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第2回 大学教員を知るデータ

2024/05/24

連載 高校生のための大学四方山話

第2回 大学教員を知るデータ

村澤 昌崇

 前回では、教員数が戦後に比して10〜20倍にまで拡大していることを示した。ここで補足的に公的統計による大学教員の実像をもう少し紹介しておこう。
 前回提示した教員数は、大学に籍のある常勤教員である「本務教員」の数値だ。大学教員には別に「兼務教員」という非常勤教員が存在する。これは、授業は担当しているが、当該大学に籍がない教員のことを指す。他大学に籍(本務)がある教員もいれば、籍を持たない(本務が無い)教員もいる。この「兼務教員」数も増加の一途をたどっている。こちらも前回同様昭和25(1950)年を基準とすると、最新の令和5(2023)年では全体で25・9倍、国立では14・0倍、公立では60・1倍、私立では30・5倍となっており、本務教員以上に拡大していることが分かる。さらに、本務教員と兼務教員の割合を眺めてみると、昭和25年時点での兼務教員割合が全体で40% (国立33%、公立22%、私立49%)であったのに対し、令和5年時点での数値は全体では51%(国立37%、公立55%、私立56%)となっている。
 このように日本の大学は、兼務教員という非常勤職、言い換えれば非正規教員への依存度を経時的に高めており、特に公立・私立大における依存度が高くなっていることには留意が必要である。なぜなら、非正規教員のノルマは一部の授業のみで、大学での学部・研究科等の運営や、授業外・ゼミナール等を通じた学生指導・支援の面での責任を負わないため、誤解を恐れずに言えば、この種別の教員への依存は、教育の質低下への懸念が生じかねないからだ。
 こうした実態に対し、令和4年からは非常勤兼務教員であっても、大学運営責任を持ち、主要な授業科目を担当できる「基幹教員」となれる制度が導入された。しかし、非常勤・兼務教員にも責任を持たせることができる反面、常勤教員の負担増が公然と囁かれている。一連の大学改革と大学教員の大衆化・変容の行き着く先は、初等中等教員と同様に「ブラック化」なのかもしれない。関心のある方は、合わせて上林陽治氏の論文「専業非常勤講師という問題」も参照されたい。
 話は変わって前回の連載では、大学が大衆化したにも関わらず、大衆化で専(もっぱ)らやり玉に挙げられたのは学生ばかりで、大学教員の大衆化が論じられることがまれであることを述べた。実は学術研究の対象としても、大学教員が扱われること自体多くはない。
 とはいえ、大学教員を論じるための材料は無いわけではない。若干理系や科学技術、そして研究活動に偏っており、対象者に大学教員だけではなく、民間企業における研究者も含まれてはいるが、科学技術・学術政策研究所(NISTEP)が平成18(2006)年から毎年行っている「科学技術の状況に係る総合的意識調査(NISTEP定点調査)」というものがある。本調査からは研究に関わる人材・環境・活動・支援等に関する大学教員の意識や評価を伺い知ることができる。ほかにも文部科学省が平成14(02)年から実施する「大学等におけるフルタイム換算データに関する調査」や「大学教員の勤務実態に関わる調査研究」、「研究者・教員等の雇用状況等に関する調査」などからは、大学教員の活動時間の内訳や勤務実態、雇用環境等を知ることができる。
 ほかにも単発の調査も含めれば、大学教員に関するデータは散在してはいる。しかし、ここで東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センターに寄託されているデータを検索してみると、大学教員を直接対象としたと思われる調査は2件しかない。他方、大学生を対象としたと思われる調査は多数存在している。もちろん一概には言えないが、大学教員を知るためのデータがあまり身近ではないことを示唆している。そこで次回は、大学教員に関わる調査データの一部を紹介することにより、データを通じて大学教員の実像に迫ってみたい。




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