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第4回 学生支援の根拠 その③
2017/07/19
連載 教育費負担と奨学金
第4回 学生支援の根拠 その③
小林 雅之
前回は、高等教育機会の地域間格差の是正のため、1975年から大都市圏の大学抑制政策がとられ、90年までに大都市と地方の大学進学率の格差が縮小したことまで述べた。
しかし、90年代に入ると第2次ベビーブームによる18歳人口の急増期を迎え、合格率が下がることが懸念された。このため、抑制政策を維持することができず、結果として大学進学率の地域間格差は拡大し、2014年には東京と最も低い鹿児島の差は39%まで拡大した。
こうした高等教育機会の格差の拡大により、改めてこの問題が取り上げられている。まち・ひと・しごと創生戦略(2015年)が、大都市圏への学生集中の是正のために、入学定員超過率の厳格化を提唱した。これを受けて、15年には大都市圏の私立大学の定員超過率の抑制を私学助成の増減で行った。さらに、地方大学の振興および若者雇用等に関する有識者会議が「東京における大学の新増設の抑制及び地方移転の促進」という中間報告を今年5月に出している。これについて、現在文部科学省の中央教育審議会大学分科会や将来構想部会で審議がなされている。果たして、再び東京の大学の新増設の抑制がなされるのか、現時点では予断を許さない。ただ、言えるのは、現在とは状況が異なることを踏まえた上で、40年前の抑制政策の功罪を十分検証し、この政策の導入について慎重に審議すべき点であろう。
このように地域間の高等教育機会の是正は、いくつかの政策がとられてきたが、学生への経済的支援の直接の政策である育英奨学政策については、戦後一貫して貸与奨学金のみという状況が続いた。
このために、既に地域間格差だけではなく、所得階層間にも高等教育機会は大きな格差が生じている。
家庭の経済状況によって大学への進学機会が大きく異なることは「全国高校生・保護者調査」(以下「保護者調査2006年」)で初めて明確に示された。これに対して、その後の推移を12年3月に高卒者の保護者を対象に実施した調査と同じく13年度の調査と16年12月に実施した調査(「保護者調査2016年」と略記)の結果を比較する。ここでは、紙幅の都合上、保護者調査2006年と保護者調査2016年の結果を見ていく。
保護者調査2006年は、大学進学機会に大きな所得階層差があることを示している。特に私立大学進学率は、400万円以下の低所得層は23%に対して、1000万円以上の高所得層では、49%と2倍以上の格差があった。これに対して、保護者調査2016年では、462万円未満の低所得層は、40%に対して、1062万円以上の高所得層では71%と、31%の差が見られ格差はあまり改善していない。
さらに、国公立大学進学率については、保護者調査2006年では、低所得層の進学率9%に対して、高所得層は12%とあまり大きな差は見られなかった。しかし、保護者調査2016年では、低所得層の11%に対し、高所得層では17%となっている。国公立大学においても、所得階層別の格差が拡大しているのである。
さらに、2006年度の調査では、成績(中学3年生の成績の自己評価)の上位者の大学進学率は、高所得層の62%に対して、低所得層は55%でそれほど大きな差は見られなかった。つまり、子どもの成績が良ければ、所得と関わりなく大学進学が可能であったのである。
しかし2016年度調査では高所得層の大学進学率76%に対して、低所得層は48%と格差が拡大している。たとえ、成績が良くても低所得層の大学進学は困難になってきている。
こうした現状に対して、教育の機会均等の実現のため、学生への経済的支援が求められている。これが支援の第三の根拠である。
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