トップページ > トップインタビュー > 第72回 東京女子体育大学 東京女子体育短期大学 理事長 雨宮 忠氏

前の記事 | 次の記事

第72回 東京女子体育大学 東京女子体育短期大学 理事長 雨宮 忠氏

2017/04/20

日本初の女子体育教師養成学校としての伝統と実績
東京女子体育大学 東京女子体育短期大学 理事長 雨宮 忠氏

オリンピックが促進するスポーツ文化の醸成




 学校法人藤村学園 東京女子体育大学・東京女子体育短期大学(東京都国立市)は2017年5月に創立115周年を迎える。同大は1902(明治35)年に日本初の女子体育教師養成学校として創設された。64年に開催された東京オリンピックでは同大の学生が前夜祭でマスゲームを、閉会式では松明の演技を披露したことはいまも語り継がれている。56年の第16回メルボルン大会から多くのオリンピック選手を輩出し、オリンピックと共に歩んできた同大は2020年開催予定の東京大会をゴールではなく一つの通過点として、大学の将来を展望している。今後の構想について学園理事長・雨宮忠氏に話をうかがった。








建学の精神の下、人間的な魅力あふれる女性を育成


―2020年に開催される東京オリンピックは貴学にとってどのような意味を持っていますか?
 本学は本年5月に創立115周年を迎え、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会を経て120周年に至ります。時代の区切り方はいろいろですが、大学の歴史は社会的な動きに連動しています。特に体育大学である本学は、スポーツイベントとの深い関わりを持ってきました。そしてスポーツやスポーツイベントも時代と共に変遷しています。特に競技種目の増加や女性選手の活躍には目を見張るものがあり、私は日頃より「女子スポーツこそ可能性に満ちている」と申し上げています。近年注目を集めるカーリングや女子サッカーに代表されるように、現在は女子選手の存在がスポーツ界全体を活性化する役割を担っていると言えるでしょう。
 また、選手の年齢層の幅も広がってきました。十代が主力の種目も散見されると同時にシニア層の選手が活躍する競技も存在します。もちろんトップアスリートだけではなく、一般の方でも幅広い年齢層でスポーツを楽しむ時代となりました。そして、プロフェッショナルスポーツとアマチュアスポーツの定義も変わりつつあります。そうしたスポーツに関連する環境が大きく変化する中で、オリンピックの在り方も64年と20年の東京大会では大きく様変わりすることでしょう。  
 本学では、3人の選手が体操競技に参加した第16回メルボルン大会から、前夜祭で全学生がマスゲームを披露し、閉会式で松明の踊りを行った64年の東京大会をはじめ、半世紀以上にわたり多くの大会に関わり、在学生や卒業生などが選手として出場。新体操競技で出場した山﨑浩子選手や秋山エリカ選手、ソフトボール競技では佐藤理恵選手がメダルを獲得し、輝かしい実績を挙げてきました。 
 昨年のリオデジャネイロパラリンピックでは、トライアスロン競技のガイドを務めた西山優選手が健闘しました。東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会においても、本学関係者の活躍を大いに期待しています。 
 3年後の東京大会に向けた大学の動きとしては、開催国であることを活用した、さまざまな取り組みが考えられます。競技者としてだけではなく、支援者として関わる試みが多数始動しています。もちろん教育機関だけではなく、社会全体として大会に向けてスポーツムーブメントを起こし、スポーツ全体の底上げを図ることが可能な状況にあると言えるでしょう。
 しかしながら、イベントは一過性となってしまう側面があります。体育大学である本学においてオリンピック・パラリンピックは重要な意味を持っていますが、通過点としての要素を自覚しつつ、得られるメリットを継続することが大切であると考えています。

―最近ではオリンピック・パラリンピックに関わる講座も展開されています。
 本学では、「オリパラ講座」と称するオリンピック・パラリンピックを題材とする講座を通年で開講しています。オリンピック開催時の盛り上がりだけでは、スポーツの社会的な定着は難しいと思います。スポーツを通した人間形成や世界の平和に寄与するというオリンピックの意義を継続して教育に反映させることにより、真のスポーツ文化を醸成していくことが大切です。また、地域でのオリンピック関連イベントに学生ボランティアを派遣したり、「東京2020オリンピック・パラリンピックフラッグツアー」を受け入れる地元自治体とコラボレーションをしたりと、オリンピック開催を契機として地域社会との連携を軸としたスポーツ振興にも積極的に取り組んでいます。もともと本学では地域交流センターを中核として、ボランティア講座や地域の子どもたちへの競技指導をするジュニア・ユースクラブなどの活動を展開してきました。今後はますます地域に開かれた大学としての役割が求められるでしょう。

―貴学の原点である「女性の体育指導者の養成」に変化はありませんか?
 本学園の実質的創設者である藤村トヨは「心身ともに健全で、質素で誠実、礼儀正しい女子体育指導者の育成」を建学の精神として社会に貢献できる教育者の育成に注力してきました。その根幹は変わることはありませんが、社会の需要に応じて、さまざまな分野で活躍できる人材の育成に取り組んでいます。教員やスポーツ関連企業だけではなく、一般企業からも多くの求人が寄せられ幅広い業界で卒業生が活躍しています。それは、本学の人間教育の成果でもあります。挨拶がきちんとできる、人と正面から向き合えるなどのコミュニケーション能力は企業から高い評価を受けています。

―大学改革等、今後の展望についてお聞かせください。
 大学は組織上、改革が難しい部分があります。歴史と伝統が築くアカデミズムは大学という教育・研究を目的とする機関にとって大切なバックボーンです。そうした良い部分を残しつつ、変革を模索していかなければなりません。
 住宅を例に取れば、住み心地が良くても、メインテナンスをしなければ老朽化が進みます。窓を開けて新しい風を入れることも必要です。人に例えれば、動きを与えることで、血流を良くし健康を維持することでしょうか。大学も変化をつけることでそれまでの組織や制度が硬直化しているかどうかが分かります。そういったことに気づく意識が重要なのです。
 本学でも、新たな保育コースの導入や施設整備などを進めていますので、それらを推進する段階で遭遇する改善点を見い出していくことがより良い大学となるための一歩になると確信しています。昨年の12月には4種公認陸上競技場の改修工事が終了しました。そして、本学の隣接地に新たな施設を建設する予定です。
 今後も体育大学としての施設面、教学面でのさらなる充実を図り、学生の成長を支援できる環境を整えていくことで、スポーツを通した社会貢献を図っていきたいと思います。



OGが語る東女体
―115年の伝統の下に―


 東京女子体育大学・東京女子体育短期大学は115年の歴史の中で多くの有為な人材を輩出してきた。
 日本初の女子体育教師養成学校として創設した同大は、良き社会人の育成にも注力し、卒業生はさまざまな分野で活躍をしている。そうした卒業生の近況は同大の同窓会組織である藤栄会の会報から発信されている。また、学内外の関係者に向けて発行されている情報紙『ヘッドライン』のコラム「卒業生だより」には母校への想いを語るメッセージが掲載されている。
 本稿では、直近に発行された同紙から3人の卒業生を紹介する。
 平賀ノブ氏は同大卒業後、中学・高等学校の教員を経て実業家として活躍。仙台商工会議所女性会会長等の要職を歴任してきた。平賀氏は「学生時代に所属した体操競技部で組織の運営方法やチャンスの活かし方を学んだことで、女性起業家としての道を切り開くことができた」と、語った。
 母校である同大の指導者を長年務めた高橋繁美氏は、明治期にドイツに留学し、体操教育を導入した伊澤ヱイ氏(1956年学長就任)の薫陶を受け、同大の舞踏教育に大きな貢献を果たした。ダンス教育一筋に邁進した高橋氏は「伊澤先生の自然運動等の教えを学生たちに伝えることが私の喜びでした」と、振り返った。
 北京パラリンピック日本選手団団長を務めた大久保春美氏は日本の障がい者スポーツ振興に大きく貢献してきた。大久保氏は同大の学生に向け「『障がい』を正しく理解し、できないことに目を向けるのではなくプラス思考で体を動かす楽しさを伝えることのできる指導者になって欲しい」と、エールを送った。
 紹介した3人をはじめ多くの卒業生がさまざまな分野で活躍している。それは女性の感性を活かしながら人間力ある人材育成を行ってきた同大の教育力の証明にほかならない。豊かな社会の実現に貢献する同大の今後の展開に期待したい。

[news]

前の記事 | 次の記事