237号
2025/03/15
令和7年3月のはじめ、東日本を中心とする広い範囲で雪が降った。東京などの都心部においても積雪が観測され、春の足音のすぐ横で、季節に逆らうようにして降った雪が記憶に新しい▼地上に降る雪の一粒一粒に目を凝らすと、規則的な六角形の形状をしていることが分かる。「雪の結晶は、天から送られた手紙である」とは、雪の結晶の美しさに魅せられ、雪氷学の基礎を築いた物理学者・中谷宇吉郎が残した言葉である▼中谷はいまから89年前の昭和11年3月12日、雪の結晶を人工的につくることに成功した。これによって、雪の結晶が形成される過程と気象条件との関係が明らかになったと聞く。また、人工雪は、雪に関する謎を解き明かすだけではなく、現在でもスキー場などで幅広く活用されているのは周知の通りだ▼中谷は研究について、さまざまな雪の結晶をつくることが一番の楽しみだったとも語る。季節外れの雪が解ける頃には、春と共に新生活を迎える人も少なくないだろう。新しい環境に慣れることはもちろん重要だが、慌ただしい日々に忙殺されないために、雪の結晶の美しさを楽しむような、自分の心を解かす時間をしっかりと用意して欲しい
[news]