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第15回 神戸国際大学吉田 弘学長インタビュー

2003/04/25

神戸国際大学

吉田 弘(よしだ・ひろし)学長

一九四五年生まれ。

一九七三年立教大学大学院修了、経済学部助手、立教女学院中学・高校教諭を経て、

神戸国際大学に着任。

二〇〇〇年より神戸国際大学学長。

専攻は西洋経済史・経営史・会計史および聖公会の歴史。

『共生』を推進する役割を

コミュニケーション能力の

レベルアップを

本紙 最近、学生の質の変化についてよく言われていますが、どのように感じていらっしゃるのでしょうか。 吉田 弘学長(以下敬称略)

大学生の学力低下について話題になることが多いのですが、何が学力なのかをはっきりさせないと、本当に低下したのかどうかはわからないと思います。

確かに『教育改革』の動きの中で、小・中・高までの数学とか英語、国語などの教科の授業時間数は減っています。例外は抜きにして、週五日制になり、授業時間が減った。それにより、学ぶ量が減ったわけですから、全般的に学校で学ぶ知識の量は減っているとは思います。

しかし、身の回りには、十年前、二十年前の学生には修得できなかったいろいろな情報や知識が溢れ、コンピュータなどを扱える技能・スキルを獲得している。英語についても、語彙とか文法の知識量は落ちているのかもしれませんが、聞いてわかるとか、話せるとか、使えるという点においては恐らく全般的に向上しているのではないでしょうか。地方自治体などでも、外国人の先生を派遣するなど、いろいろなことを行っていますので、実用的な面での能力は上がっているわけです。ですから、学力と一口に言っても、何において比較するのかという問題があり、比べるポイントによっては一概に低下しているとは言えないと思います。

 ただ、そうは言いながらも企業の方からは、大学卒あるいは大学院卒の社会人でも、当然知っていなければいけないような一般常識がわかっていないという声があがっています。それから問題解決能力の欠如についても指摘されます。論理的に筋道を立てて考えて、問題がどこにあるかを発見し、分析・解決する能力がないと言われます。

そうした傾向に対しては、大学教育において注意をしなければなりません。とくに資源のない日本が、これから国際化が進む中でさまざまな場で競争をする際には、一人ひとりの人間の能力が資源となる。学生たちはリソースというか、日本を生かす力になっていくわけです。

 その意味で、本学では、経済学を学び、理解する時、数学の基礎を理解していないと困ることになりますから、経済数学の前段階に、あえて基礎数学というような科目をカリキュラムに取り入れて指導をしています。理解度を深めようという狙いです。

また、一年生を対象に、基礎演習といって、一クラス十五名くらいの少人数でゼミを行っています。そこでは教員に高校のクラス担任みたいな性格も持たせ、学生一人ひとりのプレゼンテーション能力の養成に努めています。基本的な文章を読んで理解して、ディスカッションをし、その結果を日本語で文章化してまとめるという、そういう能力の獲得をめざしています。

実は昨年、指導する上で学生のことをよく知らなければならないということで、学生の意識調査を行いました。その結果、学生のタイプが大きく四つに分かれることがわかりました。

一つは旧来のコツコツとやるまじめタイプ。二つ目はベンチャータイプ。三つ目は運動やアルバイトには熱心だが勉学には熱心ではないタイプ。最後は何に対しても無気力・無感動・無関心というタイプ。それら四タイプの学生たちが、一緒に何かをやろうとしても無理がある。何かをする場合にはターゲットを絞ってやらないと難しいだろうということがはっきりしました。

 本学では、その意識調査の結果を生かし、今回、新入生を対象に、コミュニケーション能力の育成を徹底しようと考えています。コミュニケーション能力のレベルアップを図り、学内で中心になって活動していく、あるいはリーダーになるような学生を育てたいという希望があるのです。

いずれにせよ、きめ細かい指導は必要になってきています。こうした対応は以前にはなかったことで、学生の質が変化し、学内における対応も多様化せざるを得ないということは、確かなことでしょう。

『コミュニティ』『ヒューマニティ』

『グローカリティ』を軸に

「超都市型大学」へ

本紙 そのような学生の変化に対して、これからの大学はどのように在るべきだとお考えになりますか。 吉田 変わったのは、学生の質だけではないわけです。大学を取り巻く社会の状況や時代の様相も大きく変わりました。

二十世紀の後半、一九七○年代以降、日本の大学は窮屈な都市を抜け出し、郊外へ移転するという流れにありました。ところが、都市の活性化とは逆に、そうした地域はさびれていってしまった。首都圏とか、京都・大阪などの大学へ、都市だからと行ってみたところが、出身地と変わらないような田舎にあり、楽しみもなければアルバイトもできないという状況で不人気になった。そして結局、Uターンというか、回帰現象が現れ始めています。二十一世紀の大学は、サテライトとかさまざまなカタチを採って、また都市へ戻っていくと予想されます。

また、学生募集の面でのUターンもあります。十八歳人口の減少が言われていますけれども、大学も十八歳の若者を相手にするだけではなく、社会人になった方、子育ての終わった主婦の方など、一旦学校を終えた人がもう一度戻ってくるという意味でのUターンが増えるのではないかと思います。生涯学習ともっと密接につながっていくことになるのかもしれません。

 日本の大学がどこへ向かうかについては、以上のようなことを踏まえて、改めて議論がなされることになります。

 私なりに整理すると、二十一世紀の大学は、やはり「共生」という言葉が、キーワードになると思います。これからの社会は、ますますIT化とグローバル化が進んでいくでしょう。結果として、世界とのさまざまな共生という課題に突き当たると予想されます。国と国との関係も大切ですけれども、国という枠が取れて、世界がどのように共生するかがこれからの時代に課せられていると言っていいのではないでしょうか。

 その中で大学の役割は、知識を有する高等教育機関として共生を推進する役割を果たすこと。そして、共生の担い手となる人材を育成することにあるのではないでしょうか。

 本学は、昨年こちら(神戸市東灘区)に移転しましたが、それを契機に、未来に向けた大学として共生をコンセプトに軸を定めました。『コミュニティ』、『ヒューマニティ』、『グローカリティ』という三つの軸です。

 『コミュニティ』は、地域との共生を意味します。最近、大学は研究・教育の場としてだけではなく、社会貢献、いわゆる地域社会への貢献の使命があると言われています。とくに、ここ六甲アイランドは、島ができてまだ十六年ほどで、神戸市のなかでも若いコミュニティです。本学はここの住人になったばかりですが、期待されている役割は大きいのではないかと思っています。

 移転の際には、島側のニーズもあり、好意的に受け入れてもらいました。この島には、保育園・幼稚園から専門学校まではありましたが、大学だけはなかったのです。それが、本学のキャンパス移転により、すべての教育機関がそろうことになった。『コミュニティ』として、教育機能を完成させることができたわけです。

 そして本学は、『コミュニティ』の一員として共生をめざすという意思表明のひとつとして、キャンパスをバリアフリーとしました。地域との一体感を持たせるよう、垣根や塀を排した設計を採用しました。身体障害者の方たちに対応するバリアフリーもありますけれども、地域とのバリアがない、垣根がない、自然ともマッチしているというバリアフリーが、このキャンパスなのです。

 自然環境にも配慮しようとISO一四○○一認証を受けました。これはあくまでも出発点になるもので、これからどのようなことを行っていくかが問われます。先日、神戸市の景観賞という賞を受賞しましたが、バリアフリーというコンセプトでキャンパスを地域に開いている大学としては、ハード面だけではなくソフト面でも開かれた大学をめざしていきたいと考えています。

 二つ目の『ヒューマニティ』とは、言うまでもなく人間性であり、人と人の共生を大切にしたいという意味を込めています。教育における一つのポイントになるのは、モラルの問題。最近とくに若者のモラルの問題が取り沙汰されていて、その辺に焦点を置いた人間教育が必要になると考えています。これは学校だけではなく、家庭や社会全体の問題でもありますが、本学はキリスト教主義という建学の精神・基盤を生かし、人間関係の基礎となる豊かな人間性を養っていくことをめざします。混迷する時代、多様な価値観が存立する社会でしなやかに、そして強さを持って生きる、そういう力ともなる人間性です。

 そして、『グローカリティ』。この言葉は、グローバリゼーション、グローバルとローカリティ、ローカルが合体した合成語で、地域という視点と世界の視点を同時に身につける教育を意味しています。インターナショナリゼーションは欧米を中心にした国際化でしたが、二十一世紀は発展途上国、南をも網羅したグローバリゼーションが主流です。中国も含めてアジアが、大変重要になってきます。グローカリティとは、そういう地球全体と自分の身近にある地域との共生を考えることです。

 それを具現化していくためには、単に「共生」「国際化」と口にして、右往左往するだけでは何にもなりません。第一に、自分たちが何者なのか、自分のアイデンティティやスタンスをしっかり持つことが大切なのです。

 真に国際化をめざすには、「この大学は神戸市の六甲アイランドにある」ということをしっかりと踏まえなければならない。日本のこの場所に、神戸市にある、その特長を生かすという意識を持つことが大切です。そういう意識を持つことではじめて、いかに国際交流をしていくか、世界の大学とどういう関わり方ができるかという展望が見えてくるはずです。

 本学としては、それらのさらに一歩先を行きたいと思っています。もっと独自性を打ち出したいのです。

現時点で本学は、学生数千八百人ほどの小規模の大学です。デメリットもいろいろありますが、逆に弱点と言われるところを長所として生かしていくという発想の転換をしたいのです。

 例えば、長所のひとつとなり得るのは、インタラクティブな関係を築きやすいこと。小規模校だからこそ、一方通行ではなく双方向・相互交流で意思の伝達ができる、コミュニケーションができるということです。それは学生同士でも、学生と教職員との間でも可能です。とくに私立の学校運営という側面において、学生と教員と職員の三者がトライアングルになる関係は望ましいはずです。いずれが上とか下ということはなく、対等な立場で協力することで良い大学になっていくだろうと思うのです。

 また、大学と地域社会との関わりというインタラクティブもあります。これまで大学は、知識の情報源と位置づけられていたのですが、今は必ずしも大学が一方的に知識を与えて外部が受け取るという図式にはならない。お互いに投げあうというか、そういう関係が必要になっています。

 この島の人口は一万六千か七千ぐらいですが、そのうちの十%弱ぐらいは外国人です。カナディアンアカデミー、ノルウェー学校などのインターナショナルスクールもあります。当然、英語を話されたり、教えられたりする方もいらっしゃるし、さまざまな外国の方がいらっしゃいます。そういう面では、お互いに言葉・文化・歴史など、いろいろなものを教えあえる、そんな環境にあります。それを活かしていきたいですね。

本紙 教育の指導においては、どのような独自性をお持ちですか。 吉田 教育の面でも、やはり小規模校ならではの特長を生かしていきます。一年生の十五人体制の基礎演習、二年生の二十名余りの総合演習、三年生・四年生の専門演習は十五名前後で、個別指導も十分にできる体制をとっています。四年間を通して少人数による演習を行い、一人ひとりに充分に目の届く教育をしているのです。

 また、世界とのコミュニケーション手段となる英語教育と、現代人の必須技術ともいえるコンピュータ関係の情報処理教育は、すべての学生に行っています。

英語教育は到達度別に実施しています。進んでいるクラスと、スロースターターといいますか、出遅れているクラスは、それぞれ十五人のクラス編成。その中間レベルは、三十人のクラス編成でやっています。一年生は二つの授業を必修として、一つはネイティブの先生が担当、もうひとつのクラスは日本人の先生ですが、留学経験があり外国人と同じように英語を使える能力を持った人が担当しています。

 教授法は、コンピュータ・アシステッド・ランゲージ・ラーニング、略してCALLを活用しています。この教授法のポイントは、語彙数を求められないこと。語彙よりも、少ない数でもいいから聞いてすぐわかる・話せることを大切にします。目的は使える英語の修得です。

 体育の授業にも工夫をしています。最近、体育実技の授業はあまり人気がないと言われますが、トレーニング方法研究基礎という科目をつくり、一年生の必修にして、週に一度九十分間は身体を動かさせています。運動部以外の学生も結構興味をもってくれて、二年になっても続いて受講するという例も増えてきたようです。

 専門の教育については、客員教授という制度をこの四月から設けました。現役で活躍している方に、客員教授になってもらって、生きた社会について伝えてもらうことになっています。一般企業やホテルの方、公認会計士の方など、さまざまな分野の方にお願いしています。

本紙 キャリアアップに対する意識付けにもなりますね。 吉田 今の時代、将来に備えてのキャリアアップ指導も、大学の役割として重要です。

 一年生のときからキャリアアップをテーマ別で支援するようなものが必要なのです。公務員になりたい人には、こういう公務員の講座がありますよとか、旅行業だったらそれに関しての講座を開きますという、アプローチをしなければならない。

 最近の学生はいろいろなタイプに分かれていて、全員を集めて公務員になるにはこういう準備が必要、旅行業はこれが必要と指導しようとしても、なかなかそれには乗ってきません。一律に全員を集めての説明というようなことは、今の学生は受け入れない。具体的に自分の問題になると、聞きに来るという人が多い。一律ではないことに対して工夫しなければならない。それが課題です。

 カリキュラムにもインターンシップというカタチで、キャリアアップを取り入れています。

 本学では、六甲アイランド内の企業をはじめ、さまざまな企業で受け入れてもらうことにしています。もちろん、そのために事前指導もします。半年くらいの授業で、三年生の前期に終わるようにして、学生も企業も困惑しないようにしています。ときには実際に企業の方にも来てもらうこともあり、そこで前向きな動機を持って、インターンシップを受け入れてもらうということになっています。

 また、英語検定試験や旅行業務取扱主任の資格などについては学内の補助制度があります。指導者を頼んで講座を開いて、学校が費用の一部を負担します。学生には他より安く受けられるというメリットがあります。

 以上のように、現在の大学は、カリキュラム、将来につながるさまざまな資格取得プログラム、就職支援と、多角的にキャリアアップを考える必要があるのです。

本紙 高校の先生をされていたというご経験から、高大連携についての取り組みはいかがでしょう。 吉田 地理的に離れてしまったのですが、附属高校がありまして、三年前から出前で「大学講座」を行っています。本学の設置学科である経済学科と都市文化経済学科に対応させて、高校でも、学科ごとのクラスを設けています。興味がある三年生を対象に、それぞれ週一回五十分の講座を実施しています。

 また、出前講座だけではなく、夏休みに実際にキャンパスに来てもらって、授業を体験してもらうという、プログラムも設けています。

 現在は附属高校だけが対象になっていますが、いずれはその延長線上のことも考えていきたいですね。例えば、本学の隣にある神戸市立の六甲アイランド高校は、総合科で国際科とか情報科もあり、本学と交流しやすい条件がそろっています。附属高校で現在やっていることを充実させていくと同時に、距離的に近い高校との交流を広げていくという可能性は、充分にあります。

 公立、私立を問わず、近隣の高校との交流は大切で、お互いに刺激になるいい機会だと思います。将来の進学やキャリアアップをどうするのかを考えるためにも、早い時期の交流は有効でしょう。ただ、それをどんな形で行っていくかについては、大学・高校が率直に話し合ったり、県や市が仲介して大きな枠組みをつくったりするなど、これからさまざまな試行錯誤が必要なのではないでしょうか。

 やはり、ここにも「共生」というキーワードが出てきます。高大連携も含めて、あらゆる面で、「共生」を模索していく、関係性を再構築していく時期を迎えていることは間違いないでしょう。

 その中で本学は、一つひとつに柔軟に対応していきたいと思っています。既存の概念にとらわれない「超都市型大学」というのが、本学のキャッチフレーズでもあるわけでして、それにふさわしい行動力と実態を備えていきたいですね。

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