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第98回 名古屋芸術大学 学長 來住 尚彦氏
2025/05/16
おもしろいことを追究し、社会に貢献する大学へ
名古屋芸術大学 学長 來住 尚彦氏
名古屋芸術大学(愛知県北名古屋市)は、芸術学部と教育学部の2学部5領域40コースを設置し、社会で活躍できる有為な人材の育成に注力している。現在の株式会社TBSホールディングス(本社東京・港区)で長年活躍し、令和6年4月に学長に就任した來住尚彦氏を訪ね、同大の特徴や魅力についてお話をうかがった。
大阪・関西万博会場も学びのフィールドに
──名古屋芸術大学の特徴について教えてください。
本学は芸術教養をはじめ、音楽や舞台芸術、美術、デザインなどを専門的に学ぶ芸術学部、そして保育・幼児教育や初等教育の分野について専門的に学ぶ教育学部の2学部を抱える「芸術系総合大学」です。
施設・設備も充実させており、学生が自由に練習に打ち込めるピアノを205台有しているほか、美術領域では学生一人ひとりに対して広大なアトリエ・スペースを用意しています。これにより、学生は授業時間外も思う存分練習や制作に取り組むことが可能です。加えて、美術やデザインを学ぶ学生が作品を発表できる展覧会や、音楽を学ぶ学生が日頃の学びの成果を発表する演奏会の機会も豊富に設け、4年間で大きく成長できる環境を整えています。
──芸術大学の中に教育学部子ども学科を設置されているのはユニークに感じました。
日本の幼児教育に目を向けてみると、幼稚園や保育園では園児が歌を歌ったり、絵を描いたりしていると思います。国語や算数などの勉強を始めるのは小学校に入学した後です。つまり、子どもの時期は最初に芸術にふれるわけです。ですから、芸術大学で幼稚園教諭や保育士を目指せるのは実はとても理にかなっているのです。
また、本学の東キャンパスの隣には名古屋芸術大学附属クリエ幼稚園(愛知県北名古屋市)を設置していますので、幼稚園教諭や保育士を目指す学生の実習の場として活用しているほか、音楽鑑賞や造形活動などでも大学と積極的に連携を図り、園児の健やかな発育と学生の成長の両方をサポートするようにしています。
──來住学長は昨年の4月に学長に就任されています。改めて、これまでのご経歴について教えてください。
私は大学を卒業後、株式会社東京放送に入社し、オーディオエンジニアという技術職で社会人としての第一歩を踏み出しました。「フェーダー」と呼ばれる音量や出力レベルを調節できる機器を操作する仕事をメインで担当していました。
その後、当時TBSテレビで特に人気の高かった「ザ・ベストテン」という音楽番組のラジオ版を立ち上げ、多くのアーティストとの交流、プロデュース演出を行いました。また、平成8年にはコンプレックスLive空間「赤坂BLITZ」の企画立案、平成20年には赤坂エリアの商業施設や劇場、オフィス、集合住宅、広場などを融合した「赤坂サカス」のプロデュースを手がけました。
そして平成27年、エンターテインメントから芸術やアートまでを軸にしたマーケット分野の世界を目指し、株式会社TBSホールディングスを退社し、一般社団法人アート東京(本部東京・千代田区)を設立しました。東京や京都、大阪でのアートフェアの企画・制作・運営、マーケット分析を行い、国の施策にも多く関わりました。その活動をしていた時に名古屋芸術大学から声をかけていただき、令和3年より芸術学部の特別客員教授として教鞭を執るようになりました。
そして令和6年4月に学長に就任し、現在に至っています。令和6年12月には「Hearts」という新曲も発表しました。学長業務と共に自らも教員として作品制作にも力を注いでいる毎日です。
──今年の4月13日からは大阪府の夢洲で「大阪・関西万博」が開催されています。來住学長は芸術分野で協力されたとうかがいました。
私はアート東京プロデューサーとして「大阪・関西万博」内にある「迎賓館」のアートプロデュースをしています。迎賓館は世界各国から訪れた国王・大統領・首相やそのご家族などの賓客をお迎えする館です。
この迎賓館に日本を含む各国のアート作品を展示してアートを感じ、日本での滞在時間を優雅に過ごしていただけるように考えた企画です。
このアート作品展示は名古屋芸術大学の教授と、学内で選抜した学生たちと共に行い、学生たちには多くのことを体験してもらいました。一般の人はまず入館することのできない施設に入り、アート作品展示作業やプロデュース実習を行ったのです。学生たちが緊張しながらも目を輝かせてさまざまなことを吸収しようと一生懸命取り組んでいた姿はとても印象的でした。迎賓館を退館する時、「今日は本当にありがとうございました。今日のことをしっかりと心に刻み、両親に伝えます。とても勉強になりました」と、一回りも二回りも大きく成長した学生に接することができました。体験、そして過ごす場所と空間が変わるだけで、人は成長するものなのです。大学の中で勉学に励むことはもちろん大切です。しかし、学生たちは卒業後に社会へ出ますので、一流の場所や空間にふれさせる機会をできるだけ多く創出しなければならないと考えています。
今後も積極的に大学改革を行い、学生たちのさらなる成長を支援していきます。
企業や地域とつながる試み 未来を良くする人材の育成
──企業や地域社会と連携した産学連携事業をはじめ、ユニークな取り組みを数多く行われています。
最近ではデザインを学ぶ学生が本学の地元である日進乳業株式会社(本社愛知・北名古屋市)様とコラボレーションしてグミのパッケージをデザインしました。先日、東京へ出張に行った際に知り合いの国会議員の方に贈呈しましたが、芸術性の高いデザインが大変好評でした。今後は商品販売もできるようにこの取り組みをさらに加速させていきたいと考えています。
また、本学の新しい取り組みの一つとして今年の4月に名古屋芸術大学附属クリエ幼稚園の園児と教員、教育学部の学生と教員が自由に集まれる空間をキャンパス内に作りました。3〜6歳の園児、18〜22歳の学生、20〜30代の幼稚園の教員、40代以上の本学の教員と、世代の異なる人々が集まれる空間を作ることによって、新しい交流や化学反応が起き、教育や地域により良い影響を与えることができると期待しています。
──学生には在学中にどのようなことを期待しますか?
本学の教育環境を最大限活用して4年間で大きく成長して欲しいと期待しています。
私は人が成長するには「知識」「経験」「感覚・センス」の三つが必要だと考えています。「知識」と「経験」は大学が提供しますので、それらを活用して自分の「感覚・センス」を磨いていけば、きっと卒業時には素晴らしい人材に育っているはずです。
また、大学時代の友人は一生の友になることも珍しくありませんので、学生同士の交流やつながりもぜひ大切にして、素敵な4年間を過ごして欲しいと思います。
──名古屋芸術大学の学長として、今後のビジョンをお聞かせください。
世の中は急速なスピードで変化・進化しています。大学の学長として10年後・20年後の未来を予測し、学生や社会にとって有益な教育プログラムを提供し続けていきたいと考えています。
また、私の好きな言葉の一つに、江戸時代末期に武士として活躍した高杉晋作の「おもしろきこともなき世をおもしろく…」があります。世の中を生きていく上では決して楽しいことばかりではありませんが、自分の心持ち次第では世の中をおもしろく生きられるという意味が込められています。芸術には楽しさやおもしろさ、遊び心が必要不可欠な領域ですから、芸術大学としておもしろいことにも積極的に挑戦し、芸術と最新のテクノロジーを融合させるなど、いまの世の中をより楽しく、明るくすることができる人材の育成に力を注いでいくつもりです。
──全国の高校生および高校の先生方に向けてメッセージをお願いします。
高校生のみなさんに対しては、「未来は無限、人生は有限」という言葉を送りたいと思います。将来の可能性は無限に広がっていますが、時間は有限です。自分の夢や目標を見つけてそれに向かって精一杯頑張って欲しいとエールを送りたいと思います。
そして高校の先生方に対しては、未来ある高校生を導く職務を遂行されていることに敬意を表します。学長としては今後高校の先生方とも積極的に交流を図っていきたいと考えています。依頼があれば高校にも訪問させていただきますので、その際はお気軽にお問い合わせください。
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