでも実証されています。
―今後の課題はありますか?
これは、本学だけでなく日本の大学界全体に共通する問題でもありますが、若手研究者に対する支援の充実を図ることが挙げられます。
東北大学では学問に対する研究意欲の高い大学院生を支援するために、経済的支援を行い研究が継続できる環境を整備しています。しかし、執行できる予算の限界もあり限定的な支援となっているのが現実です。また、各研究科でも若手の研究者を育成することが予算の問題から難しくなってきています。
そこで本部直轄で学際科学フロンティア研究所に50人規模の若手研究者を所属させて5年間自由に研究させるために給与を支給するシステムも構築しました。この制度は世界中から公募をしましたのでかなりの高倍率となっています。
―大学院教育の重要性は日本ではあまり認識されていないようです。
本学では理系を中心に学部から大学院に進学する学生が多い現状を踏まえ、世界水準の研究成果を上げていくためにも大学院での教育を非常に重要視しています。ところが日本の場合、大学院に進学したいと思わせる環境がいまだ充分に整備されていません。経済的な問題を解消して大学院生を増やし安心して研究に打ち込めるようにするのは社会全体の責務であり、今後の日本の発展のために喫緊の課題であると考えています。
日本の企業が新卒者を採用する場合、まだ学部生が中心ですが、今後は大学院生の採用に注力すべきです。最近では日本企業のトップも海外企業には博士号を持つ経営幹部が多い現状を認識してきていますので、大学院生の活用により前向きになることを期待しています。
本学が進めている教育と研究の戦略的構想は、世界水準を目指すものであり、人類社会の発展に大きく貢献できるものと確信しています。
「東北復興・日本新生の先導」への実践的取り組み
―東日本大震災当時は、東北大学病院長として、被災者救援の指揮を執られたとうかがいました。
震災当時、私たちの医療施設も甚大な被害を受けましたが、医療に携わる者として、被災者の救援は当然のこととして全力を尽くしました。
ご承知のように、東日本大震災は東北地方に非常に大きな傷跡を残しました。東北大学は被災地の中心にある総合大学として、復興に全力を傾ける使命があると考えます。
震災発生後直ちに被災地に入り、地震・津波の被害状況を調査し、医療活動等に奮闘する中、震災の翌月には「東北大学災害復興新生研究機構」という組織を立ち上げました。これは、震災からの復興に寄与する研究・教育・社会貢献を実践するために、現在八つのプロジェクトと「復興アクション100+(プラス)」をその取り組みとして展開しています。
―東北の復興には若い力が必要ですね。
まさにその通りです。最初に申し上げましたが、本学では六つのコンピテンシーを身につけることができる教育環境を整えています。 さまざまな困難に対して前向きに対応できる人材を養成していくことで、東北の復興のみならず、日本の発展に貢献していくことが責務です。
本学に入学を希望する高校生にも、高い志と柔軟な発想を持っていただきたいと思います。
―貴学でAO入試を積極的に導入・実施しているのはそのような生徒に入学してもらうため
でしょうか?
多様な生徒が集まることにより、大学は活性化します。社会に広く関心を持ち、問題解決能力の素地のある方に受験してもらいたいですね。実際、AO入試で入学した学生の追跡調査と分析をしていますが、特にAO入試Ⅱ期で選抜された学生の成長は頼もしいものがあり、AO入試制度の成果には確信を持っています。本学のAO入試は学力と人間力を合わせて評価をしていますので、むしろ一般入試よりハードルが高いかも知れません。
地域創生から世界水準の研究まで、さまざまなフィールドで活躍できる人材を育てていくこ
と、それが私たちの使命であり大学人としての思いです。
これからも東北大学で学びたいという強い意欲を持った多くの高校生に入学を果たしていただきたいですね。
[news]