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第15回 高千穂大学藤井 耐学長インタビュー

2003/06/25

 高千穂大学

藤井 耐(ふじい・たえる)学長

一九四九年生まれ。

一九七二年高千穂商科大学商学部卒業。

一九七四年明治大学大学院経営学研究科経営学専攻修士課程修了。

一九七五年高千穂商科大学商学部商学科専任助手就任。

一九七九年同大専任講師、一九八二年同大助教授、一九九二年同大教授(現・高千穂大学経営学部教授)就任。

一九九六年同大大学院経営学研究科修士課程教授就任。

二〇〇一年同博士後期課程教授就任(経営組織論特殊研究・経営組織論研究指導担当)。同年高千穂大学学長・高千穂学園理事に就任。

『研究』と『教育』の両立が使命

学問研究を通じての

『人格教育』で学生に満足感を

本紙 大学のカラー、特徴が非常に見えにくくなってきている時代だと思いますが、どうお考えでしょう。 藤井耐学長(以下敬称略)

 確かに、外からは見えにくくなっているということは言えると思います。高等教育機関が全体として増え、学部や学科構成も複雑になっている状況においては、これといった特徴を明確にして打ち出すということは難しいのかもしれません。本学としても、それは言えるところですが、本学らしい特徴というのは、しっかりと受け継がれていると思っています。

 それは、自分自身が本学で学んだからということだけではなく、高千穂という大学は、百年の歴史の中で紆余曲折はありながらも、学生を支える環境は常に温かいという伝統は、今日も脈々と生き続けております。現在の理事長も高千穂出身なんですが、高千穂の主たる組織文化のひとつが「穏やか」な気質を有する学生が多く在籍しているということであります。そして同時にその「穏やかさ」のなかに「気概」がある。内に秘めたものがある。表面的には非常に穏やかではあるけれども、内に秘めた気概があるということです。そして、この高千穂文化の下で、理事会、教授会、事務局の三位が一体となり、高千穂での学生生活に満足感を持って卒業してもらえるよう、様々な局面で努力致しております。

 それは、一学年六五〇~七〇〇という小規模、少人数だからこそできるということなのかもしれません。少人数であるからこそ、大学を構成する教員、職員と学生との交流が密接になっています。ある意味では、今の時代にマッチした教育が行われうる場であると自負しています。学生の学習に対する意識、自ら学ぶという行動を自覚してもらう。好ましいと思われる方向へ導くための教育の場としてのサポートシステムですね。そういうサポートシステムは当然といえば当然かもしれませんが、十分に整備されていると思います。これが大きな特徴と言えるのではないでしょうか。

 大学経営のみでなく、自動車メーカーであれ、教育産業であれ、組織に関わっている人間の職務忠実性は、組織人に求められる基本的資質のひとつでありますし、それが学内における活性化に繋がると思いますが、本学にはそれがございます。

 具体的に今実施していることの一つは、まず一年次に十五~十六名という少人数に対して、専任の教員が大学とは何なのか、高千穂大学とは何なのか、高千穂大学での四年間をいかにして充実した期間にするのかを話します。いわゆる学生生活を送るために何が必要なのか等々、ある種の導入教育を専任の教員で行っております。

 また、その導入教育の中で、教員それぞれの専門にも繋げていきます。二年次の専門ゼミを視野に入れて、その学問的な基礎、基本を提供するわけです。まず、本学での四年間のプランニング作りのための指導ということです。

あるいは大学生としての、基本的な姿勢、あり方の問題。そういったもの、ある種大きな枠で捉えれば人格教育を徹底するためのスタートを切るということです。そして、さらに三年次以降の専門的な教育へ入っていくための事前準備を、この一年次において四十人もの教員が担当しているわけです。そしてその後の二、三、四という三年間のゼミ生活において、基本から、より奥深く入りこんでいくことになります。しかも、ゼミに関係する周辺領域の学問、その学問研究の中で、当然のことながら単なる知識の吸収だけではなく、様々な知識を吸収しつつ、その個別の知識をいかにしてつなげていくのか、すなわち、知識の体系性を有する論理的能力を培っていくことを考えています。

 さらにその論理性を確固たるものとするために、ゼミ討議を通じて、ディスカッション能力・コミュニケーション能力も養うことになります。このことが重要だと考えています。

 さらに、その時々の議論においても、一方的に自分の意見を主張するのではなく、『傾聴』という言葉がありますように、他者の立場に立ち、他者の意見をも十分に吸収する傾聴能力を培ってもらいたいと考えています。この傾聴する力を養うということは、相手の立場を考えることができる力ですから、そこには思いやりが当然必要になります。ですから、知的レベルの論理性、そして、人間的な配慮行動、この二つを本学の四年間で培っていって欲しいと考えています。ただ知識のみを有し、他者を軽視する傲慢さといったようなものは、高千穂には必要ありません。これこそが、高千穂の主要な特徴の一つではないでしょうか。

大学の特徴を踏まえた

具体的なアプローチが重要

本紙 大学としての一貫した基本、特徴がある中で、学生の質的な変化はあるのでしょうか。そして、その対応についてはいかがでしょう。 藤井 私自身、講義も担当しておりますが、学生の私語は一切ありません。

 私語をしないという基本的なルールを守れる学生であるということは、人の話に耳を傾ける傾聴力を潜在的資質・顕在的資質として持っているということであると思っています。確かに講義自体は、大学側が用意したものであり、学生にとっては与えられたものですから、その与えられたものだけではなく、自ら考え、調べ、解決しようというレベルにまで到達していかなければなりません。しかし、そこへたどり着くための重要な要素として、人の話に耳を傾けながら、大学の講義というひとつの場のルールを守りながら、自ら行動しようとしている。そういう資質があることがはっきりとわかります。

 大学のユニバーサル化と言われる中では、当然のことながら、質的な変化は起こります。多様化と言われる現代ではなおさらでしょう。難しいところです。今、大学には『教育力』が強く求められています。しかし、大学における教育は、研究と不可分であると考えています。優れた研究者であることによって、優れた研究業績を残し、それを学生に還元する必要があります。 すなわち、いまの時代の大学教育というのは、研究と教育、同じ比重で研究にも教育にも関わっていかなければなりません。そうした資質が、大学の教員に求められる時代になったのです。多くの学生の中には、学問的なモチベーションが不十分な者もいますし、指導が行われなければ、自ら学ぶ方向へと向いていかない学生もおります。研究と教育の両方向に、同じウエイトをおいた関わりをしなければいけないのが今の大学の教員に要請される条件であると言えます。ですから今、大学がどう対応するのかということが問題になります。『教育力』が問われることになります。

 そうしたことへの対応の一環として、本学では、一年次に学外オリエンテーションを実施しています。『フレッシャーズ・オリエンテーション』と呼んでいるのですが、一泊二日、新入生全員を二つの班に分けて行なっています。その狙いは、自分の入学した大学に愛着を持ってもらいたいということ、教授会、事務局、理事会という学内の三つのサポートシステム、さらに、同窓会、父母の会を合わせた五つのサポートシステムが、学生を支援しているということを知って欲しいということです。そこでは、先輩学生によるパフォーマンスもございます。カリキュラム、課外活動、資格講座、海外研修等々、在学生が前面にたって、高千穂での学生生活を知らせるわけです。そして、この種の行事を通して、これから具体的な行動を起こすのは自分自身であることを、身をもって知ってもらうということになります。

 こうしたことは、少人数制だからできることです。本学の創立者である川田鐵彌先生が唱った『人格教育』を実践することになるとも考えています。学問研究を通じての『人格教育』ですね。それを徹底し、実践すること、高千穂の組織文化である『家族主義的教育共同体』のあり方が、学生に大きな満足感、安心感を持たせることに繋がっていくことになるものと思います。

求められる『教育力』への

対処を徹底し、個性化へ

本紙 『高大連携』についてはどうお考えですか。 藤井 当然のことながら、高大連携の目的は、大学への入学者や志願者を増やすためのものではありません。高校側が大学に求めるもの、大学が高校に求めるもの、まさしく教育という土壌において、連携を捉えるべきです。高校生のため、大学生のためにできることを第一義的に考えています。現在十二校と提携・協力関係を持っておりますが、そのいずれもが、私学の建学の精神を持っている高校です。まず、この十二校とどんな高大連携ができるのかを検討しています。その時も、やはり魅力ある大学でなければなりませんから、川田哲学の家族主義的共同体における人格教育、学問教育がどういうものかをしっかり実践していかなければいけません。自信なんかありません。ただ、ただ必死なだけです。

本紙 これからの高千穂大学についてお聞かせ下さい。 藤井 なんといっても私学ですから、建学の精神というものを今にどう活かしていくのかを考えています。創立者である川田先生の哲学をどう今に活かし、より深化させるかです。着実に一歩一歩、歩むこと。牛歩のごとくでいい、一歩一歩前へ着実に歩みなさいという理念が学風の指針となっております。本学では、その指針のもとに、学風の目標が三つあります。第一に「気概ある常識人」というものです。これは、精神レベルの理念です。自分に与えられたその時々の役割を怠けることなく、一年間、二年間、三年間、四年間と着実に、その精神性を持って歩みなさいということです。そして「偏らない自由人」という第二の目標は、ある特定の角度からのみ人間行動を、社会現象をみるのではなく、謙虚にかつ客観的に捉えなさいという意味が込められております。謙虚であるということの重要性が「偏らない自由人」という言葉のなかに読みとることができるわけです。そして第三の「平和的国際人」とは、異文化を理解する、他者を理解するということですから、先程の「思いやり」、「傾聴力」という言葉と繋がります。

 「平和的国際人」とはまさに国際社会全体、世界・地球規模レベルでの異文化を理解しなさいということです。そんな優しさを唱っているわけです。

 『着実な行動力』、『気概をもって自らを律する精神性』、『謙虚さ』、『思いやり』といった資質を醸成する人格教育が、学風の指針と学風の目標に表れているわけです。それを四年間の学問を通じながら、四年間のクラブ活動を通じながら、まさに、一歩一歩培っていく。それに真剣に関わっている大学であるということは自負できます。

 人間一人ひとりに個性があります。個人の価値観があります。個としての存在意義があります。また、当然のことながら、組織にも組織の個性があります。組織の存在意義があるんです。それを大学という教育の場において、どう具現化するかということが非常に重要なのです。本学では、『家族主義的共同体』に基づいた人格教育を実現すべく、学風の指針、学風の目標を持っています。創立百周年を迎えたこの伝統校において、これを今、本当に生かしたい。高千穂大学という組織を、社会からより一層認知される組織にしたい。社会から認知される組織、それは、学生たちが社会から認知されるということです。

 本学の学生が認知されなければ、高千穂の存在意義がないわけです。百年の歴史を持つ私学として、一層発展していきたいと考えています。

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