トップページ > トップインタビュー > 第23回 城西国際大学 水田宗子学長インタビュー

前の記事 | 次の記事

第23回 城西国際大学 水田宗子学長インタビュー

2004/10/25

 水田 宗子(みずた・のりこ)

一九七〇年米国イェール大学大学院博士号取得(アメリカ文学)。米国スクリップス大学英文学部助教授、同南カリフォルニア大学比較文学部助教授・準教授。城西大学女子短期大学部文学科教授、学校法人城西大学国際文化教育センター所長、城西大学学長・城西大学女子短期大学部学長などを経て、一九九六年城西国際大学学長。現在、学校法人城西大学理事長、城西大学副学長も兼任。主な著書に『エドガー・アラン・ポオの世界』、『鏡の中の錯乱シルヴィア・プラス詩選』、『ヒロインからヒーローへ女性の自我と表現』、『フェミニズムの彼方』『女性学との出会い』『二十世紀の女性表現 ジェンダー文化の外部へ』など他多数。

学生の才能を社会で表現できる「かたち」に変える

今年十二月、多様化する大学教育のニーズに応える『東京・紀尾井町キャンパス』が完成

本紙 貴学の建学の精神と創設背景についてお聞かせください。

水田宗子学長(以下敬称略) 本学は一九六五年、埼玉県坂戸市に設立された城西大学を源流としています。一九六五年といえば、日本は、高度経済成長期の只中であり、民間企業の伸長著しい時代でした。そうした時代の潮流のなかで、創立者の水田三喜男は、日本の発展を支える有能な人材育成は、教育にこそあると考え、「学問による人間形成」を建学の精神に据え、城西大学を設立したのです。

 当時の大学は、国立大学が行政にあたるエリートを育成し、私立大学がそれをサポートする人材を、という暗黙の構図がありましたが、創立者が意図したのは、少数のエリート育成ではなく、在野でありながらも、日本を支えていける若い力の育成でした。今では、城西大学の卒業生は六万人を数え、社会のいたるところで適材適所、活躍しております。堅実ながらも、社会の役にたてる多数の人材育成に励んできた教育の成果として、嬉しく受け止めております。

 しかし、時代は移り変わり、国際化時代が到来しました。IT革命により、世界中の人びとと交信することが可能になり、国民の考え方も労働力も資本も、非常に多様化、混在化して参りました。そうした時勢のなかで、やはり、こうした新しい時代をリードしていける人材を輩出することが、大学の役割でないかと考え、一九九二年、千葉県東金市に城西国際大学を設立したのです。

 千葉県をキャンパスに選んだのは、千葉県は、関東圏を支えるひとつの重要な県であるとともに、農業、林業、漁業など地元産業が盛んな土地でもあるという理由があります。そのような土地柄が、私どものめざす『グローカル』な学びに最適であると考えたのです。『グローカル』とは、地球規模(=グローバル)の発想で、地域に根ざした(=ローカル)行動を起こすとの意であり、やれ国際化だ、多様化だと意気込むのではなく、身の回りのことから着実に世界を広げていくこと。それこそが本学がめざす学問のありかたです。また、本学の創立者は安房郡、現鴨川市の出身であり、そうしたゆかりの深い土地で、学園の新たなる歴史を刻もうと、経営情報学部と人文学部の二学部で本学を発足したのです。

「目的」と「目標」を開発する場

それこそが大学

本紙 設立からわずか十数年の間に、総合大学として大きく発展されましたが、こうした状況は、予測していらっしゃいましたか。

水田 当初より予測しておりました。何年くらいでどのくらいの規模に到達し、どのようなタイミングで新しい領域の学部を開設するかといったことすべてを、設立の際から計画していたのです。ですから、今春の薬学部と福祉総合学部の開設も計画の一端であります。薬学部に関しては、同じく今春から、木更津市にある最先端研究拠点である『かずさアカデミアパーク』に、『城西国際大学かずさ創薬研究センター』を設置し、民間企業と共同で、医薬品開発などの研究活動に取り組む体制も整えました。大学ですから、もちろん研究成果にも力を注ぎたいと思っておりますが、現場で働く企業の方たちと共同でものごとを進め、社会活動に参与できる機会を作れたということに、大きな意義を感じています。

 やはりこれからは、学生が実際に社会の現場に出て行って、企業や地方自治体、あるいは一般市民の方たちと、共同で働き、何かを開発していくことが必要だと思います。そうしますと当然、学びの場としての大学のありかたも変わっていく。従来のようにただ教室で講義を聞いて、知識を増やしていく場ではなく、自分の頭で考え、周囲とコミュニケートし、目的や目標をみずから開発する場になるでしょうね。二十一世紀は、こうした変化がとくに顕著になると思います。そうした変革期には、大学側がどれだけ、実践の場と道具を学生に提供できるかが、大きなポイントになると考えています。 本紙 では、今年十二月に完成される『東京・紀尾井町キャンパス』も、そうした狙いを反映しているのですか。 水田 はい。本学の教育施設は、現在、非常に拡大してきております。ホームグラウンドである千葉には、今年から安房に『ラーニングセンター』を、鋸南町に『セミナーハウス』を設置しましたし、海外の姉妹校は十三校を数えました。そこで学生たちは、語学研修からインターンシップ、文化研修といったさまざまな活動に励んでいます。このように複数化してきたキャンパスでの活動や人の流れを有機的につないでいく拠点として、『東京・紀尾井町キャンパス』を設置するのです。東京は日本の、ひいては世界の中心都市でありますから、この地でしかできない学びが可能になると期待しております。

 本学では、『フィールド教育』、『プロジェクト教育』、『キャリア形成教育』を教育の三本柱として標榜していますが、前者二つはインターンシップなど、学生の自主自律を重んじた実践的学びを指し、これらに、それぞれの学部・学科の専門領域をプラスした学びの集合体が『キャリア形成教育』であると捉えます。紀尾井町キャンパスは、この『キャリア形成教育』に大きな役割りを果たしてくれるものと考えています。

 たとえば、インターンシップの際に東京にキャンパスがあれば、企業との行き来が非常にスムーズになりますし、また、東京には多種多様な企業と仕事がありますから、さまざまな働き方を目のあたりにし、それぞれ異なった価値観を持つ人びとと触れあうことが可能です。そして学生は、都市という文明の産物のなかで人間が集まり、生産をし、消費をしていくというシステムを、リアルに肌で感じ取ることでしょう。そうした経験を通じ、自分は将来、どのような人物になり、何の分野で貢献をし、社会の中にどういった居場所を築いていこうかと考えさせることが、『キャリア形成教育』の大きな目的なのです。東京では、千葉のキャンパスで今まで培ってきた実績を、よりパワーアップさせていきたいと思っております。

 これは、大学院の教育にも通じることです。本学の大学院教育は、旧来の学者養成のための大学院教育とは一線を画し、深い専門知識と高度な技術を持って、民間で活躍ができるリーダーの育成を掲げてきました。リーダーには、非常に高度な役割が求められます。たとえば企業の根幹になるようなビジネスモデルを作ったり、情報をどう活用して、よりよい社会を創造していくかを考えたりなどの、いわば総合的な活動です。ですから、大学院生には、東京の地でさまざまな領域、業種の人びとと接触し、思考力、技術力、創造力といった『人間的な総合能力』を高めていってもらいたいと思います。

 また、社会人教育にも同様の意味で、好影響をもたらすでしょう。やはり社会人は、若者と比較すると、やや柔軟性に欠ける傾向がありますが、今は生涯学習の時代ですから、学問もどんどん新しくなる。つまり、自分の持っている知識や技術を、つねに見直すことが必要になっています。

 たとえば、福祉を例にあげてみましょう。高齢化が本格化した現代は、福祉人材のニーズは急騰し、人材不足だとよく言われます。しかしそれは、福祉を勉強してきた人材が足りないのではなく、現代のニーズにかなった新しい福祉のありかたを考えて、行動していける人材が足りないのです。これまでの福祉においては、政策や制度などの行政面にばかり目が向けられがちでしたが、現代の福祉が欲しているのは、どのようなケアを提供するのか、介護器具や施設の問題などを含め、人びとが助け合っていく環境をどのように整えていくのかという民間における創意工夫なのです。したがって、ある程度、基礎が固まっている社会人の勉強には、視野を広げるだけではなく、さまざまな見地・見解に触れて、今まで学んできたことの『見る角度を変える』ことが必要です。

 少子高齢社会を充実した人間生活の場にするためには、若い人たちのみではなく、大学院生や社会人などを含め、わたしたち大人が継続して学び続け、成果を社会に還元することが必須ですから、東京での『キャリア形成教育』は、年齢層を限定しない、幅の広い展開をしていこうと思っております。

「メディア学部」を新設

「経営情報学部」を改組

-「即戦力」を育成する教育

本紙 来春に開設予定のメディア学部と、改組予定の経営情報学部についてお聞かせください。

水田 メディア学部では、東京、幕張、房総の三角地帯を結ぶ東京ベイエリアを舞台としたフィールドワークを主体にして、「情報」、「映像」、「デザイン」、「サウンド」の四つの専門領域を実践的に学びます。三年次ではテレビ局や出版社でのインターンシップを必修にし、現場で通用する技術と感性を磨きます。いわゆる「机上の学習」ではありません。そして、メディア学部の最も大きな特長は、徹底した『プロジェクト研究』にあります。プロジェクト研究とは、学生が主体となって内容を企画し、問題を解決する参加型講義のことですが、メディア学部の前身である文学部メディア文化学科でも、これまで数多くの実績を残してきました。たとえば、鴨川市と提携を図った「棚田プロジェクト研究」。このプロジェクトは、日本古来の稲作方法である棚田の農作業や、四季の移り変わりを写真や映像などに収めていくもので、記録映像作品、デジタルカメラによる写真構成、ホームページ作成による記録と報告などを、メディア教育として展開していくものです。

 この取り組みの奥深いところは、「記録技術の向上」という観点だけではなく、昔から山村を支えてきた産業として棚田を再認識し、まちおこしなど地域活性に役立てていく方法までをも探る、いわば一種の「産学連携」の観点にも立脚しているという点です。つまり、本学の考える『メディア』とは、活字媒体やテレビなど、それ自体を指すものではなく、自然科学や社会科学を探究していくための『有効ツール』なのです。

メディアをツールとして使いこなすことができる人材は、今の企業が最も求めている人材ですから、就職の際にも大きなアドバンテージになると思いますね。

 経営情報学部では、四コース・十二サブコース制を導入します。ひとり一人の夢を実現するために、実務的、実践的な教育を重視し、就職に直結したカリキュラム構成をいたしました。まず、一年次では「情報リテラシー」、「経営基礎・教養基礎」、「語学コミュニケーション」を三本の柱に、語学と情報、簿記や経営の基礎を学習します。これらは四年間の学習全ての基盤ですから、しっかりと身につけてもらいます。

 そして二年次から、販売・営業、物流など私企業での活躍や起業家をめざす『企業マネジメントコース〈サブコース(以下同)=企業、ビジネス、国際ビジネス〉』、官公庁やNPO職員をめざす『非営利組織マネジメントコース〈=医療、NPO、パブリック〉』、企業内の消費者対応窓口や環境問題の専門家をめざす『生活・環境マネジメントコース〈=消費生活、環境、健康・スポーツ〉』、高度情報化社会における情報の専門家をめざす『情報マネジメントコース〈=情報システム、情報ビジネス、ネットビジネス〉』の四コースならびに、各コース内に三分野ずつ設けた十二のサブコースを選択し、スペシャリスト育成のための徹底した専門教育に入ります。

 それぞれのコースに対応した資格取得の支援や、必修のインターンシップ、丁寧な指導を身上としたゼミナール、メディア学部同様の『プロジェクト研究』など、教育内容は大変バラエティに富んでいます。経営情報学部は、『東京・紀尾井町キャンパス』においても受講が可能なため、ビジネスシーンの中心地という特性を活かした、経営トップやビジネスパーソンによるビジネス講座なども予定しております。同時に安房のラーニングセンターも実地研修やNPO活動などのフィールドワークの基盤として活用して参りますので、キャンパスが複数箇所に存在する意義を、余すことなく活かす学部になると思いますね。 本紙 それでは最後に、二十一世紀の『魅力ある大学』とはどのようなものかお聞かせください。 水田 今の大学教育には、複合的、学際的な能力が求められています。大学の学部学科名などにも一見しただけでは、何が専門領域なのかがよく分からない難解なものが増えてきておりますが、それは今という時代そのものが、複雑に変わってきているからです。たとえば、私の専攻である「女性学」の観点からすると、現代社会は、企業においても家庭においても、女性の活躍抜きでは成立しない時代であると言えますが、たった五十年ほど前までは、今の状況は考えられなかったでしょうね。それと同じように、これまで当たり前と思っていたものが、当たり前でなくなってきた。つねに変化しているのです。

 ですから今の若いひとたちには、いくつもの要素が重なり合った複合的な時代を生きるための能力、たんに経済学、法律学と区分けすることができない『総合的な能力』が求められています。こうした能力は、学生に最初から備わっているわけではありませんが、私はそれでいいと思っております。どの学生も必ず持っている長所や才能、学問に対するわずかな興味を出発点にして、とおり一遍ではない、多角的で柔軟な力を身につけさせてあげられるかどうかが、大学にとっての試金石であるからです。四年間という時間で、学生に夢を実現する最短ルートを示してあげることができる、そんな大学が魅力のある大学ではないでしょうか。

前の記事 | 次の記事