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第7回 大阪国際大学 金子敦郎学長インタビュー

2001/06/25

金子敦郎(かねこ・あつお)一九三五年生まれ。

一九五八年東京大学文学部西洋史学科卒業。

同年共同通信社入社、一九七二年サイゴン支局長、

一九八四年ワシントン支局長、一九九〇年国際局長、

一九九二年常務理事等歴任。

一九九七年大阪国際大学教授(国際関係論・アメリカ外交他)、

二〇〇〇年同大国際関係研究所所長、二〇〇一年四月同大学長に就任。

「レーガンの『華麗なる転身』」 「広島・長崎―冷戦への『触媒』(一)(二)」

「国際報道最前線」「報道の国際化を考える」他著作、論文等多数。

次代へ―「全人教育」と「倫理感」の育成が不可欠

『国立大学の民営化』といった言葉が飛び出す等、大きな変革の時代を迎えた今、高等教育機関にとってそうした動きへの対応は、今後の存続すら左右しかねない状況になってきている。『教育』と『学校運営』をいかにうまく融合させ、特色ある大学像を打ち出すことができるのか―。今がまさに、高等教育機関の正念場、そして次代の高等教育への過渡期として位置づけられる時といえる。

 今回の学長インタビューは、来年四月、女子大学を廃し、学部増設を行うという大きな転換点を迎えた大阪国際大学の金子敦郎学長にお話しを伺う。

(インタビューは六月一五日)

本紙 まず、大阪国際大学の学長に就かれた経緯についてお聞かせ下さい。 金子敦郎学長(以下敬称略)

 私は、教育畑の人間ではないんです。長いことジャーナリズムの現場にいました。最後はマネジメントもやりましたが、マネジメントは、自分ではどうも性に合わないなと思っていたんです。それで退任しようということになったんですが、ちょうどそういう時に、こちらの大学で国際関係を教えてくれという話があってお引き受けしたというのがきっかけということでしょうか。それで四年間やってきたんですが、太田前学長の健康がすぐれないということがあって、今年になって急遽、思わぬ形で学長を引き継いだということです。

  『どうして私が』ということを考えてみますと、平時であれば、学長というのは学問あるいは教育の世界でやってこられた方でなければ務まらないと思うんです。しかし、今の大学は非常に大きな問題に直面しています。非常時といってもいいでしょうか。そういう時に、何かを変える、何事かを起こすということになると、内部にいた人間ではやりにくいという面があると思うんです。そういう点で、ちょっと毛色の変わった人間にやらせてみようということで私に話がきたということではないでしょうか。それに私も通信社という、時代の流れ、世の中の動きを敏感に掴み取ることを仕事とする世界にいましたから、これからの大学改革において何が望まれているのかといった時代の要請を感じ取って、対応することができるかなという思いはあります。

 また、今年は女子大学との統合という本学にとって非常に大きな改革が行われますが、そこに私なりの感覚が生かせればいいんじゃないかとあえてお引き受けしたということもあります。

学部の視点を超えた、高等教育を  ―総合的な判断力を養い、国際化へ対応

本紙 その大きな変革が行われようとしている中で、『ボーダーを超えろ』という言葉が学校案内に使われていますが、その意味するところは何でしょうか。 金子 この『ボーダー』という言葉にはいろいろな意味がありますね。まず第一に、本学は国際大学ですから、国際的なボーダーは超えていかなければならないということです。そして女子大との統合ということがありますから、学部の編成等、その中でのボーダーを超えていくという意味合いですね。

 視野を広げれば、学部体制の限界というものがあると思います。長年、大学というのは学部を中心に運営されてきたという歴史がありますが、世の中は、そういったものにとらわれない『ボーダーレス化』が進んでいるという現実があります。その時に、学部の垣根がネックになってきているということがいえるんじゃないでしょうか。本学でも、女子大の統合を超えて、新しい大阪国際大学を志向する時に、学部の特徴を伸ばしつつ、学部を超えた視点を持つ必要があります。これは、学部の再編をすぐに行うということではありませんが、様々な動きの中でも、基本的な考え方として持ちながら、柔軟に取り組むべきものであると考えています。

本紙 伝統を踏まえ、新しい国際大学を目指すという中で、新しい教育を構築していく時に何が必要であるとお考えですか。 金子 本学は国際大学を標榜しているわけですから、当然の事ながらこの国際化時代に、どういう力を身につけた学生を市民として社会に送り出していくのかということがあります。『国際化』というのは何かというのは、なかなか難しいんですが、一つの側面として、インターネットに象徴される『情報のボーダーレス化』が急速に進んでいるということがあります。実際に、量的にも膨大な情報が若者に飛び込んでいる。その時に、その情報の価値、いい情報か悪い情報か、役に立つものか役に立たないものかといったようなことを的確に見極める判断力を身につけることが大切になってきます。これは、自分がやってきた仕事からいっても、そう思います。膨大な情報の中から、何を知らせるべきかを的確につかんで発信するということですね。その点でいえば、今はインターネットを利用すれば、誰でも情報を発信することができる時代です。ということは、実に様々な価値を持った情報が飛び交っているということです。そんな時代、これからの社会にとっては、それを見極める眼、判断力を養うことが重要であり、それを本学で身につけてもらう。そういう教育を徹底してやるということが重要です。

 それから、大学改革を考える上でポイントとなるのは、教養教育をどう考えるかということです。これは高等教育において教養学部体制が解体される一方、中等教育においては学級崩壊、学校崩壊といった現象が現れて、いわゆる『学力低下』が問題となったということがあります。もう一つは、大学進学率が上がって高校生の二人に一人が進学するという状況になれば、大学進学者の平均というのは下がらざるを得ないわけです。そうしたことが絡み合って、今、まさに教育の体制を再構築しなければならないという時期に差しかかっているわけです。そういう点からいっても、一番基礎的な歴史であるとか、文化であるとか、そういったものをきちんと身につけていかないと、国際化の中であふれる情報に振り回されてしまうということになってしまいます。

 本学としても、統合した新体制では、キャンパスも違いますし、学部も一つ増設されるということですから、そうしたことを踏まえた上で、あくまでも一つの大学としての理念のもとに新たな教育体制を組み上げていくことが最大の課題であり、これから整備していきたいと考えています。

求められる「可能性を伸ばす教育」の実践   ―国際大学としてのあり方を明確に

本紙 さらに少子化という問題もありますし、大学の運営は非常に難しくなってきていますね。 金子 確かに、いわゆる学力の低下と少子化というのは、大学にとっては非常に頭の痛いところです。一般的に、受験生が減ってくると受験しやすい入試制度を取り入れるということで、試験科目を減らしたりという状況がでてきます。これは、大学にとっては悪循環ですね。

 ちょっと極端な言い方ですが、経営的な面からすれば、学生は確保しなければならないわけですから、みなさん入ってください、入ってから勉強してくださいということになります。そのために、大学としてはいかに勉強させる環境を整えるかということに責任を持たなければならなくなります。確かに『平均』して見ると下がっているのかも知れないんですが、実際は、可能性を感じさせる学生はたくさんいるんです。可能性、潜在的な能力を埋没させることなく、伸ばすための環境が大学に必要なんです。いわゆる偏った平等主義から脱却した、個々の学生の能力を最大限伸ばす教育の体制づくりですね。最近、『飛び級』も具体的になってきたり、大学での『教育』の必要性がいわれていますが、そういったことが求められる時代だということなんじゃないでしょうか。

 また、就職の問題もありますね。就職協定がなくなって就職活動が早期化、長期化していますが、そうすると、学生が大学でじっくり学ぶという時間が減ってしまいます。就職活動で時間を取られるんです。社会では、大学でしっかり勉強させろということがいわれますが、やむを得ないといった部分もあるんです。そういったことも含めて、今は新しい教育体制を確立するための過渡期だということがいえると思います。何といっても大学は、社会に適応できる、貢献できる市民を送り出すという責任があるんです。

本紙 大学改革の一環として『単位互換』が進められていますが、その点についてはいかがでしょうか。 金子 本学でも、現在は女子大との単位互換は設定されていますが、地理的な問題もありますし、実効はあがっていません。単位互換については、名前だけのものでは意味がないと思っています。本当にそこにいかなければ学べない、というものがあってこそのものだというふうに考えていますから、他大学との単位互換も現段階では未定です。

 それよりも本学の場合は、同じ学校法人の下に高校が二つありますから、そことの連携を強化したいと考えています。高大連携ということでいえば、まずは、その二つの高校との取り組みに力を入れようということです。双方で必要なことを確認しあい、スムーズな中等教育から高等教育への連携を図ろうということですね。

本紙 国立大学の法人化については、どうお考えですか。 金子 その議論について深くは知りませんが、規制緩和の流れにのったものだろうと思います。アメリカにいた頃、ちょうどレーガン政権、イギリスのサッチャー政権が規制緩和を進めたということがあったんですが、どうも今回の小泉内閣の規制緩和というのは、その動きがようやく日本にやってきたという感があります。

 国立大学はなんといっても基本的な資産を持っていますし、その国立大学が自由競争の中に入ってくるということになる。あるいは最近は、いわゆる規模の大きな有名大学が地方に進出しているという状況がありますが、そうなるとローカルな大学というのは、非常に厳しくなるといわれています。確かに、そういうことはあるなと思いますね。今回の法人化、自由化の流れの中には、文科省としても、相当数の大学が潰れても止むなしという認識があるんじゃないでしょうか。

本紙 来年四月、新しい大阪国際大学がスタートしますが、その目指すところをお聞かせ下さい。 金子 大学を統合するということですから、同じ法人とはいえ、異なる点がいろいろあります。その異なる部分をならすということが当然必要なんですが、その中で基本となるのは、学則の整備ですね。その第一条で『目的』として、「大阪国際大学は、全人教育を推進し、創造する力を培う。この目的に沿って、普遍的な倫理感を育みつつ、国際的視野に立つ広い知識、深い専門学術及びそれらの実社会への適用を教授し、研究する」ことを挙げています。これは、現代においては、『全人教育』がやはり必要であり、『倫理感』を培っていくことが大切なことであるという認識ですね。これをもって学則として打ち出すことで、本学の在り方をもう一度明確にする。そして、その考え方を具体化するための教育を行っていこうということです。

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