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第3回 進路多様校からの大学進学

2016/07/06

連載 高大接続の理想と現実

第3回 進路多様校からの大学進学

中村高康

 前回は、高校中退者が多数出ている学校からも多くの大学進学者が出るようになっていることを指摘した。それは、言い換えれば、進学校ではない学校においても高大接続を考えざるを得なくなっているということでもある。
 近年では、大学進学者が必ずしも多くない普通科高校や、昔から就職者が多かった専門高校などからも大学進学者が増え、進路が多様になっており、それらを大ぐくりにして「進路多様校」などとも呼んでいる。今回はこの進路多様校からの進学実態について考えてみたい。
 進路多様校からの大学進学者はほぼ確実に増えていると考えて間違いない。分かりやすいのは専門高校のケースであるが、文部科学省のデータを用いた私自身の推計でも、1990年代後半と2000年代後半を比べた場合、5%前後から15%前後まで上昇している。つまり、10年程度のスパンで約3倍も増加しているのである。この連載の第1回でも述べた通り、これまで大学進学とは無縁だった学力層の高校生たちにも、大学の門戸が一気に開かれたと、肯定的に評価することもできるだろう。
 しかし、良い話ばかりではない。進路多様校の高校生たちにとって従来の入試形式、すなわち一発勝負のペーパーテストは必ずしも好まれない。一方、このような高校生たちを迎え入れる私立大学では、定員割れなどがしばしばあるため、顧客のニーズや選好を無視した入試形式はあり得ない。こうして双方の利害が一致した結果、進路多様校からの大学進学のメインルートは、推薦・AO入試という形になったのである。そして、この推薦・AO入試は、現在の大学入試の中心的役割さえ担うようになっている。少なくとも私立大学では、一般入試を経由した入学者はもはや全体の半分以下になっているのである。そして、こうしたシステムが定着したことによる高大接続問題がまさに生じてきている。
 例えば、多くの私立大学で推薦・AO入試を中心に入試を軽量化してきたことが学力不足の大学生を増やした、とする議論はよくなされてきた。ある私立大学が全国のすべての高校に指定校推薦枠をつけたということがニュースになったケースがあったが、指定校推薦は、最近ではずいぶん推薦基準が緩和されたものも多く、かつてのイメージ(学校内で成績が良い生徒が使う制度というイメージ)とは違い、かなり安易な進学を呼び込んでいる場合もある。実際、私がかつて調査していた進路多様校においても、大学進学予定のある高校生に進学のきっかけを尋ねたところ、「たまたま進路指導室の前を通りかかったら、大学の指定校推薦枠が余っていることを知り、そのまま応募して簡単に進学が決まりました」と話してくれた。このような進学者が大量にいるとすれば、これは大学にとっても生徒自身にとっても、望ましいこととは言えないだろう。
 こうした問題は入試制度を調整して解決するようなものではない。進路多様校からの大学進学にはさまざまな面があるが、かつてはなかなか進学できなかった学校の生徒たちにも大学進学のチャンスが広がったという意味で、推薦・AO入試には一定の社会的意味がある。彼らの大学進学をサポートするような機能があると解釈できるからである。ただし、このままでは滑らかに高大接続ができているとは到底言えない。従って、進路多様校の視点から高大接続を議論するのであれば、課題は入試制度ではなく教育面での支援策ではないかと思われる。
 現代の高大接続問題は、大部分のものが高等教育拡大に伴う選抜機能の低下がベースにある。需給バランスを変えられない以上、入試制度を変えても選抜機能の回復は構造的に困難である。しかし、実際には改革論議は入試改革を議論してしまう。問題の背景を見誤らないようにしたいものである。

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