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第6回 各国の授業料と奨学金①アメリカ

2017/10/18

連載 教育費負担と奨学金

第6回 各国の授業料と奨学金①アメリカ

小林 雅之


 
 アメリカは学生への経済的支援制度が最も発達している国である。この制度の構築のために、多くの資金と努力が注ぎ込まれた。とりわけ低所得層の高等教育機会を拡大するために、給付奨学金が重視されてきた。しかし、日本をはじめ多くの国と同様に公財政の逼迫と高等教育進学者の増大に伴い、財源を多く必要とする給付奨学金を維持するのが困難になってきている。最近では学資ローンが大幅に増加し、これに伴い、ローン負担、ローン未回収、ローン回避など、さまざまな問題が発生している点も日本と同様である。
 学生への経済的支援制度の発展に大きな影響を与えたのは授業料の高騰である。これは、過去40年間以上、アメリカ高等教育の最大の問題であり続けてきた。物価調整した定価授業料は、1976年から2016年の40年間に公立4年制大学で3・7倍、私立4年制大学で3・1倍、公立2年制大学で3・0倍と急速に上昇した。学生への経済的支援制度が発達した大きな原因はこの学費の高騰に対して、とりわけ低所得層の高等教育機会を提供することにあった。
 また、アメリカの大学の授業料は設置者による相違が大きいことも特徴である。平均定価授業料は、私立4年制大学が約3万3000㌦と最も高く、公立4年制大学が約9650㌦(州内学生)、公立2年制大学が約3500㌦の順になっている。州立大学は州税で維持されており、州民に寄与すべきであるとされ、留学生を含む州外学生には2〜3倍の授業料を課している。

 このようにアメリカの授業料は高騰しているが、多彩な学生支援が発達しているために、定価授業料を払う学生や親は少ない。さらに、大学独自の給付奨学金を設ける場合が多く、実際の支払額(純授業料)は定価授業料より大幅にディスカウントされている。つまり、定価授業料は高額に設定するけれども、実際の授業料(純授業料=定価授業料―給付奨学金)は大学独自の給付奨学金によってディスカウントされている。16年度のハーバード大学を例に取ると、定価授業料は約4万7000㌦、その他の学費生活費を合わせて約6万7000㌦が必要とされるが、給付奨学金は平均約4万8000㌦で、純授業料の平均は約1万8000㌦である。ただし、この給付奨学金の受給率は約55%である。つまり、定価授業料(生活費を含む)の約6・7万㌦を支払う学生からまったく無償の学生まで幅広く分布している。
 ディスカウント率の平均は、04年には34・0%だったが、15年には43・0%まで上昇している。つまり、平均では、学生は定価授業料の半分強しか支払っていないことになる。
 アメリカの大学の学生支援の主要な方法は、給付奨学金、貸与奨学金、ワークスタディなどである。連邦の給付奨学金とローンだけでも多種にわたり大変複雑なシステムになっている。しかし、これらはその時々の状況に応じて作られ、しばしば修正されたり、名称変更されたりしているため、全貌をつかむのは容易ではない。

 おおまかな数字をいくつか挙げると、15年度には学士課程学生は、平均で1万4000㌦の経済支援を受けている。そのうち約8400㌦は給付奨学金で4720㌦が連邦政府学資ローン、約1290㌦が税優遇などとなっている。11年度の給付奨学金の受給率は59・0%、学資ローンの受給率は42・0%となっている 。
 このほかにも税制上の優遇措置として、税クレジット、生涯教育クレジット、アメリカ機会税クレジットなどがある。連邦政府以外に地方政府や民間あるいは大学独自の学生支援も量質とも充実している。このような短い説明だけでも、アメリカの学生への支援が非常に充実しているということがお分かりになったと思う。



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