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第24回 創価大学 若江正三学長インタビュー

2004/12/25

 若江正三(わかえ・まさみ)

昭和九年六月二十七日東京都生。昭和三十三年東京教育大学(現筑波大学)理学部卒業。昭和四十年米・ヒューストン大学講師、昭和四十一年米・イリノイ大学にて理学博士取得。同年米・アリゾナ大学助教授、昭和四十二年カナダ・マニトバ大学助教授、昭和四十五年同大准教授。昭和四十六年創価大学経済学部教授、平成三年創価女子短期大学学長就任までの間、国際部長、別科長などを兼任。平成十三年創価大学学長。専門は代数的位相幾何学。

変わりゆく大学、短大ー21世紀の展望

人間教育の最高学府をめざす

『学生のための大学』―最良の環境で自立的学習人を育成

本紙 今秋設置された『学生支援センター』についてお聞かせください。

若江正三学長(以下敬称略) 今年九月に設置した『学生支援センター』は、学生への種々のサポートをより効率的に提供するため、従来の教務部・学生部・国際部・就職部を統合、学内事務の一本化を図ったものです。

 これまでは、各部署が離れたところに設置されており、たとえば留学関係は国際部の仕事ですが、学生は学内の事務区分など明確には把握しておりませんから、教務や学生部に留学のことを聞きに来る。すると教務の人間は、こちらでは取扱い兼ねるから、あちらの部署で聞いてくれ、ということになり、事務連携の不徹底が発生していました。また逆に、国際部に留学関連のことを聞きに来た学生が、ついでに修得単位のことも聞きたいというような場合も多々あるわけですが、そうした対応にもまた、まごついてしまう。

 それでは、本当に『学生のための大学』であると言えるのだろうかということで、これらの部署をすべて一箇所に集めて、学生の用件にスムーズに対応できる、「ワンストップサービス」型のセンターを設置したのです。

 実はこれは、若手の職員のアイデア・提案から生まれたものでした。四月に、新入生向けに「何でも相談」サービスを設けたところ、非常に好評であったため、今回の大々的なセンター設置に踏み切ったのです。利用しやすいように、努めて明るい雰囲気と開放的なスペース作りに配慮したためか、学生にはきわめて好評です。また、キャリアセンターには旧就職部の要素も兼備させましたので、就職活動の真最中の上級生が頻繁に出入りをします。それが下級生にとって、よい刺激になるなどの副次的効果にも期待をしています。 本紙 若手の職員からの提案を即時採用されるとは、ずいぶん大胆な試みですね。 若江 感覚が学生に近い、若手の職員の声を聞き入れる姿勢こそが、新鮮かつ時流に適った、さび付かない仕事をするための要であると思っています。学生に最良の学生生活を送ってもらうため、サービスの質的向上を図るための有意義な提案は、積極的に採用すべきであると考えます。 本紙 貴学の建学精神についてお聞かせください。 若江 「価値の創造」という意味を持つ、本学の建学精神『創価教育』とは、つまり人間の善性を最大限に開発し、英知と創造性に富んだ全体人間を育成する「人間教育」にほかなりません。しかし、「幸福と快楽をはき違えてしまったところに、教育を始めとする、戦後の日本社会の最大の迷妄があった」と創立者池田大作先生が述べられているように、現代において幸福は、快楽と混同されがちです。

 快楽によって、一時的に欲求は満たされるでしょう。しかし、快楽と幸福の決定的な相違点は、快楽は私たちに、精神的な満足を十分にもたらすことはないということです。精神的満足をもたらす真の幸福とは、人間が共に満ち足りて生きる「共生」にこそあります。

 すなわち、他人の痛みを理解し、苦しみをわかちあい、喜びを共有して、その人と共に生きようとすることです。

 家族が、友人が、隣人が、共に幸せに暮らしていくためには、自分の持てる能力をどう発揮すれば良いのかをつねに自問しつつ、行動に移すことができる学生を育てたいと思っております。 本紙 そうした理念は、どのように学生に伝えているのですか。 若江 全学一~四年次の共通基礎科目として、「人間教育論」という講義をおこなっています。開学以来、特に建学の理念に明確な形で示されている「人間教育」については、あえて講義では扱う必要がないのではと考えて参りました。しかしここ十数年の間に、自分の学ぶ大学に、崇高な建学の理念があるのだから、それを正しく理解したいのだと、「人間教育論」の開講を望む声が学生の間から自然に聞かれるようになり、実施に至ったという経緯があります。

建学の精神が学生同士を強い絆で結ぶ

本紙 まさに「学生のための大学」ですね。貴学では、学生同士の絆も非常に強いと伺っております。

若江 そうですね、建学の精神の下に集った友としての連帯意識は、非常に強いと感じます。創立者の精神が明確である大学では、自分たちは、その精神を体現するための学友であるとの意識が育まれやすいのでしょう。さらに創立者による入学式、卒業式などの式典におけるスピーチだけではなく、特別文化講座や授業参観もおこなわれ、そのほかにもキャンパス内でのさまざまな創立者との触れあいを通し、池田先生という、希有の師の下で学ぶ連帯の意識が強いのです。

 それは、教員にも通じることです。高い目線から見下すように学生に教えるという姿勢ではなく、共に学問を追究していく先輩、後輩という立場で学生に接し、また、先輩としてリードすべきところは、確信をもって学生の手を引いていく。そういう教員になって欲しいと思っています。

 ですから、当然講義は、教員と学生の共同作業であり、共に作りあげるものだと思っています。学生は、どんなにささいな質問でも教員に尋ねるべきですし、教員も真摯にその熱意に応えていくべきなのです。新任の教員には、このことは特にお願いしております。 本紙 「大学全入時代」がもはや必至となり、学生の質の低下が危惧されています。貴学としては、学生の質をどのように保たれていくおつもりですか。 若江 「教養」、「実学」、「専門」のバランスをうまくとった教育指導を施していきたいと考えています。本学に限らず、各大学、特に私立大学は、目には見えなくとも、それぞれに歴史と伝統を有していますから、巣立った大学の息づかいを感じられるような、特色ある学生を世に送り出すことがその使命です。創立者は「教育者は、学生が自分より立派な人間になるよう、努力すべきである」と繰り返し話されています。 本紙「教養」とは具体的に何を指すのでしょうか。  若江 教養とは、一口に申しましても、難しいものですね。ただ、真の教養を身につけた人間は、周りの何ものにも流されずに、自分の信念を貫き通すことができるということは確かなのではないでしょうか。すなわち、どのような困難に直面しても、人間として正しい道を選ぶことのできる人が、教養ある人といえるのではないでしょうか。

 肝要なのは、貪欲に知識を求め、知性を磨き、自分が初めて直面する事象に際しても、堂々とした立ち居振る舞いができる「人間としての度量」です。それこそを、教養と呼ぶのではないかと思います。 本紙 貴学は、海外に四十一カ国、九十校(二〇〇四年十一月現在)の提携校をお持ちと伺います。教養を深めるという意味では、最適ですね。 若江 日本にいるだけでは、出会えない真実が世界にはたくさんありますが、創立者は世界の一流大学から百六十七(二〇〇四年十一月現在)もの名誉博士、名誉教授の称号を授与されています。これは、歴史的偉業です。また、中国の周恩来元総理、旧ソ連のゴルバチョフ元大統領、南アフリカのマンデラ元大統領、高名な歴史学者トインビー博士、ノーベル化学賞・平和賞受賞のポーリング博士をはじめとする、世界の指導者や知性の代表と、累計千六百回を超す対話を重ねています。授与式におけるスピーチや、これらの対話を通して、学生は世界に関する知識と見識を広めることができます。その上で、できるだけ学生に世界を肌で感じて欲しいと思います。そのための機会が数多くあるのが、本学の特色です。異文化に触れ、異なった考え方や価値観を知ることは、学生にとって大切なことです。 本紙 「実学」修得のためには、どのような取り組みをされていらっしゃるのですか。 若江 「実学」はその名の通り、社会で即戦力たり得る実践力の修得です。偏差値神話が崩壊し、現代は、どれだけ有用な人材を社会に輩出しているかが問われる時代です。学生に社会で通用する付加価値をつけてもらうのが大学の責任ですので、さまざまな取り組みをおこなっております。

 たとえば、法曹や公認会計士をめざす学生を支援するための「国家試験研究室」や、教職をめざす学生のための「教職指導室」などを設置しています。また、各種国家資格の試験対策の講座を設け、学生の就職を支援しています。その結果、難関といわれる司法試験では、本年九名の合格者を出し、創立以来、司法試験合格者は、百十七名となりました。これは、戦後設立された私立大学としてはトップです。教員採用試験合格者は、平成三年以来、常に百名を超え、本年は昨年に引き続き、三百名を超える合格者を輩出しました。

 講義の面では、たとえば「トップが語る現代経営」は、平成七年から開講している全学共通総合科目であり、日本を代表するリーディングカンパニーの経営者が講話をおこなうもので、大変人気があります。社会の第一線を走り続けるトップの理念に触れ、その行動を目の当たりにすることは、自分は社会にどのように貢献をしていったらよいのかという社会意識、ならびにキャリアに対するモティベーションを高める好機になっております。

 このほかにも、企業でのインターンシップは、正規の科目として扱っておりますし、各企業の人事担当者による、企業研究講座なども開講しております。 本紙 今年四月には、法科大学院も開設され、「教養」と「実学」の両立が確実に遂行されていると感じます。 若江 今の法曹界に必要なのは、豊かな人間性を備えた人材です。本学の人格涵養を重んじる学風の中でなら、そうした法曹を育成できるのではないかという挑戦です。今年九月には、文部科学省の「法科大学院等専門職大学院形成支援プログラム」にも採択され、弾みもついておりますので、今後も学問と実務の架け橋となる教育を展開したいと思います。 本紙 貴学は、もうすぐ創立三十五周年を迎えられます。何か新しい構想はございますでしょうか。 若江 今、本学は第二の草創期とも呼べる時期にさしかかっております。多くの組織にとって、三十年目から四十年目というのは、大きな節目となります。これまで成功してきた手法が通じなくなる時期でもありますので、体制の見直しを図っていかねばならないと感じております。

 学部教育について言えば、共通科目の部分では、学部間の壁を越えた柔軟な学習体制が、かなり確立してきましたので、今度は専門科目における壁について考えようと思っています。たとえば副専攻制度を設け、広い視野と多面的能力をもった人材を育成したいと思っております。

 施設に関して言えば、新総合体育館と新総合教育棟の新設を考えております。特に新総合教育棟は、設備の充実を図り、副専攻制度などで積極的に活用、知の交流場となる建物にしていくつもりです。いずれにしても、総合大学としての特性を活かしきれる新体制作りを推し進めたいと思います。

 三十五年目と言えば、人間でいうところの壮年期、つまり気力、体力ともに充実する時期です。建学の精神は永遠不変ですが、理想の実現方法というものは、時代につれて常に変化するものです。優れた知性と行動力を持つ学生を世に輩出するべき高等教育機関として、創価大学はこれからも大胆に、改革を続けていきたいと思います。

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