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第1回 高まる保護者の存在感

2018/04/16

連載 現代大学進学事情

第1回 高まる保護者の存在感

濱中淳子

 大学進学行動について考察を深めてきた学問分野に、教育経済学がある。そこでは、大学進学行動は家計と学力の変数として捉えられてきた。所得と成績は、大学進学選択にプラスの影響を及ぼす。シンプルだが、説明力が大きいモデルであることに間違いはない。
 しかし、いざ高校現場の声に耳を傾けると、進学行動の背後に、別の変数が潜んでいる点に気づかされる。仕事柄、高校関係者と話す機会が多いが、かなりの頻度で「保護者の意向」という言葉が出るのだ。特に具体的な進学先・領域を決める際のキーワードになるようで、その意向にどう対応すればいいのか、学校側も真剣に考えなければならなくなったという。
 保護者については、大学関係者も意識するようになっている。昨年9月、東京大学で開催されたイベント「あなたも数学者!母娘で体験する数理ワークショップ」を見学した。参加して驚いたのは、その進め方である。開始と同時に、母親と娘(小4〜中3)が別々の教室に割り振られ、それぞれが同じワークショップを体験するものになっていた。新鮮に感じ、主催者に意図を聞いたところ、「数学は直接資格に結びつく学問ではないし、苦手意識のあるお母様も多い。お母様にも数学のおもしろさにふれてもらい、なぜ、娘さんが数学を学びたいと思っているのかを理解してもらうことも、理系女子を増やすために大事だと考えている」という話だった。
 以上は一例に過ぎないが、保護者の意向は無視しえないものになっているようである。しかし、だとしても、それはどの側面で顕著に起きており、その意味合いはどう理解されるのか。答えを探るため、昨年2月から今年3月にかけて、アンケート調査を実施した。対象は大学進学を希望する高校2年生の母親であり、調査会社のモニターを利用した。回収数は1035だったが、調査の特徴として言及しておきたいのは、並行して、現在30代の大卒の子どもを持つ母親213人にも同じ内容の調査を行ったことである。二つの調査の比較から、変化の有無を検討できる設計にした。
 では、保護者のありようはどのように変わったのか。一部結果を紹介しよう。
 調査では、大学進学をめぐる母親自身の考えを六つの観点から尋ねた。①無理して難しい大学に進学しなくてもいい、②志望する大学に進学できなくても、現役で進路を決めたほうがいい、③推薦入試など、安定かつ確実な方法で合格をつかみとって欲しい、④職業資格を取れる領域に進学したほうがいい、⑤地元の大学に進学してもらいたい、⑥国公立大学に進学してもらいたい―である。そして過去と現在の比較をしたところ、②・④・⑤・⑥で肯定的回答を寄せる者の比率が伸びていた。現役、資格、地元、国公立進学をめぐる保護者の志向は強まっている。
 加えて、分析からはこれらの観点について、自分の考えを子どもにきちんと伝えている母親がかなりの程度で増えている様相もうかがえた。ただ、現代的特徴として強調すべきは、特段そう思っていない場合でも、思っていないこと自体を伝える母親が増えている点だと言えるかもしれない。30代大卒の母親は、必ずしも自分の考えを積極的に伝えてはいなかった。「現役で進路を決めてなくてもいい」「職業資格を取れる領域に進学しなくてもいい」などと考えている場合は、なおさらだ。しかし、いまやどのような考えであっても、まずは子どもに自分の意見を伝える母親が増えている。
 さて、この連載では、「保護者」という切り口から大学進学の現在を描き出してみたい。保護者の存在感が高まっているにしても、内実はどのようなものであり、その社会的意味をどう理解すれはいいのか。広い視野から論じたいと思う。



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