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第22回 学校法人ヤマザキ学園ヤマザキ動物看護短期大学 山崎薫理事長インタビュー
2004/08/25
山崎薫(やまざき かおる)
東京都渋谷区生。ヤマザキ学園創始者・山崎良寿(りょうじゅ)氏長女。立教女学院短期大学幼児教育科卒業後、サンフランシスコ州立大学芸術学部卒業。一九九一年、ヤマザキカレッジ日本動物看護学院理事長・学長就任。一九九四年、学校法人ヤマザキ学園専門学校日本動物学院(二〇〇四年四月よりヤマザキ動物専門学校に校名変更)設立、理事長就任。二〇〇四年、学校法人ヤマザキ学園ヤマザキ動物看護短期大学開学、理事長。専門学校理事長として在職しながら、一九九八年に麻布大学大学院獣医学研究科動物応用科学専攻博士前期課程修了、修士。二〇〇三年、同博士後期課程修了。みずからも短期大学にて教鞭をとる。日本動物衛生看護師協会会長、財団法人日本動物愛護協会理事、社団法人日米文化振興会理事など公職も多数歴任。
『ヒトと動物とのよりよい共生』の体系化をめざす
本紙 動物教育に三十七年の歴史を持つ貴学園の歩みと、短期大学を設立した経緯をお聞かせください。
山崎薫理事長(以下敬称略) 学校法人ヤマザキ学園は、一九六七年に創始者であり私の父である山崎良寿が、学校教育組織としては世界で初めてのイヌの美容専門学校である『シブヤ・スクール・オブ・ドッグ・グルーミング』を設立したことに始まります。
父は、学徒出陣した太平洋戦争で命の大切さに気づき、命の尊さを若者に教えようと、教育者の道を選びました。自身が大の動物好きであったことと、戦後、文部省で「新教育制度審議会」が開催され、日本にはまだなかった「職業科」という科目をアメリカに倣って制定した際、設置部会の最年少メンバーとして参加した経験から、女性にむく職業を開拓したいという目的で、動物ケアのスペシャリスト養成校を創立したのです。諸外国の女子教育を徹底的に比較した結果、母性や優しさを生かして、愛玩動物を対象にした職業がまさに適職ではないかと判断したのです。当時は、まだ女性の職業が少ない時代ではありましたが、先の大戦で、若人がたくさん戦死したため、これからは男性同様に、女性も職業を持って自立して、日本の未来を担う子どもたちを育てていかねばならないと考えたのです。
また、国際的な感覚を持った女性を育成することが、国際的感覚を持った子どもの育成につながるとの信念から、アメリカ研修を設けるなど、動物教育に長い歴史を持つ諸外国との交流も視野にいれました。
こうして、わが家の小さな応接間を教室に、女子専門学校『シブヤ・スクール・オブ・ドッグ・グルーミング』は、「世界の平和」、「女性の自立」、「国際感覚の修養」という三つの基本理念とともに立ちあがりました。
そして、まず力を注いだのが、多様な学問を取りいれるということでした。人間の医学、看護学、獣医学、動物心理学など、数多くの専門分野の教授を招聘し、カリキュラムの偏りをなくすように尽力したのです。これは、私どもの学校が掲げた『生命を生きる』という理念に、数多くのかたが賛同してくださったからこそ、できたことだと思います。このように大学の壁をとり払うことが、わがヤマザキ学園の宝だと言えるのでしょうね。
その後も『ヤマザキカレッジ』、『日本動物看護学院』と校名を変更するに従い、新校舎の建設や三年制コースを確立するなど、施設や教育内容を拡充し、本学園は動物に関する教育分野のパイオニアとして、その役割を果たして参りました。
一九九〇年十月、創始者である父が他界し、翌九一年春に、私がその跡を継いで専門学校の学長に就任いたしました。父が亡くなってから、正式に学長に就任するまでの間には、正直迷いと戸惑いがありました。しかし、動物教育を学問として確立し、動物とのよりよい共生を現実のものにしようと、すでに短期大学開学の構想を描いていた父の遺志を継ぐのは、やはり私しかいないと、決意を固めたのです。父が描いた夢を追うことは、二代目である私の夢になるとともに、強い心の支えとなりました。
就任後、まず私が着手したのは、学園の社会的認知度をあげるため、学校法人として認可を取得することでした。株式会社立の三年制看護学院としての募集を停止し、学校法人として募集を行いたいと、都庁に申請したのです。申請から三年半後の一九九四年六月に認可を取得し、校名も『学校法人ヤマザキ学園専修学校日本動物学院』に変更。私も理事長となり、本学園は新たなるスタートを切ったのです。
しかし、このような学校は前例がない、「看護」という概念は、動物には適用できないという理由から、残念ながら、『日本動物看護学院』という校名から「看護」の文字をはずさざるを得ませんでした。その時、いつの日か絶対に動物が人間と対等の扱いを受けられる日を迎えさせようと、心に決めたことをよく覚えています。そのためには、やはり高等教育機関を設立することが必要だと、短期大学設立のために走り続けてきました。そして、専門学校としての認可から十年目の本年四月、ついに念願であった短期大学を開学したのです。
『倫理観』『生命観』をもった
看護職を育成する
本紙 短期大学は、わが国初の『動物看護』の高等教育機関であるということですが、どのような教育体制を用意したのですか。
山崎 『ヤマザキ動物看護短期大学』は、「動物看護学科」を擁する、男女共学の三年制短期大学です。日本の短期大学は、ほとんどが二年制ですが、あえて三年間という修学期間を設けたのは、高等教育機関としての教養教育と、社会で即戦力となるためのテクニックの両方を身につけるには、最低限、この年数が必要であると判断したためです。
単位修得数も、三年間で九十三単位以上と若干多めに設定しています。一単位への換算は、講義科目・十五時間、演習科目・三十時間、実習科目四十五時間とし、実践重視の教育体制を整えました。動物の生命を扱う看護職としての倫理観と、確かな技術をもった人材を育成することを目標としています。
カリキュラムの一例として、本学ならではのユニークな試みである『オムニバス授業』があります。これは、ひとつの科目を複数の専門教員が担当する講義です。たとえば、基礎科目のなかの「生命科学と倫理」は、創立以来から大切にしている科目ですが、この科目は、学長の中村経紀教授と、本学と親交の深い聖ヶ丘教会の山北宣久牧師とが交代で教えております。将来、生命を扱う看護職となる学生たちには、生理学的見地から教える生命と、哲学的見地から教える生命の両方を学ぶことが必要だと考えているからです。
卒業後の進路として考えられるのは、けがや病気をした動物の看護職である動物衛生看護師(アニマルヘルステクニシャン〈AHT〉)や、犬の健康管理のできる美容師(ペット・グルーミング・スペシャリスト〈PGS〉)、家庭犬のしつけ訓練士(コンパニオン・ドッグ・トレーナー〈CDT〉)などです。飼い犬が一千万頭、飼い猫が八百万頭を超えた現在の日本社会では、ペット対象のサービス産業には、非常に大きな需要があります。加えて、動物の持つ癒し効果が広く認められるようになり、高齢者や障害者施設で、アニマルセラピーの需要も急増しておりますので、学生の進路は多様に開かれていると思いますね。
動物は人間の
大切なパートナー
本紙 専門学校の認可を取得された当時と比べ、動物をとりまく環境が変わってきたということでしょうか。
山崎 この十年間は、動物、とりわけ人間の伴侶動物であるコンパニオンアニマルたちにとって、人間のパートナーとして、市民権を得ることができた意義ある十年間でした。一九九九年には、『動物の保護及び管理に関する法律』が、『動物の愛護及び管理に関する法律』いわゆる動物愛護法に改正。この改正は、今まで動物が死んでしまっても、モノ扱いであったのに対し、初めて法律上の文章に、動物は『命あるもの』であるという文言が入ったという意味で、動物史上、歴史に残る出来事でした。二〇〇二年には、『身体障害者補助犬法』が成立し、ホテルやレストラン、公共交通機関などにおいて、特別な理由がないかぎり、身体障害者のかたに同伴する補助犬を拒否できないことになりました。
もはや動物は、前世紀の産業動物という位置づけではなく、生命を持つ存在として、人間のパートナーとして、互いに助けあう存在になったのです。専門学校認可の時に、受け入れられなかった動物の『看護』という概念が受け入れられ、本学が『ヤマザキ動物看護短期大学』として開学したことが、何よりもそれを証明しています。 本紙 短期大学では、何か新しい取り組みをされるのですか。 山崎 本学は、『ヒトと動物とのよりよい関係』をめざす短期大学です。ですから、看護のように人間が一方的に愛し、献身をする関係だけではなく、「動物が人間にしてくれること」、「人間が動物にしてあげられること」の二側面から教育・研究をおこなっていきたいと考えています。
今、最も力を入れているのは、アニマルアシステッドセラピーです。アニマルセラピーは、動物の持つ癒し効果を、人間の精神的、身体的援助に役立てるという療法ですが、日本ではまだ、学問体系として確立されていません。ですから、動物教育のパイオニアとして、アニマルセラピーについての教育・研究をリードし、博士号を取得した研究者や、世に認められる論文を輩出していくことが本学の使命であると思っております。
動物を介在させて、人間の役に立てるには、人間のことも分かっていなければなりません。ですから、カリキュラムにも、関連領域として、「アニマルアシステッドセラピー」や「心理学」の科目を設け、動物と人間の両方について熟知できるよう配慮しました。心理学や高齢者心理ケアのことなどを知っていれば、いろいろな現場で役に立つはずです。日本でただひとつ、アニマルセラピーを体系的に学べる高等教育機関として、核たる役目を果たしていきたいと思います。
アニマルセラピー、青少年教育
新領域の教育・研究も推進
本紙 二十一世紀を迎え、これからのヒトと動物との関係は、どのように発展していくと思われますか。
山崎 現代は、人間と動物が一緒に暮らすことが、とても自然なことになってきたと、強く感じます。たとえば本学にも、近隣のマンションの管理組合から、ペット同伴の入居について、規定を作りたいので、アドバイスをくださいというご相談が、頻繁に寄せられています。ペット同伴が可能なマンションは、以前はわずか一%程度であったのが、最近では五十%を超え、もはや半数以上の新築マンションは、イヌやネコやトリとの入居を可能にしないと、入居者がいないという状況です。
そして今、ヒトと動物との関係を大きく変えつつある要因のひとつに、少子高齢化があげられます。高齢者施設や病院などで、リハビリテーションにおけるアニマルセラピーの需要が急速に増えてくると思います。
動物は『命あるもの』です。さわれば温かいし、人間の意思に反応もします。かけた思いの分だけ、こちらにもまた、思いを返してくれます。ですから、情動を刺激するという部分で、効果的です。アニマルセラピーが職業として確立されれば、アニマルヘルステクニシャンとカウンセラーや臨床心理士、作業療法士のかたたちとが連携をとって、今よりもっと楽しいリハビリが実現するでしょう。高齢化が避けて通れない課題となった現代社会で、アニマルセラピーが担う役割は非常に大きいと思いますよ。
イヌは自分を愛してくれる存在を心の底から頼りにします。そのイヌの気持ちが、たとえば寝たきりになってしまったご高齢者の心に、この子のために私がご飯をあげなければ、散歩をさせてあげなければという張りを産み、生きる支えにもなるのです。『命あるもの』がいることが、とても大事なのです。痴呆のご高齢者とのコミュニケーションも、動物を介在させることで、とてもスムーズになると思います。
また、私が注目しているのは、動物が青少年に与える影響と効果についてです。現代の日本社会は、青少年犯罪が年々増えており、その背景には、若者が他者の尊厳を認めることができない、自分に誇りを持てないという状況があります。この状況を打破するには、若者の成長過程で、動物とのふれあいを積極的に設け、動物愛護の精神を教えることが、非常に有効だと考えます。動物とふれあうことで、自分以外の命の重さと、自分に対する尊厳を持つことができれば、青少年による安易な犯罪はきっと、減少すると思います。
本紙 今後の展望ならびに受験者へのメッセージをお聞かせください。
山崎 本学のある八王子市には、福祉関連施設などが非常に多く存在していますので、学生によるボランティア支援など、地域と密着した営みを図っていきたいですね。また、八王子地区周辺には、いくつもの大学が存在しております。加盟校三十大学での講義を、履修単位として登録できる「首都圏西部大学単位互換協定」に、本学も無事加盟させて頂きましたので、学問を通じた交流も広げていけたらと思います。
動物看護のパイオニアとして、専門学校で築きあげてきた三十七年間の実績を活かし、これからも邁進して参りたいと思っております。アニマルセラピーや青少年教育の教育・研究についても、その成果を社会に還元できればと思います。動物看護は、まだまだこれから発展する可能性を秘めた分野です。動物衛生看護師資格も、今はまだ民間資格ですから、獣医師や人間の看護師と同じように、国家資格として制定されるよう、働きかけもしていきたいですね。
本学を受験しようと考えてくださるみなさんに、私が申しあげたいことは、ひとつです。ただ単に「動物が好き」という気持ちだけではなく、私たち人間がどのような努力をすれば、二十一世紀を、多様な命が共生できる社会にできるのかということを考えてください。ヒトと動物が平和に仲良く共生できる社会の創造をめざし、本学でともに明日を切りひらきましょう。