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第99回 ビューティ&ウェルネス専門職大学 理事長 下村 朱美氏 学長 室伏 きみ子氏

2025/06/18

科学的な視点を持ったプロフェッショナルの育成 サロン経営グループの強み、現場で求められる素養を還元
ビューティ&ウェルネス専門職大学 理事長 下村 朱美氏 学長 室伏 きみ子氏



 










 ビューティ&ウェルネス産業を牽引・発展させる人材の育成を目指すべく、令和54月に開学したビューティ&ウェルネス専門職大学(横浜市)。下村朱美理事長と室伏きみ子学長を訪ね、人生に豊かさと幸福をもたらすビューティ&ウェルネスの学びとその可能性についてお話をうかがった。



──サロンだけではなく、教育業界にも展開を始めた経緯についてお聞かせください。
 昭和57年にエステティックサロンを開業後、これまでお客様のニーズに合わせたブランドのもとでサロンやスパを国内外に数多くオープンしてきました。
 まだエステティシャンを目指せる専門学校がなかった頃、エステティックサロンで施術を受けたことで顔や体が傷ついたり、返金対応をしなかったりといったトラブルがニュースで取り上げられることが少なくありませんでした。
 しかし、サロンという場所はとても平和なんです。美しくなりたいというお客様の期待にお応えできるように、スタッフは誠心誠意、最上級の技術とサービスを施します。サロンを経営する立場として、「私たちは一生懸命、一人ひとりのお客様と向き合っているのに」と、悔しい気持ちになったことを覚えています。私自身、「自分たちのお客様に合う技術者を」と考えていたこともあり、平成20年に「学校法人ミスパリ学園」を設立しました。現在は、全国各地に4校の専門学校を設置しています。
 私たちの専門学校ができたばかりの頃は、やはりネガティブなニュースの影響もあってか、保護者のみなさまからの視線は冷たく厳しいものでした。しかし、それでも「ミス・パリで学びたい!」と言って、親御さんの反対を押し切って本学を選んでくれた学生たちがいたんです。その時に、「絶対にエステティシャンを誇りのある素晴らしい職業にしたい」と決意しました。
 お客様が安心して施術を受けられるように、美容の正しい知識と高い技術を備えたエステティシャンを育てたい―。そうした強い想い入れがあり、教育業界に進出したのです。


──令和84月、美容師国家試験の受験資格の取得が目指せる「ビューティサイエンス学科」が新設されるとうかがいました。
 1期生の3年次生や2年次生の中には、「美容業界全体を理解したい」という強い想いから、専門学校の通信教育も受講し、美容師免許取得を目指す学生が複数在籍していると聞きました。意欲的で素晴らしいことだと思います。
 しかし、それでは学費がさらに多くかかり、勉強時間の確保すら難しい。強い向学心を持っている学生たちの熱意に応えるためにも、どうにかして美容師免許が取得できる体制を整えられないかという想いがあり、それが今回の学科新設として結実しました。これにより、本学は“美容師免許取得が目指せる4年制専門職大学”となります。

──美容師免許と「学士」の資格が同時に取得できる。
 ミスパリ学園は平成21年、日本国内にとどまらず、海外諸国においてもサロン展開を開始しました。
 手先が器用だったり、髪や肌、お客様そのものをていねいに扱うことができたりするからなのでしょう、日本の美容師は海外で高く評価されています。そのため、多くの美容師が世界を舞台に羽ばたいていきましたが、海外で長く働くためには「就労ビザ」が必要です。就労する国や従事する業務、申請者の経歴などに応じて取得条件が異なりますが、特に大学卒業資格は大きなアドバンテージになることが少なくありません。
 また、近年の物価高や人件費の高騰などの影響により、日本における美容室の倒産件数は増加の一途をたどっています。その理由の一つには、「経営」や「マーケティング」など、しっかりと勉強してきた経営者が少ないからだとの見立てがあります。結果、集客に苦戦しているのではないかというものです。
 専門学校は、卒業後に現場で即戦力となるべく、実践的な学びに重点を置いています。しかし、それでは仮に独立したとしても、マネジメントを学ぶタイミングや時間がなかったために人材を育成することができず、スタッフのモチベーションが高められない。結果的に、経営が厳しくなってしまうこともあるのでしょう。
 そうならないためには一体どうすればいいのか。これからの美容師には技術だけではなく、経営やマーケティング、人材育成などの「+α」の知識が必要になると考えています。私たちが、「学士」に加え、「美容師国家試験受験資格」も取得できる新学科の設立と環境を整備する背景にはそうした事情があるのです。

──近年の美容業界の動向についてお聞かせください。
 私たちが暮らす現代社会では、「美しく健康に生きたい」という想いが世界中で高まり、ウェルネス産業が急成長を遂げています。
 アメリカ合衆国の非営利団体「Global Wellness Institute」によると、2023年の世界におけるウェルネス経済の市場規模は約63兆㌦(日本円にして約945兆円)にのぼり、世界のGDP6%以上を占めるまでに成長しました。IT産業(約5兆㌦)やスポーツ産業(約27兆㌦)をも上回る規模で、今後も年平均73%という高い成長率で拡大し、2028年には約9兆㌦(約1350兆円)に達すると予測されています。
 特に「パーソナルケア・美容・アンチエイジング」「健康的な食事・栄養」「フィットネス」などの分野が大きな割合を占めており、ビューティ&ウェルネスはいま、世界的に最も注目される産業のひとつです。
 美や健康がもたらす人生の豊かさや幸福の価値が見直される中で、本学もこのグローバルな成長産業に貢献できる人材の育成を目指しています。

──高校生に向けてメッセージをお願いします。
 現在、「モノからコトへ」というふうに世の中が変わりつつあると言われています。これは、商品やサービスを所有することに価値を置いていたかつての消費行動から、それらを購入することで得られるコト、つまりは体験や経験にこそ価値があるのだという意識の変化を意味します。しかし、私たちが欲しいものを本当に突き詰めていくと、それがモノでもコトでもなく、実は「健康」であることに気づかされるでしょう。
 高まる健康志向を背景に受けるまでもなく、顧客のニーズは日々多様化し広がりを見せています。以前のような「痩せたい」「肌をきれいにしたい」といったシンプルな方向性から、サロンに来て豊かな時間を過ごしたり、より美しく健康的になって心地良く生きていきたいと考えたりするお客様が増えた印象があります。
 そうしたお客様に満足していただくためには、技術や専門知識はもちろん、信頼関係を築くためのコミュニケーション能力やホスピタリティ、さらには、どのような状況にも対応できる幅広い教養が必要です。
 お客様の大切なお体やお気持ちにふれるわけですから、どのような施術を行うにしても、その裏づけとなる理論を理解できていなければなりません。お客様に信頼されるプロフェッショナルを育てるためには、まずは学生自身が“大切にされる喜び”を実感できることが大事だと考えています。
 また、本学は、サロンを経営しているミス・パリ・グループの一員です。現場での接客や施術を通して、「お客様が求める知識と技術を持った人材」か否かを常に見極めながらカリキュラムや指導内容に直接還元することができるという大きな強みがあります。それだけに、本学に対する信頼感や安心感は業界の中でも厚く、大きな期待を感じています。
 「美容に興味がある」「美と健康について学びたい」という高校生のみなさんは、ぜひ遊びに来てみてください。本学でお待ちしております。


──貴学の特色や学びについて教えてください。
 本学は、ビューティ&ウェルネス産業を牽引・発展させる人材育成を目指して、令和54月に開学しました。日本で初となる「美と健康」を総合的に学ぶ専門職大学です。「ビューティ&ウェルネス学部 ビューティ&ウェルネス学科」を設置し、美と健康を軸に7分野をボーダーレスに学べるカリキュラムを編成しています。
 12年次では、基礎知識と技術を中心に学び、2年次以降にはリーダーシップやマネジメントなども習得していきます。知識とサービスを体系的に学ぶ「講義」と、効果的な施術方法を修得する「演習・実習」を組み合わせた授業を受けることによって、人間力と実践力、創造力を高める相乗効果が期待できます。美と健康を科学的に研究し、理論に裏打ちされた専門的かつ実践的な技術を身につけながらマネジメントも学べるのは、本学の大きな特色だと言えるでしょう。

──あらゆる分野を学べるカリキュラムは、幅広い教養が身につくと評判です。
 教授陣の構成にも常に気を配っています。客員教授には、学術分野だけでなく、華道や茶道の家元をはじめ、日本舞踊や能楽、人形浄瑠璃の重要無形文化財保持者(人間国宝)など、素晴らしい芸術家の方々にも参加いただいています。人としての素養と美的感覚、心の豊かさにつながるような学びの環境が整っている点も、本学が誇れる特色だと思っています。学生たちは、ほかの学校ではできない経験ができるということをとても喜んでいるようです。学術や芸術において、本物を見たり体験したりすることによって醸成される価値観が持つ意味はとても大きく、経験する時期が若ければ若いほどその人の生き方に大きな影響を与えます。学生たちには、本物にふれる機会を一つでも多く提供したいと考えています。
 美と健康を〝学術”として確立するためのカリキュラムを編成してこれを実行することは、決して簡単なことではありません。しかし、学生たちはとても意欲的かつ前向きに頑張っています。「これから美と健康の新しい分野を切り拓いていくんだ」という気概を持って授業に臨んでいる学生が少なくないということに、私たち教職員も喜びと幸せを感じつつ、絶えず研鑽を積んでいかなければと身の引き締まる思いです。

──貴学で学ぶ学生に何を期待しますか。
 現在、先進国と言われる国々が続々と少子高齢化を迎えています。特に日本では、「超高齢社会」の到来に伴い、健康寿命と平均寿命の差が大きくなっています。そうした中で非常に重要とされているのが健康寿命を延ばすこと。健康寿命とは、健康上の問題によって日常生活が制限されることなく生活できる期間を指す言葉です。
 理論に裏打ちされた専門的かつ実践的な美と健康の知識・技術を身につけた本学の卒業生が社会で活躍し、心身の健康を長く維持できる環境をつくることに貢献したり、仮に病気になったりしたとしてもその後の生活を豊かに送るための提案を行い、社会に発信していくことが、本学が目指す教育の一つの理想です。年齢を重ねても人々が幸せに暮らせる社会をつくることは、一人ひとりの生活や人生の質(QOL)を向上させるだけではなく、命を大切にする心を育て、平和な世界を創ることにもつながるでしょう。
 本学での学びを通して、優れた知識と高い技術、人間力を備えたプロフェッショナルとしてプレゼンスを高め、ビューティ&ウェルネス産業界の発展に寄与できるロールモデルになって欲しいと考えています。
 一例をあげれば、行政の場でも広く活躍できる人材になることを期待しています。ビューティ&ウェルネス産業界が実社会の中でより良い成果を挙げ、影響を波及させていくためには、その分野に造詣が深い人材が行政に関わることが欠かせません。この業界が持続的に発展していくことこそが人々の健康的な暮らし、ひいては〝ウェルビーイング”の実現と定着に資するのではないでしょうか。
 一方で、本学や関連教育機関の教員になることも卒業後の選択肢の一つになるでしょう。
 優秀な学生を育てることは、この業界のさらなる振興に直結し、人々の美の追究と健康の維持・増進に大いに役立ちます。これからのビューティ&ウェルネス産業界では、現場でどのような知識・技術が求められるかという〝いま”にフォーカスした「現場視点」と、組織全体を俯瞰して未来を見据えてリーダーシップやマネジメントを発揮するための「企画・経営者視点」の両方が求められます。
 学生たちは、理事長をはじめとする本学教員のアドバイスをとても素直に受け入れています。アドバイスを受けたことにまずは素直に挑んでみる。そしてその中で自分自身の考えや行動様式を構築していく。それは、大きな伸びしろがあるということを意味します。高い志を持った学生たちが、夢に向かって邁進する姿勢を支えていきたいと考えています。

──今後のビジョンをお示しください。
 令和74月に、香港教育大学との間で「教育および研究分野における包括的な連携協定(MOU)」を締結しました。さらに国内外の著名大学との間での連携を推進していく予定です。それらの取組も合わせて、まずはビューティ&ウェルネス専門職大学という存在を社会のみなさまに広く知っていただきたいと考えています。
 「ビューティ&ウェルネス」という言葉が社会的にまだそれほど浸透していなかった頃は、残念ながら「それって学問なの?」という反応も少なくありませんでした。しかし、心と体を美しく維持することによって生まれる健康や活力が重視されるようになってからは、本学に大きな期待が寄せられるようになってきました。
 本学が目指すものが、日常生活の中でいかに重要な役割を果たしているのかということを知っていただき、〝大学の応援団”を少しずつ増やしていく。そこを足場に、卒業生が活躍できる場をさらに広げていけたら素晴らしいですよね。
 そのためにも、現在は、本学の所在地である横浜市都筑区を中心に、地域との連携でどのような貢献ができるのかを模索しているほか、民間企業とも連携・協働を進めています。今後は行政にも働きかけて、有機的な社会連携によって本学の存在価値をさらに高めていくことに注力していきます。

──高校生に向けてメッセージをお願いします。
 人口構造の大きな変化によって、さまざまな課題に直面することが予測されていますが、美と健康の学びは、夢と希望にあふれる社会づくりに大きく貢献できるものと考えています。
 本学での多様な学びを通して、「起業したい」「いまの社会にないものを創出したい」と考えている学生も少なからずいるようです。若者が新しいモノやコトを自分自身で創り出して、それによって社会を変えることに可能性を感じてくれている。これはとても嬉しく、頼もしいことだと思います。
 「過去は変えられないが未来は変えられる」という言葉がありますが、高校生のみなさんにはぜひ、未来は自分の努力で切り拓いていけるのだということを実感していただけると嬉しく思います。また、そういった気概をぜひ持ち合わせていただきたいと思います。そうした積み重ねの一つひとつが、自分たちだけでなく、将来世代にとっても、来るべき社会をより良くする変化につながっていくに違いありません。


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