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第74回 二松學舍大学 学長 菅原 淳子氏

2018/02/13

140年前より受け継いだ、グローバル時代を見据えた教育
二松學舍大学 学長 菅原 淳子氏




伝統に新しい風を吹き込む
 二松學舍大学(東京都千代田区)は1877 年(明治10年)、漢学者であり、明治法曹界の重鎮でもあった三島中洲が「漢学塾二松學舍」を創立したことに始まる。同塾で学びを深めた文化人は、明治時代を代表する文豪、夏目漱石や思想家の中江兆民、元内閣総理大臣の犬養毅など、多数にのぼる。同大は当時の精神を受け継ぎ、「東洋文化への理解と国語力を礎に、世界へと漕ぎ出す人材を育てること」を追求し、有為な人材を輩出してきた。2017 年に140 周年を迎え、グローバル化や高度情報化を見据えた真の国際人の育成を目指す同大を訪ね、今後の指針や展望について菅原淳子学長に話をうかがった。


真の国際人とは、古典から未来を学び 豊かな国語力を備えた人材

―貴学が目指しているビジョンについてお聞かせください。
 二松學舍では、創立135周年の際、「N'2020プラン」を策定し、水戸英則理事長を中心に大学および附属の各設置校一丸となり、教育研究・経営面双方において、多角的な改革に取り組んでまいりました。大学での具体的な改革内容は、「奨学金制度の充実」「キャリア教育の初年次導入」「国際交流協定校の拡充」「学科新・増設」「定員増」などです。
 これらの改革は、アクションプランの着実な実行により、かなりの成果を挙げてまいりました。しかしながら現在、私学を取り巻く環境は、18歳人口の急速な減少およびAIやIoT、ビッグデータ等の第4次産業革命の進展など、予想以上に大きく変化しています。そこで本学は ‶2030年時代に対応できる人材”を育成するため、創立140周年を機に新たな長期ビジョン「N'2030プラン」を策定しました。同プランでは、建学の精神と前プランの基本理念を引き継ぎながら、学部・学科の構成やカリキュラムなど新時代を見据え、結果が目に見える教育改革を進めていく指針を掲げています。

―学科新設の目的や指針についてお聞かせください。
 
17年4月より、文学部に「都市文化デザイン学科」を設置しました。同学部は、長期にわたって国文学科と中国文学科の2学科体制で学びを展開しておりましたが、これからは日本や東洋の文化を、外へ発信していくことも重要だと、意識を向けたことが、同学科新設の発端です。
 さらに、18年4月には国際政治経済学部に「国際経営学科」を開設します。先に設置された同学部「国際政治経済学科」は、「政治」「経済」「法律」を融合的に学ぶ学問内容ですが、新設する国際経営学科については、ビジネスやマネジメントの要素を強め、世界に通用する国際感覚を磨きます。
 また、三島中洲先生が東洋学の確立を目指して創立した本学は、東アジア地域に関する教育研究の伝統と学術の蓄積を持っています。そのような関係から、来年度は、協定を結んでいる日本香港協会(本部東京・千代田区)主催の講座「華人経営研究講座」が本学を会場に開催されます。これは、主に中国・アジア市場での経営に携わる方を対象としておりますが、本学学生も聴講できますので、将来、中国市場でビジネスを展開したいと考える学生に、積極的に参加してもらいたいです。

―近年では広報活動にも注力されているようです。
 本学は多数の著名人を輩出しており、夏目漱石もその一人です。漱石の談話「落第」の中には、本学で学んでいた当時の様子も描かれています。そうした伝統ある本学の魅力をより認知していただくため、創立140周年記念行事の一環として、漱石のアンドロイドを制作するというプロジェクトを進めてきました。これは、本学大学院文学研究科と大阪大学(大阪府吹田市)大学院基礎工学研究科の共同研究として、アンドロイド研究の第一人者、石黒浩教授監修のもと、多くの関係者の協力によって完成しました。
 最先端の科学技術と文学研究が融合した漱石アンドロイドの発表は、大学の認知度に著しく効果を上げています。株式会社日経ビーピーコンサルティング(本社東京・港区)の「大学ブランド力調査」によると、首都圏における「総合ブランド力(有職者編)」が前年の84位から64位へと飛躍的に上昇しました。ブランド偏差値上昇率に着目すると、第2位の結果であり、今回のプロジェクトが認知度とブランド力の向上に一役買っていると言えるでしょう。

―学生時代で印象に残っている経験はございますか。
 私が高校に入学した年には大学紛争の煽りを受け、管理教育に反発して高校紛争が起きました。全校集会が開かれクラスでも頻繁に討論が行われ、ついには生徒によって校舎も封鎖されました。その後紛争は終息し、授業も再開されましたが、多感な高校時代のこの経験は、私の価値観に大きな影響を与えたと思っています。「先生に言われた通りにする」のではなく、「自分の頭で考えて行動する」ことが重要だと考えるようになりました。
 世界史が好きで国際情勢に関心があったこともあり、大学では国際関係学科に進みました。大学院時代には研究テーマの関係で、当時社会主義国だったブルガリアへ留学しました。現地で感じたことは、体制は異なっても「人間はみな同じ」ということでした。コミュニケーションによって相手を知る、理解できる、共感できるのです。世界には数多くの民族がいて、言語、宗教や価値観も異なります。留学を通して、日本を顧みることにもなりましたし、文化や慣習が異なる人々との共生の重要性も強く感じました。
 共存や共生という考え方は、大学での学びを考えた時にも通ずる基本理念になるかと思います。本学でも、障害を持つ学生も含めて多様な学生が学んでいます。一人ひとりの学生が尊重され、学びの平等性を享受できるように、と考えています。そのためには教職員が理解を深めることが求められています。

ー貴学の求める学生像についてお聞かせください。
 本学で学ぶ学生には、ぜひとも自立した学生になっていただきたいです。グローバル化や多様化が進むこれからの国際社会では、深い知識と広い視野、そして自分の考えや自国の文化を発信できる人材が求められています。そのため、専門分野や周辺領域も学べるカリキュラムを通して知識の幅を広げ、物事を多角的に捉える力を養うことが必要とされていくでしょう。
 特に本学が全学的な取り組みとして目指しているのは、高い「国語力」を持った学生の育成です。コミュニケーションの基礎となる「国語力」を育むことは、あらゆる学問を習得するために必要なだけではなく、論理的な思考力、情報を読み解く力や自分の考えを他者に伝える表現力、言葉を介した理解力を養成することにつながります。
 多岐にわたる学びと経験から教養を深め、豊かな人間性を育み、本学から大きく未来に羽ばたいてください。


「都市文化デザイン学科」「国際経営学科」
―新設学科から見る同大の将来像―


17年4月に文学部に新設された「都市文化デザイン学科」。日本や東洋の文学・文化研究を礎に、日本文化を編集・発信する実践的スキルの獲得を目指している。現在、同学科の1期生は、秋葉原の学び舎である「AKIBA Lab.(アキバラボ)」を拠点として日々学んでいる。
 文学部というと、研究資料と向き合い、学内で学びを深めるという印象が強い。しかし同学科の学生たちは、ポップカルチャーが集結する秋葉原へくり出し、道行く外国人にインタビューを行う。その後の編集・発信などを含め、主体的に活動する機会の多い点が同学科の特徴と言える。
 1年次では古典文学や小説・アニメーション・映画など幅広い表現文化にふれる。そして、地域文化や歴史、民俗などのカルチャーが生まれる背景を知ることで、魅力的なコンテンツを発掘するプロデューサーとしての「視点」を養う。
 このほか、少人数のゼミナールなど、チーム学習の場におけるプロジェクトの立案や地域とのコラボレーションも展開予定だ。新しいメディアやコミュニケーションスキルを駆使して、日本文化を世界へ発信できる人材を育成する。
 一方、18年4月より国際政治経済学部に設置される「国際経営学科」は、時代の移り変わりに左右されない「本質的な力」を身につけることを目指す。同学科は、今後ますます発展する社会や企業経営のグローバル化に対応するために、「政治」「経済」「法律」に加え、理論だけでなく実践的な手法として「経営」を学ぶ。これにより「企業の経営活動を通じた経済社会の発展に貢献する」人材を輩出するための機能が拡充される。
 また、教員には、民間企業出身者やシンクタンクの研究員など、実務経験者を多数迎え、商品開発論や広告戦略論等の講義を展開する。さらに、経営トップへのインタビューや工場見学によって現場を肌で感じ、経営の明確なイメージを学生が抱けるよう工夫を凝らしている。
 さらに、同大は日本香港協会全国連合会との相互交流協定を活かし、18年度から学内にて「チャイニーズ・マネジメント&マーケティング・スクール(華人経営研究講座)」を開講。発展余地の大きな中国・アジア圏に注目し、学術文化の振興を図るとともに、受講する学生や社会人の方の学びを深めてもらう。


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