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第12回 嘉悦大学佐野陽子学長インタビュー

2002/08/25

佐野陽子(さの・ようこ)一九三一年生まれ。

一九五四年慶應義塾大学経済学部卒業。経済学博士。

一九七二年四月慶應義塾大学商学部教授。

一九八九年同大商学部長、大学院商学部研究科委員長。

一九九四年慶應義塾評議員。

一九九六年東京国際大学商学部教授、慶應義塾大学名誉教授。

二〇〇一年四月嘉悦(かえつ)大学学長、経営経済学部教授就任。

「日本経済図書文化賞」「慶應義塾賞」「紫綬褒章」受賞。

財団法人二十一世紀職業財団理事、財団法人昭和シェル石油環境助成財団理事、建設業振興基金人材確保・育成協議会委員長。

「企業内労働市場(有斐閣)」「ヒューマン・リソース・マネジメント(日本労使関係研究協会)」等著書多数。

地域性と専門性を特化し、個性化をめざす

大学、短大における「教育」の質・内容が問われ、「何が学べるのか」が高校生、高校教諭にとって進学先選択の重要なポイントとなっている今、明確な特徴を打ち出すことが求められている。

 今回の学長インタビューは、昨年、四年制大学を開学し、「経営経済学部」という私大としては初となる学部を開設、小規模ならではのきめ細かい教育を展開する嘉悦大学・佐野陽子学長にお話を伺った。(インタビューは八月十二日)

グローバル、ローカルへの視点と対応を

本紙 これからの高等教育機関としての大学のあり方、教育のあり方についてどのようにお考えでしょうか。 佐野陽子学長(以下敬称略)

 現状としては、高等教育機関自体が多様化してきているということが言えると思います。いわゆる総合大学といわれる多くの学部・学科を持つ大学と本学のような小規模な大学、そして短期大学といった形でそのあり方や役割というのは大きく異なってくるのではないでしょうか。本学は、日本の私学としては初めての「経営経済学部」を持っていますが、やはりそれぞれの個性、特徴、強みを明確にして打ち出していく必要性がありますね。最近は、少子化ということから、学生が大学を選ぶという時代になってきています。その時に、大学で何ができるのかということを明確に打ち出すことが求められるのは当然のことになります。明らかに、学生側の選択の幅は広がってきています。これは、何も日本国内での進路選択に限りません。それこそ、海外の大学に目を向ける学生が出てくるはずです。高等教育においても国際競争の時代に入っていくことは間違いありません。何を特徴とし、強みとするのかという見直しは、急務です。

 また、大学にとってのグローバル化への対応は不可欠なものです。情報化が進む現代社会において、いろいろな形で開かれていかなければなりません。そのための施設・設備といったハード面での充実はもちろんですが、人的な交流等も含め、積極的な取り組みが求められます。

 同時にローカルなニーズへの対応も重要な課題になります。地域に密着した大学としての位置づけです。これにより、科目等の履修、あるいは障害者への学習機会提供といった広い意味での生涯学習への対応が可能となり、大学として存在する大きな意議になりうると考えています。

 教育のあり方ということでいえば、「学力低下」が大きく取り上げられていますが、これはいまだに、一つの指標でしか生徒を見ないということの表れじゃないでしょうか。「学力」をどう規定するかについては問題はありますが、やはり、多様な物差しが必要であり、そこから個性的な生徒の能力というものが見えてくるということは多いにあると思います。これは教育機関だけではなく、社会全体で考えなければならない問題です。次代を担う若者をどう育てていくのかということは、これからの社会はどこへ行こうとしているのかというイメージと不可分のものです。ある意味では、今、社会自体が目指すべき姿を見いだし得ないという状況が、教育のあり方を難しいものにしていると言えるのではないでしょうか。

本紙 短期大学の役割についてはいかがでしょう。 佐野 確かに進路の多様化が進む中で、短期大学のあり方も変わってきているように感じています。本学園の場合は、短期大学において実践的な女子教育を行い、実績をあげてきたわけですが、最近の全般的な状況を見ると、教養教育を求められる比重が大きくなってきています。これは大学への編入学、あるいは留学といった進路志向の一つであり、短期大学をファーストステップとして捉える考え方です。短大としては、当然の事ながら二年間で完結した教育を行うわけですが、今後はそうしたニーズにも応えていくことが求められます。

 一方では、経済的な理由から短期大学への進学を考える人が増えてきているという状況もあります。そこでは二年間で社会に出る力を身につけることが求められます。これからの短大としては、こうしたニーズにどう対応していくのか、その中で、どう特徴を打ち出していくかといったことが課題になるのではないでしょうか。

本紙 地域との連携については、どのような取り組みをお考えでしょうか。 佐野 やはり、本学の持つ専門性をどのように活かしながら地域との連携が図れるのかといった点がポイントになると考えています。現在、小平市には七つの大学がありますが、実は経営経済を持っているところはないんです。そういう意味で、本学としてもその専門性を活かしながら地域に貢献することを考えています。具体的には、まだ第一歩ではありますが、今春から本学の図書を地域のみなさんに貸し出すところまで拡げました。経営、経済に関する専門図書館的な位置づけでお役だていただこうということです。これからは、生涯学習への対応ということを一つの大きなポイントとして大学のあり方を考えて行く必要があります。

 また、『高大連携』の必要性が言われていますが、今後はそうした点にも力を入れていこうと考えています。現在は、附属の中学校、高等学校との連携に限っていますが、これも、広くその可能性を探ることが重要です。例えば、大学での授業に参加する形であれば、単位取得等を視野に入れたものを考えていきたい。その時は、高校生にもわかるような講義が求められます。導入教育の一環として位置づけてもいいのかもしれません。

 いずれにしても、地域に根ざした大学を目指すのであれば、『生涯学習』に対して大きな役割を担う必要があります。それは初等、中等教育、そして社会人との密接な連携という方向性を明確に打ち出していくということになります。人気の高い公開講座は、ちょうど本学のアンテナ・スクールといえましょう。地域性と本学の持つ専門性をより良い形で融和させ、社会に提供すること、それが大学としてのこれからのあり方の一つであると考えています。

本紙 昨年、四年制大学を開学し、二年目を迎えるわけですが、嘉悦大学としての特徴はなんでしょう。そしてこれからめざすところについてお聞かせ下さい。 佐野 嘉悦学園としては、およそ百年前から女子教育を行ってきたという伝統があります。そういう意味では『女子校』のイメージが強いかもしれませんが、現在の大学の学生の比率は男子が七五%、女子二五%となっています。四年制の大学を共学にするということは、いろいろなところで求められ、教職員の間でも、また卒業生の間でも歓迎していましたから、女子の学園に男子を受け入れることについて、問題はありませんでした。嬉しいことに、しっかりした目的意識を持った学生が多く、個性的で意欲的な印象を持っています。

 本学は、日本で初めての女子の実業高校としてスタートした私立女子商業高校を母体としています。文字通り実践的な教育で経営経済分野に女性を多数輩出していますが、本学はその伝統を受け継いでいます。具体的な目標として全学生が『財務諸表』を読み、経営分析できる能力を身につけることを掲げています。

 私は、何といっても経済活動のベースとなる知識として、「お金」とは何か、その大切さを知ることが重要だと考えています。そこから、報酬のあり方等を通じて「社会に関わる」ことの意味を考えることができます。意外なことですが、これまでの経済学部、経営学部で学んでもそうした力を持たずに卒業する学生が多いのも事実なんです。そうした点からも本学では、『会計の基本』を知り、経営分析できる能力を身につけることを目標としているのです。さらに、生きた経済知識と高度な理解力を身につけた上で、「経営能力」を持った学生の育成です。この「経営能力」の基礎をなすのは、「数字に強いこと」「異質な文化に対する応用力としての外国語」「ITを使いこなせること」だと考えています。これは、現代の「読み書きソロバン」ですね。そして、その専門性を高めるために「企業経営」「企業会計」「経営情報メディア」「国際経済」「生活経済」の五つのコースを設けています。当然の事ながら、資格取得にも力を入れています。「経営能力」は、会社経営のみならず、自治体、非営利機関、NPO・NGOといった組織にも必要なものであり、法人ばかりではなく、自営業や家計においても重要な能力です。個人にとっても社会にとっても永く役立つ能力を身につけることがこれからの時代に強い力になります。

 IT化への対応もいち早く採り入れた実績があります。これは短期大学からのものですが、五年前からノートパソコンを全ての学生に持たせています。日常的な情報処理のツールとして使いこなせるようにという狙いですね。キャンパスの運営についてもいろいろなソフトを持っています。教職員にしても当然のことながら、そのノウハウを持つことになります。高校段階で「情報」が採り入れられますが、これからの時代を考えれば、初等・中等教育段階からパソコンは必携のものではないでしょうか。極端な言い方かもしれませんが、記憶を中心とする「学び」から、ITをどう利用すればいいのかといった、自らが考えるための「学び」へと移行する時に、パソコンや携帯端末などは欠かせないものになるはずです。

 また本学は、小規模な大学ですが、それがまた特徴として活きるものであると考えています。学生数に対して教員・職員の数が多く、贅沢な大学であるということができます。こうしたことをベースにして、嘉悦のこれまでの実績とあわせて、新たなスクールカラーが生まれつつあります。

 世界には、小規模ながらも高い評価を受けている大学は少なくありません。本学としても、その伝統、培ってきたノウハウを活かしながら、専門性を最大限に発揮できる場として機能する大学でありたいと考えています。

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