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第97回 嘉悦大学 学長 森本 孝氏
2025/05/15
大幅な志願者増につながった新カリキュラム
嘉悦大学 学長 森本 孝氏
創立者の嘉悦孝が明治36(1903)年に設立した「私立女子商業学校」を前身とし、本年10月に学園創立122周年を迎える嘉悦大学(東京都小平市)。女性の社会進出が困難とされていた時代から、時代と社会が求める〝信頼される職業人〞の育成を追求してきた。本稿では、令和5年4月に学長に就任した森本孝氏を訪ね、大幅な志願者増につながるなど、成果を得ている新カリキュラムの特徴および背景にある考えをはじめ、社会へ一歩を踏み出した新規大卒者へのエールや高校教諭に向けたメッセージなどをうかがった。
4本柱のカリキュラム 成長や挑戦への意欲を重視
──令和5年4月に始動した新カリキュラムの特徴や狙いを教えてください。
ひと昔前に比べて、現代は大学卒業後の進路やキャリア、生き方の選択肢が実に多彩です。そのような時代背景もあってか、興味・関心や将来の進路がいま一つ明確ではない学生が増えてきている印象があります。そのため、いまの4年制大学には、学問の教授にとどまらず、学生自身が興味・関心を再発見し、社会へ踏み出す力を身につけられるよう、大学側の支援がますます求められています。
そうした社会の変化や学生の状況を踏まえ、本学では教育の在り方やカリキュラムの見直しに積極的に取り組んでいます。
令和5年4月に始動した新カリキュラムの大きな特徴は、アドミッション・ポリシーで掲げるように、「社会人・職業人として自立し成長できる人材」の育成を目的としている点にあります。言い換えれば、何か一つでも興味・関心のあるものを在学中に見つけ、それを軸に意欲的かつ自発的に学びを深めていけるような学生を育てることを目的にカリキュラムが組み立てられています。
新カリキュラムは、「実学」「実務」「実践」「社会人基礎」の4本柱から構成されています。まず「実学」に関しては、本学が経営経済学部の単科大学であることから、他大学の経営学部や経済学部と同様に、経営学や経済学といった実業に関する「学問」をしっかりと学べる体制を整えています。
他方、現代の新規大卒者は、ビジネスや企業の現場ですぐに役立つ実務能力が求められています。本学が「実務」を二つ目の柱に据えるのはこうした時代的要請に応えるためです。2年次からは、「マーケティング」「ICT・データサイエンス」「会計ファイナンス」「ビジネス法務」の4コースに分かれ、実務能力を養います。
令和5年4月からは、特にマーケティングコースとICT・データサイエンスコースの内容をより充実させました。マーケティングコースを設置しているのは、実社会で最も求められているのはマーケティング力、あるいは顧客を理解して商品・サービスを提案する力ではないかと考えているからです。ビジネスの身近な例として消費財の売買を思い浮かべる学生が多いこともあり、実際に一番人気が高いコースです。また、文系学部だから理系分野の業界に進むのは難しいと考えられがちですが、本学の経営経済学部で学ぶ学生にとって、将来のキャリアが広がる最も典型的な分野の一つが、実はICT・データサイエンスであると言及すると少なからず驚かれます。ICT・データサイエンスコースの強化に加え、全学共通のデータサイエンス教育やキャリア教育を通して、情報通信業も視野に入れた就職指導と情報提供を戦略的に行いました。その結果、令和7年3月に卒業した学生のうち、情報通信業に進んだ者が25%以上を占め、最も多かったことは、本学の特徴の一つです。
三つ目の柱として位置づけているのが「実践」です。学生の中には、将来進みたい業界がハッキリしている者も一定数います。そのような学生に向けて、ビジネス現場で実践的に学ぶ「8つのチャレンジプログラム」を用意しています。学生が興味・関心を持ちやすい「フードサービス」「ICTビジネス」「エンタメ」「ツーリズム業界」「起業・事業承継」「会計士・税理士」「地域創生」「公務員」の8業界を対象に、実際の現場に飛び込んで刺激を受けながら実践的に学べるように工夫しています。
最後の柱は「社会人基礎」で、社会人・職業人としての一般的な能力やキャリアデザインを学ぶ点が特徴です。この4本柱からなる教育を推し進めることで、卒業後の自分の成長を支える根幹部分、いわゆる〝底力〞を身につけた学生を輩出したいと考えています。
──貴学の入試の仕組みと、その背景にあるお考えをご教示ください。
入試制度としては、多様な生徒を受け入れたいという考えのもと、一般選抜はもちろん、総合型選抜や学校推薦型選抜も同様に重視しています。
さらに、本学で特徴的なのは、入試以前のオープンキャンパスでの個別相談や高校に私たちが出向いて実施する出張授業を、入学前教育に相当する場と位置づけている点です。
本学がオープンキャンパスで実施している個別相談は、教職員との対話を通じて、受験生が自分の興味・関心を確認したり、発見したりする場として機能しています。総合型選抜や学校推薦型選抜で入学してきた学生の多くは、このようなキャリアデザイン教育を本学を志願・受験するプロセスの中でごく自然に経験しているためか、入学後のミスマッチもそれほど多くはありません。高校での出張授業も同様で、大学で行うキャリア教育の「導入編」と位置づけようとの意気込みで、本学は積極的に取り組んでいます。
本学がこうした方針をとるのは、現時点では自分でもハッキリしない興味・関心を入学後に再発見していこう、あるいは自分の可能性を再発見したいという意欲を持った学生を本学が求めているからです。自分自身の成長や新しいことに挑戦する意欲を持って入学していただければ、それに応える教育体制が本学にはあると自負しています。もちろん、いま現在、高校生のみなさんには大学生同様に多様な選択肢があり、迷うことが多い状況だと思います。そのこと自体に問題はありません。
入学後は、本学の4本柱のカリキュラムの中に散りばめられた将来の進路を考えるヒントをもとに、芯となるものを見つけ、学びを深めて欲しいと考えています。
実学の伝統を踏まえた新教育体系 高校現場に伝え発展させたい
──嘉悦学園は本年10月に創立122周年を迎えます。今後の展望をご披露ください。
本学のルーツは、明治36(1903)年創立の私立女子商業学校までさかのぼります。この122年間の実学教育の伝統を継承しながら、進化・発展させていくことが今後の目標です。ただし、時代の流れの中で「実学」として求められるものに変化が見受けられるのも事実です。本当の意味での実学の大学として、学生が卒業後に社会で活躍し、高く評価され、将来の社会に貢献できるようにすべきであるというのが私の考えです。そのためには、卒業後も自ら学び、成長を続けられる人材を育てることが重要です。今後は、いま以上に卒業生や企業と連携を深め、実学教育を進化させていきます。
──社会に一歩を踏み出した新規大卒者にエールをお送りください。
現代社会はキャリアの選択肢が非常に多いのと同時に、不確実性の高い時代でもあります。そのため、自分の進むべき道に迷うこともあるでしょう。しかし、進む道を一度決めたのなら、まずは目の前の仕事に真剣に取り組み、手応えを得て、キャリアを築くことを期待します。一足飛びに良い成果や職位を得るといったことは難しいかもしれませんが、自分に与えられた一つひとつの仕事をていねいにやり遂げ、仮に小さくても成功体験を積み上げていき、周囲からの信頼を得ることを繰り返していくことで確実に自己成長は実現していくはずです。大学在学中に芽生えた興味・関心を卒業後も大切にしながら、自ら学ぶ姿勢を持ち続けてください。それがみなさんの成長につながると信じています。
──高校教員の方々にメッセージをお願いいたします。
本学の高大連携の取り組みや模擬授業などの際に、進路指導ご担当の先生方とお話しをする機会があります。高校におけるキャリア教育が様変わりする中で、先生方のご尽力には感嘆するばかりです。
本学も、カリキュラム横断的なキャリア教育を試みています。目的意識や興味・関心、将来の進路がハッキリしていない生徒こそ、大きく成長できる可能性があると考えています。
本学では、進路選択に迷う生徒のみなさんがキャリアデザインを考える機会を、これからも積極的に提供していきます。若者のキャリアを育てるという共通の目的を持つ高校教諭のみなさんから、多様なアイデアを頂戴しながら、本学のキャリア教育を発展させていければ幸いです。私たちにお任せください。
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