トップページ > 連載 教育費負担と奨学金 > 第1回 新所得連動返還型奨学金制度

前の記事 | 次の記事

第1回 新所得連動返還型奨学金制度

2017/04/19

連載 教育費負担と奨学金

第1回 新所得連動返還型奨学金制度

小林 雅之

 この連載は、現在改革が進められている日本学生支援機構の奨学金(以下、奨学金)制度について、読者に理解していただくことを目的としている。そして、正しい情報を生徒や保護者にお伝えしていただきたいと思っている。
 まず、新制度創設の背景について説明し、次いで教育費の負担や授業料と奨学金について、アメリカやイギリス、フランスなど他国の状況を簡単に紹介する。これは、他国の現状や課題を見ることによって、日本の教育費負担と学生への経済的支援の特徴を理解していただくためである。その上で、日本の今後の在り方について考えていきたい。
 しかし、今回はそうした本論に入る前に、「新所得連動返還型奨学金制度」の選択の問題について、その問題点を指摘したい。それというのも、奨学金の予約採用が新学期からすぐに始まり、第一種奨学金については、新所得連動返還型か従来の定額返還型かを選択する必要があるためだ(ただし、後に説明するように申込後も変更は可能)。ぜひ、この問題を生徒や保護者に伝えていただきたい。
 新所得連動返還型は、奨学金の返還額を卒業後の所得に応じて決定するもので、返還の負担を軽減する優れた制度である。例えば、所得が住民非課税(年収約144万円)以下であれば、返還額は月額2000円。年収300万円でも8900円、年収400万円でも1万3500円に過ぎない。これは現在の私立大学自宅奨学生の月額返還額1万4400円より低い。
 しかし、この制度を選択する場合には、保証制度は機関保証のみとなる。奨学金には人的保証と機関保証の二つの保証制度がある。人的保証の場合、原則として連帯保証人は父母またはこれに代わる人、保証人は4親等以内の親族(いとこなど)で本人および連帯保証人と別生計の人となっている。しかし、奨学金を希望する者はもともと中低所得層であり、返還能力に乏しい場合が多い。このため、保証人を立てるのが難しい場合がある。また、奨学生自身が親族に将来返還のリスクを負わせたくない気持ちから、保証人をお願いすることに躊躇する場合もある。こうした場合に有効なのが機関保証制度だ。機関保証制度では、連帯保証人および保証人は不要である。奨学金の返還を延滞した場合、保証機関が奨学生に代わって残額を一括返還する。その後、保証機関が奨学生にその分の返還を請求することになる。
 こうして保証人を立てる必要はなくなるが、保証料を支払う必要がある。保証料は、第一種奨学金の国公立大自宅で月額1782円、私立大自宅外で3137円が奨学金支給額から天引きされる。
 この定額返還型と新所得連動返還型の選択は貸与終了時まで変更が可能だ。しかし、定額返還型制度でかつ人的保証制度を選択した奨学生が、卒業後の雇用の不安定性などの理由で新所得連動返還型制度に変更したい場合には、国立大自宅で約8万6000円、私立大自宅外では約15万円の保証料を一括して支払わなければならない。もともと返還が困難なために定額返還型から新所得連動返還型に変更を希望しているのだから、この変更は実質的に困難になることが想定される。
 つまり、第一種奨学金の貸与を申請する者は、こうした保証料の一括払いのことも考慮して、人的保証で定額返還型か、保証料を支払って定額返還型か、保証料を支払って新所得連動返還型かを、事実上貸与前に選択しなければならない。これは、将来の返還の見込みや保証人に対するリスクなどと保証料を支払うことを勘案して決定する必要があり、難しい選択である。どのような選択をするかを決めるためには、新所得連動返還型のメリットとデメリットを生徒や保護者に十分理解していただく必要がある。
 こうした複雑化する奨学金の選択の問題を理解して、生徒や保護者に伝えていただきたいと念願している。

[news]

前の記事 | 次の記事