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第96回 東京科学大学 初代理事長 大竹 尚登氏
2024/10/15
「善き未来」の実現、「コンバージェンス・サイエンス」に挑む
東京科学大学 初代理事長 大竹 尚登氏
令和6年10月1日、高等教育機関としての役割はもちろん、専門的な分野における実学に根ざした高い研究力を有する国立大学法人東京医科歯科大学と国立大学法人東京工業大学が統合し、新たに国立大学法人東京科学大学が誕生した。他の有力大学や大手民間企業などとも連携を図り、「世界最高水準の研究大学」を目指す。国立大学法人の中でも一線を画す大胆な理事長・学長の2トップ体制を導入し、国際的に卓越した教育研究拠点として、新産業創出も展望する「医工連携」をはじめとする多様な学問領域の融合を図ることで社会と共に活力ある未来づくりに挑む東京科学大学について、初代理事長に就任した大竹尚登氏に熱いお話をうかがった。
──令和6年10月1日、「東京科学大学」が誕生しました。初代理事長に就任した現在の心境を教えてください。
非常に大きなことを舵取りしていくことに対して身の引き締まる思いです。その一方、「ワクワク」する気持ちも強くあります。東京工業大学、そして東京医科歯科大学の学生や若手研究者など、直接的な関係者の多くはこの統合に前向きで、「何かやろうよ」と積極的な意欲を持っている方も少なくありません。未来を背負う立場にある方々がこの統合に大きく期待してくださっていることは理事長として非常に嬉しく、今後進展する「医工連携」の将来を楽しみにしています。
ご存知の通り、東京工業大は理工学系、東京医科歯科大は医歯学系の分野で教育研究を牽引してきた国立大学です。両大学とも長い年月をかけて実学に根ざした尖った研究を続け、それぞれの専門分野で世界の最先端に伍してプレゼンスを高めてきました。
その歴史と伝統を尊重するため、二つの大学を統合する上では「Bridge over two peaks」というイメージを大切にしていきたいと考えています。これは、まさに二つの高い山の頂上に橋を架け、その上に並ぶ多様な学問領域の連携・融合を図るという趣旨のものです。互いの専門性や違いを尊重することで生まれる相乗効果に期待が高まり、若手の研究者や学生、あるいはこれから大学進学を目指す高校生のみなさんに「ここで新しいことをやろうよ!」と呼びかけたいというのが率直な思いです。
──統合に至った背景や狙いについてお聞かせください。
東京医科歯科大学、ならびに東京工業大学の双方の学長の考え方のベクトルが合致していたのが端緒になりますが、「社会課題が突然顕出した時に、それを本当に解決することができるのか」というところへの疑問が背景にあります。こうした疑問が顕在化した要因の一つが新型コロナウイルス感染症(COVID- 19)の感染拡大です。感染が世界的に広がり、その後ワクチンの研究・開発が進められましたが、開発されたのは日本製のものではありませんでした。もしかすると両大学が開発を期待される立場にあったかもしれない中で、いまのままで本当に良いのかという危機感が植えつけられたように感じました。これに限らず、現代社会には、カーボンニュートラルの実現など、さまざまな世界的課題が存在しています。これらの諸課題はいずれも複雑化しており、単一のアプローチによる取り組みだけでは解決に至らないことも少なくありません。
これからの社会課題を解決するためには、現在有している専門性を強化するだけでは足らず、専門性に強みを持つ東京工業大・東京医科歯科大がタッグを組み、それぞれが立脚する自然科学のさまざまな分野を自由な発想でかけ合わせて新たな学術分野を生み出していく必要があるのではないかと考えています。
すなわち、両大学に橋を架け、多様な研究者と学生がフラットな関係の下で理工学や医歯学、さらには哲学・心理学・社会科学などのリベラルアーツを融合させた「コンバージェンス・サイエンス」を推進し、自由闊達な協働で、現在の日本の大学にはない新たな価値を創出することによって社会課題を解決していくというのが今回の統合の狙いです。
また、昨今は、大学進学の選択肢として、高校生あるいは中学生、その保護者の方々の視野の中に日本国内だけではなく、世界の大学が入ってきているように認識しています。そうした状況下において日本の高校生やアジアの生徒・学生に選ばれる、また、世界トップクラスの大学と比肩する「ワールドクラスユニバーシティ」になるためには、教育・研究ともに磨き、大学としての幅を広げていく必要があるのも事実です。
──新大学の名称を決めるにあたり、公募を実施したとうかがいました。
名称検討ワーキンググループを設置し、教員、学生、事務職員、医療職などの多職種、男女比、年齢バランス、国際性を考慮して選出した両大学同数のメンバーによる議論を行いました。令和4年11月25日から12月8日には両大学のウェブサイトから提案受付も実施し、6000件を越える提案が集まりました。
いただいた提案を参考にしながら、今回の統合の目的や新大学の目指す姿・方向性と改めて照らし合わせて決定したのが新名称「東京科学大学」です。
統合に向けた基本合意書には、新大学の目指す姿として「両大学の尖った研究をさらに推進」「部局等を超えて連携協働し『コンバージェンス・サイエンス』を展開」「総合知に基づき未来を切り拓く高度専門人材を輩出」「イノベーションを生み出す多様性、包摂性、公平性を持つ文化」を謳っています。これらを具現化するためには、伝統ある両大学の専門分野、自由な発想や対話から生み出される未知の領域はもちろん、人文科学・社会科学的視点を含めた「科学」の発展こそが原動力となるでしょう。
新大学がこれからの「科学」の発展を担い、社会と共に活力ある未来を切り拓いていく、そして新たな価値創造を希求する人のみならず、広く科学に興味を持つ人も含めて多様な人々をこれまで以上に惹きつける大学でありたいという思いを込めました。
名称の先頭はこれまでと変わらず「東京」を冠しました。これは、日本の首都であり、国際都市でもある「東京」に本拠地を構える大学であることを示しています。
また、英語表記については専門性の高さを強調し、ワールドクラスユニバーシティを目指すことを表現するため、「Institute of Science Tokyo」としました。
世界最高水準の研究大学へ
──令和4年8月、統合に向けた協議開始を正式に発表しました。この2年間でどのような準備を進めてきたのでしょうか?
両大学の学長を中心に、46回にもおよぶ統合準備委員会を開催してきました。統合準備委員会はこの統合協議の最高機関に当たります。そこから枝分かれして教育、研究、国際研究など、さまざまな議論の場が設けられ、最終的には200人規模での準備を進めてきました。
教育に関して申し上げると、理工学系・医歯学系を問わず、一緒に取り組むことができる1年次の教育プログラムを考えています。
また、人材育成についても、教育の中で方針を具現化してきました。もちろん、大学教育はいきなり変えることはできません。例えば、入試については入学志願者の準備に大きな影響をおよぼす場合、2年ほど前には予告・公表することとされる、いわゆる「2年前ルール」がありますので、開学と共に新たな教育をスタートすることは現実的には難しいのですが、新しい人材をどのように位置づけていくか、その中でどのようなカリキュラムを設けるのかというところは重要な課題として認識しており、今後も慎重に検討を進めていきます。
他方、研究に関する大きな変更が間に合ったのは幸いでした。10月1日の統合に合わせて新しい研究組織「総合研究院」「未来社会創成研究院」「新産業創成研究院」の三つを立ち上げ、学内・外での議論と研究を活性化させていく体制ができました。
──新設される「研究院」が特に注目されています。
「総合研究院」は、常勤・特任合わせて約500人の教員が在籍する場として機能します。「curiosity driven」と言いますが、研究者の興味・関心に即して自由に研究を進めることができる環境が実現します。理工学・医歯学それぞれの専門性に富んだ研究者が集まって基礎研究推進と融合・新分野形成を行い、社会課題の解決や将来の産業基盤および医療基盤の育成を意識した研究成果の創出に取り組んでいきます。
「未来社会創成研究所」では、未来の課題の発見と解決を目指していきます。
ここでは、まず「未来にあったらいいな」という像を描くところから始めていきます。例えば、「火星に住む」というゴールがあったとして、それを実現するためにはいま何が足りないのか、どのような研究を行っていく必要があるのか、あるいは必要な制度や社会システムなどを考えていきます。これは「バックキャスティング」とも呼ばれていますが、このアプローチを行うことで未来像と現在の間をつなぐための研究テーマが生まれてきます。
課題を先に定義したり、予測したりするのではなく、人々が望む未来社会をまず描いていくという点で特徴的です。これを私たち研究者だけで行うのではなく、高校生をはじめ、企業や公的機関の方々なども含む多様な人々を交えていきたいと考えています。ワークショップなどを開催し、さまざまな人の視点を掛け合わせて未来社会を描いていく。現在、すでに「おうち完結生活」や「直列120年人生」のような24のシナリオの実現に向けて研究を進めていますが、今後も社会との対話を通じて多様な人々にとって望ましい未来を実現するための研究を推進します。
「新産業創成研究院」では、新産業の創出やそれを担う未来人材の育成を社会との協創により推進していきます。
具体的には三つの役割を持っており、まずは研究によって開拓した革新的な科学や技術を社会実装していく際の企業との連携です。そして、次は世界を変える大学発スタートアップを育成するという役割があります。ベンチャー創出により研究成果を社会に還元し、世界をより良いものにしていくことに貢献していきます。そして最後は医工連携の強化です。東京医科歯科大の大学病院のある湯島キャンパスに「医療工学研究所」を設置する予定で、完成すれば理工学系の学生や研究者も医療現場を間近に体験できるようになります。
統合によって橋を架けると申し上げましたが、それだけでは「医療」「科学」「技術」「工学」はそのままの状態です。実際の臨床フィールドを活用し、理工学系の研究者と医師・歯科医師、看護師が共働する機会を設けることで、やがて一人の人間の内部でも両方の分野に精通する研究者が誕生してくるでしょう。
これまで、東京工業大には科学技術創成研究院やフロンティア材料研究所などの四つの研究所が、東京医科歯科大にも難治疾患研究所と生体材料工学研究所がありました。これらを一度発展的に解消して、改めて三つの研究院を作り直します。新しい研究院には両大学の研究組織が入り、ブランニューな組織として幕を開けます。
──統合後の「理工学」「医歯学」の連携はもちろん、リベラルアーツを融合させた学びの展開が楽しみです。
分かりやすい取り組みとして、「立志プロジェクト」と「大岡山Day」をご紹介します。
立志プロジェクトとは入学直後の必修科目で、教養教育を、各自のゴールに向かって「志」を立てるプロジェクトと捉え、そのための自己発見と動機づけを行うものです。以前は東京工業大で実施していたのですが、令和7年4月以降に東京科学大に入学する学士課程新入生全員を対象に実施することになりました。
想定している内容としてはゲストスピーカーを招いた講義聴講と4〜5人程度の人数で実施するグループワークです。ゲストスピーカーから学んだことをテーマにグループワークを実施することで、学生は意外にも人によって感想が異なることを体感します。その流れの中で視野が広がったり、自分への理解を深めたり、あるいは他者に自分の意見を分かりやすく伝えたりなど、コミュニケーションやプレゼンテーションのスキルを身につけることができる環境が実現します。これを理工学系・医歯学系両方の学生を交えて行うため、より多様性ある意見交換の活性化が展望でき、リベラルアーツの素養が育まれます。
入学直後の4~5月は、週1回のペースで新入生全員が大岡山キャンパスに集い、この立志プロジェクト等を通じて教養を身につけていきます。本学では、この日を「大岡山Day」と名づけました。
この立志プロジェクトと大岡山Dayは、学院・学部の垣根を越えた交流を促進し、リベラルアーツの基礎を構築することを目的に実施していきますが、「将来の友人をつくる」という位置づけにもしています。例えば、看護のさまざまな場面ではロボットが貢献できることが多くあり、しかしその反面ロボットには任せることができない部分があるのも事実です。これらを適切に判断して医療現場へロボットを実装するためには、看護学を学んだ人とロボット工学を学んだ人が共に研究をしていくという日が早晩訪れるでしょう。理工学系を学ぶ学生にとって学生のうちから授業を一緒に受けたり、サークル活動に共に励んだりして将来の医師・看護師・歯科医師などとつながりが得られる意義は大きい。また、医歯学系の学生にとってもAIやロボットに詳しい友人がいることは心強いでしょう。
──国際通用性の強化についてお考えをお聞かせください。
大学院の理工学系では、すでに講義を全員が英語で履修しています。学士課程に関しても英語ですべての授業を受けながら国際的な社会問題を解決する人材を目指す「国際人材育成プログラム(GSEP)」などを展開しています。また、医学系に関しては8割程度の学生が留学経験を持っていますので、現時点で国際通用性の担保は十分にできていると自負しています。今後はプログラムや奨学金制度などの充実に力を入れ、より国際通用性を高めていきます。
それに加え、海外の優秀な研究者に来ていただくための環境整備にも注力します。 東京工業大には、地球生命研究所での研究活動をはじめ、海外の優秀な研究者と共に国際共同研究を推進する6年間のプロジェクト「World Reseach Hub Initiative」という、優秀な海外研究者を大学に招いて共同研究に取り組んできた実績がありますので、そのノウハウを活かしながら受け入れ体制を整えていきます。現在考えているのは、必要十分な実験施設や研究機器を学内に常備することです。それによって、研究者はいつでも身一つで本学にやってきてすぐに研究を始めることができますし、あるいは、年に数回だけ実験に参加するなど、研究を柔軟に行うことも可能です。
機能的な成長を実現する組織体制
──同一の国立大学法人の中で、「理事長」と「大学総括理事」の2トップ体制となるのは、他の国立大学統合とは一線を画します。
理事長・学長2トップ体制を採った背景の一つには、国立大学に向けられる社会の目が大きく変わってきた現状があります。良質な論文数が減少傾向にあったり、世界的なランキングが低下していたりなど、国の研究力に対して社会から厳しい目が向けられる中で国立大の成長が求められるようになりました。
近年では、世界トップレベルの研究水準を目指して国が支援を行う大学ファンド「国際卓越研究大学」の要件に「年3%」の事業成長が盛り込まれるなど、経営・戦略に対してより真剣に向き合う必要に迫られています。
その3%にしても、原材料費の高騰や物価高という昨今の社会情勢を鑑みると、実際にはもっと高い数値での成長が求められていて、本学としてもこれまで以上に明確な経営戦略を実行に移していかなければなりません。その際、成長を遂げるためのカギとなるのが教育や研究そのもののアウトプットを増やしていくことなのだと思います。
具体的にいうと、教育と研究の実力を高めてより良い人材を輩出すると共に、高い研究成果を世の中に出して社会に貢献し、社会からリスペクトされる機会を増やすことということにほかなりません。その結果、産学連携等の機会が増え、大学が獲得できる外部資金も増えていきます。そして、それを基礎研究や学生の奨学金強化に還元していき、教育と研究をさらに高めていく。こうした好循環を確立していくことを成長を遂げるための基本戦略として掲げています。
そのため、本学では理事長である私が法人の長として大学経営に専念し、大学が社会に貢献するためには何をすべきか、優れた人材を育成するためには何が必要なのかを考え、それと同時に、学長は教学の長としてその戦略に沿って組織をつくり、具体的なカリキュラム策定や講師の選定などに当たるという方針を採ることに決めました。
役割分担をしてシンプルかつ大胆な施策を打ち出し、それを実現する組織体制を構築することで、機能的に成長する大学を具現化できるのではないかと考えています。
また、実務面では、同日に複数のイベントがある場合にも、大学として両イベントに顔を出すことが可能になるのも好ましいと感じています。例えば、私が会議に出席し、学長がサークル関連のイベントに出席をする。学生も喜びますし、大学としてもアクティブな活動が可能になります。これも、リーダーが二人いるメリットでしょう。
──「一法人複数大学」方式ではなく、単一大学としての統合を選択した目的について教えてください。
本学では、これから医工連携をはじめとするさまざまな分野で教育研究力を強化しようとしていますが、新しい組織を立ち上げる際には、どの教職員をどこに配置するのかが最も肝心です。
一法人複数大学ですと、大学間を異動する時、転職のように一度退職しなければならないなどの障壁がありますが、単一大学であれば人材の流動性を確保することができます。新しいプロジェクトや研究所の立ち上げ等への挑戦も容易になりますし、それに関連する人事やリソースの配分も大胆に行うことが可能になります。直面する社会課題や未来の課題に合わせて「変化しやすくなる」ということは大きなメリットと言えるでしょう。
一方、学びの分野や規模感、歴史や文化も大きく異なる二つの大学が統合することになるため、お互いを理解し、尊重するためのプロセスも欠かすことができません。さまざまな面においてやはり考え方が大きく異なる部分もあり、お互いを理解するための時間を十分に確保するというのが統合の要件になってくるでしょう。
不透明な時代が欲する科学の力
──貴学が描く中長期的なビジョンをお聞かせください。
先の見えない時代だからこそ、「未来は予測できない」と嘆くのではなく、科学の力で「善き未来」を創っていきたいと考えています。この善き未来とは、「善き生活」「善き社会」「善き地球」を意味しています。
ただし、善き生活という点では、「健康に長生きをしたい」「120年の人生を楽しくいきたい」など、人によって未来で送りたい生活はさまざまです。それぞれの人にとっての望ましい未来を実現できる大学になりたいというのが志向の一つで、そのためには科学の力が必要不可欠になるでしょう。
そしてもう一点、個人の幸福を実現するための社会システムも、科学のこれからの潮流の一つになるのではないか。例えば、「医療データをいかに安全に使っていくのか」というケースでは、AIやビッグデータと医療の力を合わせてシステムを構築しなければなりません。また、「火星で暮らす」ことを実現するためには、現地で酸素、水、食料、エネルギーを調達するのと同時に、人々が暮らす仕組みを決めるための法律や哲学も必要になるでしょう。
東京工業大と東京医科歯科大それぞれの専門性を強化すると共に、リベラルアーツを融合させて、イノベーションを引き起こしていきたい。
さらに、地球規模の大きな問題に立ち向かうことも重要です。地球温暖化やエネルギーの安定供給などの大きな課題に対して、科学の視点からあらゆる手段を検討し、貢献できることを探しつづける姿勢を決して忘れません。
身近なことから地球規模の問題まで、科学の力でウェルビーイングを増進し、科学の力を社会に還元していくのが私たちの役割であり、東京科学大はそのための人材を育成し、研究成果を輩出する大学になります。そういった思いを込めて、本学のミッションには『“科学の進歩”と“人々の幸せ”とを探求し、社会とともに新たな価値を創造する』を掲げました。
──理事長としての今後の展望をお聞かせください。
中期的に世界トップクラスの科学系総合大学を目指すため、「基盤階層」と「独自階層」からアプローチをかけていきます。
基盤階層では、すべての構成員に対して高度な多様性、公平性、包摂性を確保し、誰もが自由でフラットに意見が言えて提案できる環境の整備を行うため、世界標準のガバナンス体制を構築します。
独自階層という観点では、これまでの実学に立脚した教育研究をさらに発展させていくと共に、国内・外の大学とも広く連携し、世界最高水準の研究体制を整え、世界水準の研究者に数多く来ていただき、また私たちの手でも優秀な研究者を育成していくことを目指します。
これらを実現するためには、企業や同窓生、国から研究資金を助成いただいたり、あるいは国のプロジェクトに参加したりしてより強い大学に成長していかなければなりません。本学が目指すことや挑戦していくことに対して、「ぜひ一緒にやりましょうよ」と国内・外に広く問いかけるのは理事長である私の役目です。
また、それと同時に、理事長としては、「Energize」「Execute」「Empower」の三つの“E”を実践していきます。この三つのEとは、すなわち私自身が活力に満ちて周囲の人々を元気づけ、約束したことを実行し、構成員の潜在能力を引き出し開花させていくことを指します。これらを念頭に置きながら、学長と共に新大学を牽引していく覚悟です。
──東京科学大学で学ぶ学生に何を期待しますか?
「楽しくやろうよ」と声をかけたいと思います。サークルや授業、研究など、これまで通りの形式で行うところもありますが、立志プロジェクト、それから理工学系の学生が実際に医療現場に足を運ぶなど、理工学系・医歯学系が一緒に何かにチャレンジするタイミングも増えていきます。ぜひその機会を楽しんでいただきたいと思いますし、その「ワクワク」感を世間に広く伝えるアンバサダーのような存在になってくれることを期待しています。
また、理工学と医歯学は学問的には異なる分野ではありますが、すぐ隣にある身近な存在だという認識を持ってもらえたら嬉しく思います。学問の枠を越えて一緒に学ぶことで、必ずや友人も増えていくことでしょう。まずは理工学系と医歯学系の距離を近づけ、フラットな関係で人材交流や人材育成を進めていきます。私自身としても、将来的には理工学・医歯学両方に精通した、いわゆる「π型」人材に成長していただけることを願っています。
新たな価値を創出するダイバーシティ
──日本を取り巻く社会環境が劇的な変化を余儀なくされる中、高等教育機関に求められる役割とはどのようなものになるとお考えでしょうか?
これまでの高等教育機関であれば、機械を専攻した人は機械の専門家として育成してきました。しかしながら、社会から求められる「人材像」には大きな変化が訪れており、昨今では一人ひとりの活躍が期待されています。
具体的には、マルチスキルを有した人材を挙げることができるでしょう。「機械にも精通した医師」のように、一人ひとりの中にある多様性が求められてくると思います。
そして、リベラルアーツ的な視点も重要です。何らかの問題が発生し、解決策を検討する流れになる中で、それが本当に社会で受け入れられるものなのか、将来にわたって善き未来をつくっていくことができるものなのかということを自問自答できる思考力を持ち合わせていることが大切になるのではないかと思います。高等教育機関としてもこれらの力を備えた人材を輩出する責務があるでしょう。
また、組織単位でダイバーシティを拡大していくことも求められています。
例えば、共同研究の場で女性研究員の方の意見が研究に新たな視点を与えてくれることがあります。そういった意味では、異なる「考え方」をもたらしてくれるダイバーシティは新しい価値を生み出し、社会のさまざまな問題を解決する一手を増やす存在として非常に重要な役割を担っていますし、製造業等の企業の方々からも多様な人材を求める声を聴くことが少なくありません。
しかし、「性別」という観点から見て、理工学系研究者の女性の割合は非常に少ないのが現実で、実際に前身の東京工業大の入試では総合型選抜に女子枠を導入し、女性研究者の増加に取り組んでいました。社会との整合性もありますし、女性という多様性を増やすという取り組みは新大学でも続けていきたいと考えているところでもあります。
また、これは、「性別」に限定した話ではなく、「国籍」「年齢」「人種」「障害の有無」等にも当てはまります。高等教育機関として、多様な人材の確保とすべての人々が安心して研究活動に取り組むことができる環境の実現に取り組んでいきたいと思います。
──高校教員に対する要望があれば教えてください。
「科学」という二文字は、さまざまなものを収斂しています。理学や物理化学はもちろん、生物学や工学、医学あるいは歯学や看護学、そして、その中には社会科学や人文学も入ってきます。科学の領域は非常に幅広いことをお伝えしたいと思います。
また、本学には、リベラルアーツに富んだ知識を持つ優秀な教授、准教授・助教等が77人もいます。多様な学びにワクワクする方の背中を押すことができる点は本学の長所の一つだと考えています。
──高校生に向けてメッセージをお願いいたします。
頭の使い方を鍛えていただけたら嬉しく思います。あるニュースが流れていた時に、ただそれを漫然と見ているのか、その背景や歴史を考えたり、自分の考えをまとめてみたりして頭を使っているのかで、将来は大きく異なってくるでしょう。
実際に、私自身の友人を見ていても、若い時に自分の頭で物事を考える習慣をつけている人は課題を発見し、解決に導くのが上手な印象があります。日常からそうした習慣を大事にしてください。
それから、科学を通じて実現できることは豊富にあるということもお伝えしたいと思います。私たちは地球で生活を営んでいますが、実は人類が理解していることは全宇宙の4%くらいに過ぎないのです。文明が進み、情報があふれ、ほとんどを理解していると錯覚しそうになりますが、世の中のことをまだまだ理解できていないのが現状です。
そういう状況において、科学がこれから明らかにしていくものは非常に大きいですし、未知なる物事を紐解くためにやるべきことは無限に存在して限りがない。また、未来のありたい姿を実現するために科学が貢献できることもたくさんあり、科学の海に飛び込んで来てください。社会に貢献できる有為な人材への成長をお約束します。
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