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第7回 各国の授業料と奨学金②オーストラリア
2017/11/13
連載 教育費負担と奨学金
第7回 各国の授業料と奨学金②オーストラリア
小林 雅之
HECS(ヘックス)と呼ばれるオーストラリアの授業料・学生支援制度について、注目が集まっている。自由民主党教育再生実行本部が高等教育の無償化の議論との関連で日本版HECSの創設を提唱したこともある。
HECSは、1989年に導入され、高等教育貢献制度(Higher Education Contribution Scheme)が正式名称である。オーストラリアでは、それまでの公立大学授業料を不徴収から徴収に政策転換した。その背景には高等教育の受益者は個人と社会なのだから、個人もそれ相応の負担をすべきという考え方がある。HECSを授業料と呼ばず、貢献(contribution)と呼ぶのはそうした考え方に基づくものである。
しかし、それまで授業料を徴収していなかったので、授業料徴収は高等教育機会、とりわけ低所得層の教育機会を脅かすのではないかと懸念された。この問題に対して、HECSが採用したのは、在学中は授業料に相当する貢献額を徴収せず、卒業後に所得連動型で授業料相当額を返済する制度であった。つまり、HECSは実質的には所得連動型無利子学資ローンである。卒業後の所得に応じて負担額が決定されるため、低所得者の負担が軽く、高等教育機会に影響を与えることが少ないとされた。
貢献額はバンドと呼ばれる専攻グループごとに、政府の決定した最低額と最高額の範囲で大学が決定する。ほとんどの場合、最高額になる。また、最高額は年々上昇する傾向にある。最低額は各バンドともゼロである。
貢献額の最も高いバンド3は、法学、歯学、医学、獣医学、会計学、経営学、経済学、商学で、最高額は約1万豪ドル(1豪ドル=89円として約89万円)である。バンド2は、数学、統計学、コンピュータ科学、環境建築、保健、工学、農学で約9000豪ドル(約80万円)、バンド1は人文科学、行動科学、社会科学、教育学、臨床心理学、外国語学、芸術、看護で約6300豪ドル(約56万円)となっている。
ここで注目されるのは、これらの専攻の教育費用と貢献額は関連がないことである。費用の全く異なる医学・歯学・獣医学などと法学・会計学・経営学などが同じバンド3である。一般に授業料は教育にかかる費用に基づいて決定されるが、HECSでは卒業後の期待所得に基づいて決定される。ここにHECSの独自性が表れている。期待所得が高い者はそれだけ貢献してもらうということである。
貢献に対する返済年額は、課税所得プラスその他の収入などの合計と返済率に応じて決定される。返済率は0〜8%で、所得が高いほど高い返済率が適用され、貢献年額=課税所得等×返済率となる。また、年収約482万円以下ではゼロ、つまり猶予される。
また、HECSの大きな特徴は、貢献額が国税庁によって源泉徴収されることである。このため、返せないのか返したくないのかという問題も発生しない。
HECSは原則卒業後の返済であるが、前払いも認められ、10%割引されていた。しかし、前払いできるのは高所得層であり、不公平であるという批判が強く、2017年1月から廃止された。
HECSは、学生本人の所得によってのみ返済額が決定される。保護者や配偶者の所得などは考慮されない。このため、低所得者は一生かかっても完済しないことになる。なお 、本人が死亡した場合、不動産からの返済を除いた残額の返済は免除される。
HECS導入後、全体の大学進学率は上昇し、低所得層の進学率にも大きな影響はなかったとされる。HECSは大きな成功を収め、その後、イギリスなど他の国でも導入されていく。
しかし、先にふれたように、所得連動型では貢献額すべてを回収できず、80〜85%が回収されると予測されている。つまり、残りの15〜20%は国庫負担となる。
第7回 各国の授業料と奨学金②オーストラリア
小林 雅之
HECS(ヘックス)と呼ばれるオーストラリアの授業料・学生支援制度について、注目が集まっている。自由民主党教育再生実行本部が高等教育の無償化の議論との関連で日本版HECSの創設を提唱したこともある。
HECSは、1989年に導入され、高等教育貢献制度(Higher Education Contribution Scheme)が正式名称である。オーストラリアでは、それまでの公立大学授業料を不徴収から徴収に政策転換した。その背景には高等教育の受益者は個人と社会なのだから、個人もそれ相応の負担をすべきという考え方がある。HECSを授業料と呼ばず、貢献(contribution)と呼ぶのはそうした考え方に基づくものである。
しかし、それまで授業料を徴収していなかったので、授業料徴収は高等教育機会、とりわけ低所得層の教育機会を脅かすのではないかと懸念された。この問題に対して、HECSが採用したのは、在学中は授業料に相当する貢献額を徴収せず、卒業後に所得連動型で授業料相当額を返済する制度であった。つまり、HECSは実質的には所得連動型無利子学資ローンである。卒業後の所得に応じて負担額が決定されるため、低所得者の負担が軽く、高等教育機会に影響を与えることが少ないとされた。
貢献額はバンドと呼ばれる専攻グループごとに、政府の決定した最低額と最高額の範囲で大学が決定する。ほとんどの場合、最高額になる。また、最高額は年々上昇する傾向にある。最低額は各バンドともゼロである。
貢献額の最も高いバンド3は、法学、歯学、医学、獣医学、会計学、経営学、経済学、商学で、最高額は約1万豪ドル(1豪ドル=89円として約89万円)である。バンド2は、数学、統計学、コンピュータ科学、環境建築、保健、工学、農学で約9000豪ドル(約80万円)、バンド1は人文科学、行動科学、社会科学、教育学、臨床心理学、外国語学、芸術、看護で約6300豪ドル(約56万円)となっている。
ここで注目されるのは、これらの専攻の教育費用と貢献額は関連がないことである。費用の全く異なる医学・歯学・獣医学などと法学・会計学・経営学などが同じバンド3である。一般に授業料は教育にかかる費用に基づいて決定されるが、HECSでは卒業後の期待所得に基づいて決定される。ここにHECSの独自性が表れている。期待所得が高い者はそれだけ貢献してもらうということである。
貢献に対する返済年額は、課税所得プラスその他の収入などの合計と返済率に応じて決定される。返済率は0〜8%で、所得が高いほど高い返済率が適用され、貢献年額=課税所得等×返済率となる。また、年収約482万円以下ではゼロ、つまり猶予される。
また、HECSの大きな特徴は、貢献額が国税庁によって源泉徴収されることである。このため、返せないのか返したくないのかという問題も発生しない。
HECSは原則卒業後の返済であるが、前払いも認められ、10%割引されていた。しかし、前払いできるのは高所得層であり、不公平であるという批判が強く、2017年1月から廃止された。
HECSは、学生本人の所得によってのみ返済額が決定される。保護者や配偶者の所得などは考慮されない。このため、低所得者は一生かかっても完済しないことになる。なお 、本人が死亡した場合、不動産からの返済を除いた残額の返済は免除される。
HECS導入後、全体の大学進学率は上昇し、低所得層の進学率にも大きな影響はなかったとされる。HECSは大きな成功を収め、その後、イギリスなど他の国でも導入されていく。
しかし、先にふれたように、所得連動型では貢献額すべてを回収できず、80〜85%が回収されると予測されている。つまり、残りの15〜20%は国庫負担となる。
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