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最終回 エビデンスベースドで学修成果を把握するⅠR

2022/03/23

連載 2040年に向けての大学教育

最終回 エビデンスベースドで学修成果を把握するIR

山田 礼子
  
 高等教育の質保証推進政策を背景として、GPA制度・単位の実質化等の方策が多くの日本の大学で実施されるようになった。特に、2020年1月に中央教育審議会大学分科会により公表された「教学マネジメント指針」では、第3期の認証評価から特に重視されるようになった内部質保証と共に、学修成果の可視化が強く求められている。そのためには、情報収集・整理・分析・エビデンスの提示を行うインスティチューショナル・リサーチ(IR)が機能し、大学内でそのデータや分析結果が活用されていくことが不可欠となる。「質保証」へのさらなる推進は、16年3月の学校教育法施行規則に伴い、学位プログラムを単位としてディプロマ・ポリシー(DP)、カリキュラム・ポリシー(CP)、アドミッション・ポリシー(AP)の三つのポリシーを見直し、17年に公表することを各大学に求められたことが契機となった。前述した教学マネジメントとは、この三つのポリシーを結合し、教育力の向上に対する組織的な取り組みをすることであり、教職員のFD・SDも含めて、総合的に「マネジメント」することを指している。教学マネジメントの確立には、エビデンスとなるデータを収集・分析した上で、客観的なデータに基づき教育改善を推進することが不可欠だ。これが、IRの機能の精緻化が多くの大学で強く要請されるようになった要因でもある。そして、内部質保証や学修成果の可視化を行うIRが、教学IRだ。
 IRと学修成果の測定、そして質保証には深い関係がある。日本では高等教育のユニバーサル化が進行し、大学の入学者選抜が従来のような入学者の質保証の機能を保持することは難しくなってきた。従って、多様化した学力・学習目的を持った学生に対する大学の教育力が期待されてきた。それと同時に、その結果としての高等教育の質保証を出口管理によって達成することが重要になる。GPA制度の活用による卒業判定や、大学全体・各学部等での人材目標の明確化などがそうした具体的方策の一例だ。また、これらに加えて、学修時間の把握といった学生調査やアセスメント・テストあるいはルーブリック等、具体的な測定手法を用いて学修成果の可視化を実質化。そうした結果を改善につなげることが、「教育の質保証」とみなされている次第だ。
 実際に、各学部・学科等の単位で行う学修成果の測定については、個人を単位とした卒業論文・卒業研究が方法として用いられることが多い。しかし、教学IRとしての利用方法というよりはむしろ、教員が個人で学修成果を把握する意味合いが強い。その意味では、全学単位で学修成果を把握するために最も用いられやすい「学生アンケート」が、教学IRとして多くの大学が利用している方法と言えるだろう。その際、大学によっては学籍番号と学生のGPAやその他の情報を紐づけることにより、より時系列に近い形で学生の学修成果の把握を行うことも可能になる。学生調査データをGPAや修得単位数など、内部データと組み合わせて分析し、活用していくことで、エビデンスベースドによる学修成果の把握と、それを基にした教育改善を可能にするのが、教学IRの機能でもあるわけだ。
 最後に、こうした教学IRの推進のためには、各大学においてIRを担う人材の配置が必要となる。IRを担う人材はデータを収集し、高等教育の文脈においてデータを分析した上で結果を執行部に報告する。同時に、分析結果をエビデンスとして各部門に提示し、教育改善へとつなげていく支援をすることが役割でもある。データサイエンスが注目を浴びる現在、大学においてエビデンスベースド・マネジメントを支援する専門職をいかに育成するかは、すべての高等教育機関の課題だと言えるだろう。




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