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第76回 立命館アジア太平洋大学 学長 出口治明氏

2018/07/18

世界各国の学生と日本人学生が混ざる教育を展開
立命館アジア太平洋大学 第四代学長 出口 治明 氏
 
                                                                                      
                                                        世界的にもユニークな多文化・多言語環境の教育機関として注目を集めているのが立命館アジア太平洋大学(APU、大分県別府市)だ。同大では、言語や文化的背景の異なる学生たちが互いに学び合い、日々勉学に励んでいる。
 今年1月、新学長に就任した出口治明氏に、学長就任の経緯やグローバル人材の育成、APU のビジョンについてお話をうかがった。




公募によって学長に就任
「人・本・旅」で学生を鍛える
――学長に就任された経緯について教えてください。
 学長就任の経緯を簡単に説明するなら、三つの偶然が重なったことが就任へと導かれたきっかけだと思っています。
 まずは、それまで経営に携わっていたライフネット生命保険株式会社(本社東京・千代田区)を退職したことです。僕は、還暦を迎えた60歳の時に、ライフネット生命を開業しました。開業から10年が経ち、売上も100億円を超えて、優秀な社員もたくさん育ちました。「これからのことは若手社員に任せよう」と決意し、退職することに決めました。
 次に、APUが学長の任期満了に伴い、次の学長候補者の公募を行っていたことです。APUでは、スーパーグローバル大学創成事業における、ガバナンス改革・国際化の取り組みの一つとして、大学マネジメント層の国際公募を掲げており、国内では類を見ない「学長候補者推薦制度」を創設し、学長候補を国際公募していました。
 最後に、APUが学長候補者推薦を行うことを聞きつけ、誰かが僕を推薦してくれたことです。僕は当時、この制度はもちろん、APUが学長を公募していることすら知りませんでした。その時は、推薦されるだけで選ばれることはないと思っていましたので、実際に学長に選出された時は、僕自身が一番驚きました。
 学長に就任したからには、APUの世界における地位を高めると共に、さらに高度な教育研究を行うための環境整備に努めていきたいと考えています。
 私は、勉強も大事ですが、加えて、人間はたくさんの人に出会って、たくさん本を読み、たくさん旅をすることで賢くなれると考えています。「人・本・旅」に取り組むことが豊かな人間性を育て、グローバルに活躍できる人材育成へとつながっていきます。

――APUの特長はどのようなところにありますか?
 2000年に開学したAPUはこれまで約1万6000人の卒業生を世界に輩出してきました。現在、在籍する学生の半数は、海外からの国際学生が占めています。開学以来、147の国や地域から学生を受け入れ、毎年およそ1300人の国際学生が入学しており、現在、88の国・地域からおよそ3000人の国際学生と3000人の日本人が混ざって学んでいるAPUは、まさに「若者の国連」です。
 日本全国と世界各国の学生たちが集まるAPUの魅力は三つあります。
 一つ目は、異文化を理解する環境が整備されていることです。1年次には、国際学生であれば原則全員、日本の学生も大半が「APハウス(学生寮)」に入寮します。日本人学生と国際学生が共同生活をするため、国際学生は日本文化と日本社会への理解を深めることができます。一方、日本人学生は24時間国際交流ができる環境に置かれるわけですから、英語力が向上することはもちろん、世界各国の文化にふれることができ、新入生を大きく成長させる国際教育の場として機能しています。
 はじめは文化の違いに戸惑う国際学生も少なくありません。APUでは、RA(レジデント・アシスタント)という先輩学生スタッフが各フロアに常駐しています。生活面や勉強、課外活動などに不安を感じても、彼らが親身に相談に乗ってくれるため、安心して学生生活を送ることができます。
 二つ目は、学生だけではなく、教員の50・3%が外国籍であるなど、キャンパス全体がダイバーシティにあふれています。国際経営学部では、ドイツ・カナダ・バングラディシュ・フィリピン出身の教員4人が副学部長を務めていて、国際色豊かなメンバーで学生を指導しています。アジア太平洋学部については、中国出身の女性教員が学部長です。日本の企業を見てもこれほど、外国籍の役職者がいて、女性が大いに活躍しているところはないと思います。
 三つ目は、「APU2030ビジョン」を掲げて、世界で活躍できる人材の育成に取り組んでいることです。このビジョンはAPUで学んだ人が世界中に散らばり、それぞれの持ち場で活躍し、世界を変えるというものです。いまから10年以上先のことを見据えるAPUは「人・本・旅」で学生たちを鍛えるなど、世界で活躍できる人材へとレベルアップさせることを目標としています。
 APUは、日本人と国際学生が互いに刺激し合う関係を大事にしており、学生たちはイキイキと学生生活を送ることができていると考えています。

――出口学長ご自身の視点からどういった大学を目指していきたいですか?
 僕は、旅がとても好きで世界各国に足を運びました。70年をかけて訪れた国数は約70〜80カ国、街は1200 〜1300にも及びます。そこで出会った人々とはいまでもつながっています。だからこそ学生たちを「人・本・旅」で鍛えていき、グローバルな視野を広げて欲しいと考えています。また、APU2030ビジョンに加え、副学長が主導で、新たなプロジェクトチームを立ち上げました。「語学力を上げる」「全員に留学を経験させる」など、ただ学生をレベルアップさせようという抽象的な目標を掲げるのではなく、APUの財産である世界中の卒業生や地域社会との人脈ネットワークを図り、多彩な教育活動の実現に向けて動き出しています。


国際的な環境に身を投じ
グローバル人材へと成長する
――国際学生たちはAPUをどのように評価しているとお考えですか?
 APUで学んだ卒業生たちが世界のさまざまな国や地域で活躍することで、初めて大学は評価を得ることができます。実際にAPUを卒業した学生たちの活躍を見て、入学を志願してくる国際学生も多く見受けられます。加えて、APUは16年8月に国際認証「AACSB」、18年3月に国連世界観光機関(UNWTO)の観光学教育の国際認証「TedQual」を取得しました。これは、世界でも最高水準の教育を提供している教育機関に贈られる認証です。国内で認証を受けている教育機関はとても少なく、国際学生たちはこれらの認証を評価してAPUへの入学を決意するといっても過言ではありません。
 また、APUでは学部講義のおよそ90%を公用語である日本語と英語で開講しています。国際学生たちは、入学後に言語学習として日本語を学ぶことに加え、専門科目は英語で学修するため、国際ビジネスや学術の世界で通用する高度な言語運用能力の修得につながります。
 開学当初から世界に目を向け、世界標準の大学として多くの国際学生を受け入れてきたからこそ、いまのダイバーシティ環境を実現することができました。また、海外に24の同窓会組織を持ち、海外とのネットワークは圧倒的に強い大学です。国際学生はもちろん、日本人学生たちも世界各国で活躍できる人材へと成長できる学びがAPUにはあり、とても魅力的な大学の一つであるということをもっとみなさんに知ってもらえるように努めていきます。

――学生たちからはどのような印象を受けますか?
 学長に就任して5カ月が経ちましたが、APUの学生たちの成長には驚かされてばかりです。ある学生は「卒業したらマラウイで10年間、現地の人たちのために頑張ってきます。そして、毎年最低3人をAPUに入学させます」と、力強く目標を語ってくれました。この学生のように大分・別府の地を選んでAPUに入学した学生たちは、卒業時には世界を見据えた広い視野と、自分自身の目標をしっかり持っている人がとても多く、みなさん瞳がキラキラと輝いています。
 そのほかにも先日、国連で12年間働いているフィリピン出身の卒業生が訪ねてきたことがありました。彼は、長期休暇を利用して母国のフィリピンよりも先にAPUに戻ってきてくれました。そして「国連で働くことがどれだけおもしろいかをAPUの学生たちに伝えたい」と、熱い思いを語ってくれました。それから、1週間程度、特別講座を設け、国連での経験やエピソードを学生たちにたくさん教えてくれたのです。
 APUと学生の関わりは卒業してからも続き、多くの卒業生がAPUで学んだことを誇りに思ってくれています。また、APUのネットワークを駆使して幅広いビジネスチャンスへとつなげているようです。

――最後に進路に悩む高校生へメッセージをお願いします。
 「人・本・旅」と話した通り、高校生や大学生の間にたくさんの人と出会い、たくさん本を読み、たくさん旅をしましょう。人間にはそれぞれ、個性と適性があると考えています。国・公立大学や難関私立大学等に進学して自分の学力を試したい、あるいは大手企業に就職したいという考えを持つ人もいるでしょう。しかし、それよりもベンチャー企業を作りたい、社会起業家になりたいなど、日本だけにとどまらず、世界を相手に勝負したいという考えを持っているのなら、ぜひAPUを目指してみてください。「世界で活躍したい」と考えている学生にとってこれほど恵まれた環境はないと思います。

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