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第8回 各国の授業料と奨学金③イギリスとフランス

2017/12/15

連載 教育費負担と奨学金
第8回 各国の授業料と奨学金③イギリスとフランス
小林 雅之


■イギリス
 イギリスの授業料と奨学金は、めまぐるしい改革が進んでいる。1998年には大学授業料(所得に応じて0〜1000ポンド)を導入し、同時に給付奨学金を廃止した。就任したばかりのブレア首相は、政府の最大の目標を問われて「教育、教育、教育」と連呼したように、教育を重視するとしていただけに論議を呼んだ。2004年には、給付奨学金を再導入し、06年には授業料を3倍に値上げ( 最高3000ポンド) した。同時に、教育機会と教育費負担への影響を緩和するために大学独自給付奨学金(bursary)の創設を義務づけ、多くの大学は1000ポンド以上を支給した。新たに政権についた保守党・自由民主党の連合政権は、12年には最高9000ポンドの値上げを認めた。つまり、1998年から9倍の値上げとなったのである。
 これに対して、政府は全国給付型奨学金プログラムを創設したが、2015年には学士課程学生について廃止された。さらに、16年にはイギリスの学生支援として大きな役割を担ってきた生活費給付奨学金の廃止を行い、低所得層の進学に深刻な影響が出ることが懸念されている。
 イギリスの大学ではオーストラリアと同様、原則として在学中の授業料支払いはなく、卒業後にすべて所得連動型ローンで返済する。ローンは12年度まで無利子であったが、現在は年収に応じて0〜3%の利子が付加される。このように、ローンの負担の増大が問題となっている。しかし、最長30年間でローンの未返済額は帳消しにされる。これは、負担を軽減するための重要な措置とされている。
 このため、低所得層ではローンを完済しない者が多くなる。未返済額は利子補給と合わせて推計で当初30%程度とされていたが、その後の推計で次第に多くなり、現在では50%を超える予測もある。つまり、ローンの半分は返済されない。このため、政府は利子を付加するなど、新たな施策を打ち出したのである。なお、ローンの返済は源泉徴収のため、閾値(いきち) 以上の所得があれば必ず回収される。

■フランス
 フランスの国立大学は、授業料はなく、入学時に184ユーロ(約2万4000円)の登録料と若干の保険料が課せられるのみである。
 フランスはメリットクラシーの国であり、かつてはメリットベースの給付奨学金のみであった。しかし、近年はニードベースの給付奨学金に力を入れている。受給基準は家計所得により8段階に分けられている。最も低い0レベルでは、所得は3.3万ユーロ(約436万円)以下の場合、登録料と保険料が免除される。所得が低くなるごとに支給額が増額され、第7レベルでは、5500ユーロ(約73万円)となる。これらを合わせて受給率は約4分の1となる。これ以外に住居手当が最高月額100ユーロ(約1万3000円)支給される。
 一部のグランゼコール(大学校)の学生は、公務員扱いで無料の寮に入ることができ、月額1350ユーロ(約18万円)の手当が支給される。他方、授業料600〜1万ユーロ( 約8〜132万円)を課すものもある。
 緊急支援は家族がフランスに居住していない場合、あるいは28歳以上、または家族と別れた場合に支給され、年額1650〜4735ユーロ(約22〜63万円)支給される。また、離婚や死別などの事情で親の支援が受けられない学生に対しては、年額4000 〜5000ユーロ(約53〜66万円)の支援が受けられる。
 学資ローンは、低利子率で最高1万5000ユーロまで借りることができる。しかし、利用率は極めて低い。
 また、学生への支援は寮や食堂など施設による間接的な支援も重視している。寮居住者は学生全体の11%で、全国学生支援センターは約16万室を提供している。



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