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第7回 解にはつながらない「親子の親しさ」

2019/05/07

連載 現代大学進学事情

第7回 解にはつながらない「親子の親しさ」

濱中淳子

 高校生の親(母)子関係は、どのように変化したのか。そのような視点から「母親の子育て・教育観に関するアンケート調査」(概要は連載第1回を参照)のデータを見直すと、やはり親しさが増している様相が目に留まる。
 「あなたは、ふだん、お子さんとどれぐらい会話していますか(いましたか)」という質問項目に7段階尺度で回答してもらったところ、最も肯定的な選択肢を選んだ者の割合は、30代大卒母親の3割だったのに対し、現代高校生の母親は4割。調査では、時間をさかのぼり、母親自身が10代だった頃、自分の親とどれぐらい会話していたのかについても同様の形式で尋ねている。その質問に最も肯定的な回答を寄せた現代高校生の母親は2割弱。最近の親子関係の特性については、「友達親子」や「一卵性親子」など、すでにさまざまな造語によって語られている。病理的側面が強調されることもあるが、良い意味でも悪い意味でも、より密でフレンドリーなものになっているのは確かだと言えるだろう。
 ただ、調査データからは、親しい親子という側面が浮き彫りになるからこそ、意外に思える変化も確認することができた。つまり、「子どもに合う進路選択が分からない」という母親は、むしろ増えているのだ。「分からなかった」と回答した30代大卒の母親は2割であるのに対し、「分からない」と答えた現代高校生母親は3割強。そして、日頃から会話をしていれば、この分からなさが大きく低減するわけでもないということが見えてきた。
 親しい関係を築きながら、我が子に合う進路選択が読み切れない。特に不思議でもないのかもしれない。社会経済の不透明度は一気に増し、「AIが人間に仕事を奪う」「技術革新とグローバル化によって、ビジネスの在り方は一気に変わる」といった指摘が警告のように繰り返されている。子どもとの間に多くの会話があったとしても、これからの時代が描けないのであれば、我が子にどのような進路が合っているのか判断できないというのは理解できる。
 とはいえ、ここで「分からないから、好きなように自分の信じる道を行きなさい」とならないのが、親しい親子である。分からないのであれば、いや、分からないからこそ、母親たちは「さらなる安全策」を勧めるようになる。男子の母親であれば、国公立大学への進学を願うという元来の傾向に加え、職業資格領域への進学も促すようになる。逆に女子の母親であれば、もともと職業資格領域への進学を期待しがちなところ、加えて国公立大学への進学も求めるようになる。こうした結果が、データからクリアに抽出される。
 状況が見えない時は、できるだけリスクやコストが小さくなる方法を選ぶ。教育改革の渦に巻き込まれ、「改革疲れ」という言葉が飛び交う大学界に身を置く立場からすれば、表現しようがない虚しさを抱いてしまう結果でもあるが、それが現状というものなのだろう。
 いずれにせよ、もはや親子の間の親しさだけでは、進路の方向性を見定めることが難しい時代になっている。将来が見えない中で、800弱の大学が多種多様な学びの機会を提供し、それぞれの「ウリ」を声高に宣伝している。大学進学を控えた親子たちは、判断するための「拠りどころ」を求めながら、安全策へと流れている。
 ただ、考えてみれば、高校生親子にとっての「拠りどころ」がまったくないかと言えば、そういうわけでもないだろう。連載第5回でもふれたが、母親たちは高校が発信する情報を熱心に参照するようになっている。日々の学習と進路に注力する高校教員は、親と子の双方にとって大事な拠りどころになるはずだ。
 では果たして、実態はどうなのか。次回はこの問いに迫ってみたいと思う。




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