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第5回 父親の役割を考える

2019/05/05

連載 現代大学進学事情

第5回 父親の役割を考える

濱中淳子

 昨年、〝ワンオペ育児〞が「ユーキャン新語・流行語大賞」にノミネートされた。何らかの事情で育児を一人でこなす状態を示す言葉であり、担い手は母親であることが多い。前回、子どもの進路に関する母親の意見形成に、父親の働き方が何ら影響を与えていないことを指摘した。ワンオペ育児の帰結と見ることもできようが、続く今回は、父親の役割について、さらに別の角度から考えてみたい。
 「母親の子育て・教育観に関するアンケート調査」(概要は連載第一回を参照)のデータを見ていると、現役高校生の母親の情報収集意欲が増していることに気づく。自ら情報を集め、子どもの進路先を検討したという30代大卒母親は46%。対して、同様の行動をとっている現役高校生の母親は59%。十数ポイントの上昇が確認される。
 加えて、情報源にも変化が生じている。高校が提供する情報を熱心に参照する母親が増えていることも注目されるが、それ以上に目立つのが、情報源としてのインターネットや友人(ママ友)の価値が急激に高まっている点だ。
 換言すると、夫(父親)の重要性が低下している。実のところ、夫の話を参照する母親は、30代大卒母親であろうと、現役高校生母親であろうと、5割前後で変わらない。ただ、いまの母親たちが家庭「外」の話を意識するあまり、夫の相対的位置づけは、かなり低下しているのだ。
 そしてその延長上で強調したいのが、どの情報を重視するかによって、母親の意見の在りようが変わる側面があるということである。
 インターネットやママ友の影響が顕著に見られるのは、女子を子どもに持つ母親の現役志向に対してである。分析によると、これらの情報を参考にする母親ほど、「志望する大学に進学できなくても、現役で進路を決めたほうが良い」と考えるようになる。
 他方で父親の意見を大事にする母親の傾向を探ると、最近の風潮に逆行する考えを持つようになることが見えてくる。すなわち、子どもが女子の場合は「資格領域かどうかは、あまり気にしなくて良いのではないか」と考える。子どもが男子の場合は「少し無理してでも、難しい大学への進学を狙うべきではないか」と判断するようになる。
 進路を選択する際の基準を「安定・安全志向」と「冒険・挑戦志向」に大きく分けた場合、これまで強すぎる「冒険・挑戦志向」の問題はよく指摘されてきたように思う。ミュージシャンなどの夢追いを放任することが、定職に就けない若者を生み出しているといった類のものである。
 しかしながら逆に、強すぎる「安定・安全志向」の問題というのもあるのではない
か。安定・安全第一で進路を選択した者がミドル期という段階に差し掛かった時、「なぜ、もっとさまざまな可能性について深く考慮しなかったのだろう」という後悔とも言えるような念を抱く。18歳という時点で引いたレールに自ら物足りなさや窮屈さを感じてしまう―これも幸せな状況とは言えないはずだ。
 調査データには、母親の安定・安全志向の強さが端々に表れている。そうした中でバランスの取れた選択を可能にするために、父親が関与する可能性について、真剣に見直す意義もあるのではないか。母子の強い関係性の中で行われる進路選択に風穴を開ける。ワンオペ育児の改善という点も含め、大事な観点であるように考えられる。
 ただ、だとすればこそ同時並行的に考えなければいけないのが、父親の役割を果たす者が傍にいない高校生たちのことだ。そしてその場合、高校教員による進路指導の在り方が論点となる。そもそも、先述のように、母親たちは高校側が提供する話を情報源として大いに頼りにするようになっている。高校教員と母親との関係性については、本連載中に別途詳しく取り上げることにしたい。




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