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第4回 「働く母親」としての判断

2019/05/04

連載 現代大学進学事情

第4回 「働く母親」としての判断

濱中淳子

 内閣府『男女共同参画白書』の中に「共働き等世帯数の推移」が載っている。一部結果を紹介すれば、1980年時点で614万世帯だった「共働き世帯」は、2016年で1129万世帯に増え、逆に「男性雇用者と無業の妻から成る世帯」は、1114万世帯から664万世帯に減少した。両親ともに働いているという高校生の比率も、自ずと高まっていることが推察される。
 共働きか否かついては、しばしば幼い子どもへの影響を語る文脈で注目されてきた。いわゆる「三歳児神話」である。その是非をめぐっては、多くの批判が聞かれるが、今回強調したいのは、子育て段階のさらにその先―「高校生になった子どもの大学進学に対する意見」に見られる母親の就業、ひいては働き方の影響である。
 「母親の子育て・教育観に関するアンケート調査」(概要は連載第一回を参照)に回答を寄せてくれた現役高校生の母親は1035人。そのうち、約8割がなんらかの形で就業していた。それでは、具体的にどのような傾向が認められたのか、紹介していこう。
 先に断っておくべきは、働き方の影響は、子どもの性別によって異なるという点だ。そして、子どもが女子の場合から述べれば、①専業主婦に比べて働く母親ほど、②資格に関係がない働き方をしている母親より、資格を活かしながら働いている母親ほど、「職業資格を取れる領域に進学したほうが良い」と考える。資格の意義を実感することによって、娘にも同じ道を望むということだ。ちなみに、「職業資格を取れる領域に進学したほうが良い」と答える専業主婦は7割であるのに対し、資格職に就く母親のその値は9割にのぼる。ほぼ全員が資格職キャリアを良しと見なしているのが実態だ。
 他方で子どもが男子の場合、働き方の影響は別の形であらわれる。①専業主婦に比べて働く母親ほど、②とりわけ正社員・正職員として働く母親たちの間で、資格に関係がない働き方をしている者より、資格を活かしながら働いている者のほうが、資格云々ではなく、「無理して難しい大学に進学しなくても良い」と判断するようになる。
 考えてみれば、資格の効果の感じ方には二つの次元が想定されよう。一つは「資格があれば有利に働ける」というもの。もう一つは、その裏面とも言える「有力大学出身かどうかは関係ない」というもの。そして、そのいずれが前面に出るかは、子どもの性別によって異なるということではなかろうか。娘の場合は前者が意識されやすく、自分と異なるキャリアを歩むであろう息子のことを検討する際は、直接的効果を超えた理解(後者)が動員される。
 概して人は、何らかの判断が必要となる時、自分自身の経験をベースに考える。子どもの進路選択に関しても同様だろう。「良い学校、良い会社、良い人生」という通念が威力を持っていた時であれば話は別だが、いまやそのような時代でもない。母親が資格にこだわり、あるいは有力大学に関心を注がなくなりつつあるのは、女性の社会進出が進んだことの帰結であり、資格職以外の女性の社会進出が厳しいままにやり過ごされてきたことの帰結でもある。
 ところで、職業資格をめぐっては、もう一つ興味深い結果が得られた。父親の職業資格がもたらす影響についてだ。具体的には、父親の資格は母親の意見形成になんらインパクトを与えていない。父親が資格を活用した働き方をしており、それを配偶者として間近で見ていたとしても、子どもに資格につながる領域への進学を特に求めるようにはならないのである。
 母親の関わり方だけではなく、父親の立ち位置にも、大学進学事情の現代的特性が見出せるのかもしれない。次回は、過去との比較という視点から、この点にも踏み込んだ議論を展開する。

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