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第9回 新しい経済政策パッケージ

2018/02/13

連載 教育費負担と奨学金
第9回 新しい経済政策パッケージ
小林 雅之


 昨年12月8日に安倍内閣は「新しい経済政策パッケージ」を閣議決定した。このパッケージは、今後の学生支援にも多大な影響を与えるものだ。消費税の10%への増税を前提に、毎年約8000億円の巨費を投じて、住民税非課税世帯の大学・短期大学・高等専門学校・専門学校の学生に授業料減免と給付型奨学金を支給する。国公立大の学生については授業料の全額免除、私立大の学生については、国立大の授業料に一定の上乗せをした授業料額を減免し、さらに給付型奨学金は生活費を支援するとしている。
 今年度創設された給付型奨学金は完成年度でも約210億円。このパッケージがいかに巨額か分かる。また、このパッケージでは、これまで一部の者に限られていた入学金免除も対象だ。これまで、ほとんど公的支援がなかった「家計急変」(保護者のリストラ・離死別など)にも対応策を創設する。巨費を投じ、対象を拡大した点で新制度は大いに評価できるものだ。特に、入学金免除について日本では、入学時の初年度納付金が高すぎるため、低所得層の進学の壁になっていた。
 しかし、現段階では詳細は決定されていないため、懸念がなくならない。第一に、給付を受けられる住民税非課税世帯と給付の受けられない住民税非課税世帯に準ずる世帯との不公平の解消について具体的な制度設計はこれからだ。段階を相当増やす、段階ではなく連続的に減額するなど、うまく設計しないと、崖効果と呼ばれる、受給者と非受給者の格差が生じる。しかし、この設計は相当難しく、どのような制度にしても不公平が残る恐れがある。
 また、支援の対象となる大学や専門学校について、すべてが対象となるのではなく、「社会のニーズ、産業界のニーズも踏まえ、学問追究と実践的教育のバランスが取れている大学等」のみが対象となることは非常に問題をはらんでいる。国民の税を投入する以上、一定の水準の教育機関でなければならないことは理解できるが、こうした教育機関の選別は生徒の教育機会の選択を制約することになる。奨学金は個人への補助であり、個人の選択を尊重するべきだ。奨学生を獲得するために、高等教育機関の間で切磋琢磨が生じることはあり得るが、最初から高等教育機関を選別することははなはだ疑問だ。条件を満たさない大学や専門学校の学生は奨学金を受給できないとすると、結果として低所得層を排除することになる。こうした可能性をどこまで検討したのか分からないことも問題である。
 さらに、具体的な基準に問題がある。①実務経験のある教員による科目の配置及び②外部人材の理事への任命が一定割合を超えていること③成績評価基準を定めるなど厳格な成績管理を実施・公表していること④法令に則り財務・経営情報を開示していること―を支援措置の対象となる大学等が満たすべき要件としている。この中でも、実務経験のある教員や外部理事については、これまでの大学の在り方に大きな影響を与える。この点については、さらに注で「実務経験のある教員(フルタイム勤務ではない者を含む)が年間平均で修得が必要な単位数の1割以上(理学・人文科学の分野に係る要件については、適用可能性について検証が必要)の単位に係る授業科目を担当するものとして配置されていること」、また外部理事には、「理事総数の2割を超える数以上の理事に産業界等の外部人材を任命していることといった指標が考えられる」と、非常に細かく規定しているが、どのような根拠で設定したのか、また実際に誰がどのようにしてこの選別を実施するのかは不透明だ。
 このような重大な決定について、4カ月程度の極めて短期間で決定されている。さらに、その政策決定プロセスが不透明で、検討の経過は公表されていない。これからの制度設計を注視していただきたいと思う。


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