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第26回 千葉大学 古在豊樹学長インタビュー

2005/04/25

 古在豊樹(こざい・とよき)

1943年生。1967年、千葉大学園芸学部卒業。東京大学大学院農学系研究科修士課程を経て1972年、博士課程修了。農学博士。大阪府立大学助手、千葉大学助教授を経て1990年千葉大学教授(園芸学部)。2005年4月より千葉大学学長。専門は、生物環境調節学、農業環境工学、農業気象学、植物組織培養学。

問題解決能力を高める

総合大学としての役割を強化し

バランスのある発展をめざす

本紙 千葉大学学長に就任されたご抱負をお聞かせください。

古在豊樹学長(以下敬称略)

 千葉大学は、9つの学部からなる総合大学で、研究センターも約10あります。私が一番心がけているのは、総合大学としての役割を強化していくこと、バランスのある発展をしていくということです。千葉大学には、規模の大きい学部、小さい学部、あるいは研究面で成果を上げている学部、まだ、それほど上げていない学部があります。また、キャンパスも西千葉、亥鼻、松戸・柏の葉と三つに分かれています。それらを総合して全体をバランスよく発展させ、連携を強めて有機的に活動することによって、総合力を生かしていきたいと思っています。日の当らないところにも日を当てて大切に育てていきたいですね。

 例えば、磯野前学長は2年前に総合大学の特性を生かすために「環境健康フィールド科学センター」を設置しています。これは、千葉大学の全学部が協力して環境と健康ということに対して、いろいろな側面から総合的な研究をしようというセンターです。このように総合大学でなければできないような新しい面を伸ばしていきたいと思います。

本紙 国立大学法人化から1年経ちましたが、貴学のこれからの使命はどのようなことだとお考えですか。

古在 国立大学法人化後の1年間は、規則、組織、業務などの変更の対応に追われていたのですが、これからは中身、コンテンツを充実させていきたいですね。 それから、教員、職員の意識改革が非常に重要だと思っています。従来の方法を使っていたのでは駄目なんだということを強調していきたい。具体的には、教員、職員に何が問題なのかを自分で考えてもらって提案してもらおうということをやり始めています。それを私たちが押しつけているのではなくて、自分の意志による提案をこちらがサポートし、やる気を自主的に持ってもらうという方法です。  また、千葉大学としてこれからは、研究をどんどん伸ばしていきたいということと、教養教育にも力を入れていきたいと思っております。

教育と研究どちらも全力投球

本紙 教育と研究、どちらにも力を入れていくということですね。

古在 私は、教育と研究は両立しないとは思っていません。両方、全力投球でやってきましたし、千葉大学では、教養教育のことを『普遍教育』と言うのですが、私は『普遍教育』も、研究も両方を重視していきたいと思っています。

 例えば、大学に入ってしばらくして、大学はどんなところだろうと思っている時に、非常にレベルの高い研究を行っている教員が、情熱を込めて感動的に講義することは、大きな意味があることだと思います。大学の講義は高校の授業とは違うんだということを感じてほしい。特に1年生の時の教育は重要だと思っています。難しい研究を行っている人が、やさしく自分達に話してくれるんだなという気持ちを持ってほしいのです。それはレベルの高い研究者でなければできないのです。

 それから、大学の研究というのは、博士課程の学生が多くを行っているんです。博士課程のやる気のある学生をたくさん集めることは大学にとって重要なことです。そのためには、学部の時に、学問は本当に面白い、もう少し究めたいと思う学生がいなければいけない。したがって、『普遍教育』をきちんと行う必要があります。このように、教育と研究との結びつきは非常に強いものがあり、どちらも重視し、強化していかなければいけないことです。

本紙 高校生に大学の先生が模擬授業を行うと、高校生は大変興味をもって聞くそうですね。

古在 はい。高校生もそうですが、私はこの前、小学生を相手に講義したのですよ。今までで一番緊張しましたが、一生懸命聞いてくれて、本当に感動しました。こういうことは、私たち研究者側にもプラスになりますね。研究の糧にも、エネルギーにもなっていきます。大学の教員というのは少々のめり込みすぎている面もあるかもしれません。けれども、そういう生き方もあるんだ、こういう研究もあるんだということを高校生にも見てもらって、少しでも興味をもってもらうことが重要だと思います。

本紙 古在学長は「サツマイモは21世紀の地球を救う」という論文を発表されて、トヨタとも共同研究を行っていらっしゃいますが、どのようなことがきっかけでこの研究を始められたのですか。

古在 私は、戦後の食糧難をサツマイモで生き延びてきました。だから、30歳くらいまではサツマイモを見るのも嫌だったのですけどね。けれども、留学生を通じて、中国やベトナムなどの国々に行ってみると、サツマイモを育てているところは、土地がやせて雨が少なくて、という環境が悪くて困っているところが多いのです。そういう地域の人々をなんとか助けたいと思ったことがきっかけです。

 プラスチックは主に石油から作られているのですが、生分解性プラスチックは植物資源由来であり、使用後は土にかえることができるものです。その当時は、そのほとんどがトウモロコシ由来でしたが、サツマイモから生分解性プラスチックが作れるようになれば、そこは石油の産地みたいになります。サツマイモを作っていながら、工業も発展するのです。また、サツマイモからアルコールを通じて生産される水素は、燃料電池のエネルギー源にもなりますし、サツマイモは、いろいろな用途が考えられます。

 そこで、まずは組織培養の技術を使って、大量にサツマイモの苗を作って世界中へ広めようというところから始まった研究です。それがたまたま、当時トヨタの社長だった奥田会長の目にとまり、自動車の内装のプラスチックに使えるのではないかということから、共同研究につながったのです。学長の任期が終わったら、また研究に戻りたいですね。

本紙 若者の理科離れ、学習意欲の低下などについて、どうお考えですか。

古在 私から見ると、理科離れも、勉強する意欲がなくなることも当たり前だと思いますよ。面白くないことを教えているのだから。例えば、実際の蝶々を観察するのではなくて、「教科書を読みなさい、覚えなさい」という教育ですよね。学ぶことの楽しさを教えていないのだから、仕方がないですよ。

 千葉大学では毎年、看護学部の学生が農場実習を行うのですが、そのときまで素手でこんなに土に触ったことがないという学生がいるんですよ。それでは、お年寄りの気持ちがわからないことがあるんじゃないかと思いますね。必要以上に、清潔にしたがったり。でも、最初は土に触ることを嫌がっていた学生もだんだん土に触っていると癒されるということがわかってくるんですね。そういう楽しさを人間はもともと持っているわけだから。

 何かのきっかけで、面白いということや、世の中の役に立つということが見えてこないとだめですね。私の場合は、農家を相手にしていましたから、私の言うとおりに実行してもらって効果がでなかったら、その農家の方は財産を失うことになりますよね。そのため真剣勝負でした。勉強なんて嫌いだったけど、一生懸命勉強しましたし。極端ですが、このように成果がはっきりわかれば真剣に勉強しますし、勉強が楽しいですよね。こういうことを、多くの学生に教えることは難しいけれども、少しずつでも普及していけたらいいと思います。

 今は、学校でも家庭でもいろいろなことに対して、「あれはだめ、これはだめ」と規制ばかりしていますね。それでは、全てのことに興味をもちようがなくなってしまいます。もっと、面白さ、楽しさを味合わせる必要があると思います。

本紙 これからの大学教育にはどのようなことが求められていくのだと思われますか。

古在 大学とは、問題解決能力を高める場所だと思います。最初は問題を見つけることからですね。これは問題だと、そしてどう解いたらいいのだろうと。こういうことは、周りの人に知恵を借りていいのですよ。今までは、大学も含め、問題は人に与えられ、解決方法は暗記していることから答えなさいという教育をしていました。そういう教育だったから、世の中に出てから役に立たないのでしょう。問題が何かということを考えられて、情報をうまく活用できて解決できるという能力が大切です。頭だけでなく、体を使ってそういう能力を、洗練された形で磨くのが大学の教育だと思いますね。難しいことですが、これをやらないと世の中の役には立てません。大学の時の成績と、社会に出てからの活躍が無関係だといわれますけど、このことが証明されると、「大学は一体何をやっているんだ」ということになりますよね。千葉大学を卒業した人は、問題解決能力があると、そう言えるようにすることが私の役目だと思います。

マルチにものを見ることが大切

本紙 具体的にはどのようにして、問題解決能力を育てるのでしょうか。

古在 学部間の交流をもっと盛んにしていきたいです。ものごとというのは、いろいろな側面があり、人文学的にも、理学的にも、工学的にも見ることができるんですね。世の中の、問題、困っていることを解決しようとしたらマルチに見ることができる人でなければ、うまく解決できないのですよ。  ある一つの分野だけで解決しようとすると、確かにその分野の技術は進みますけど、世の中がおかしくなってしまいます。ITばかりが進歩して、心の問題がおざなりになったり、遺伝子組み換え技術もどんどん進んでいるけど、それに対する理解も対策も追いついてませんよね。だから、複眼的に、マルチにものを見ることが大切です。そういう人間を育てるのが、とくにこれからの大学には必要とされていると思います。

本紙 現在の若者は心配だという意見も多いのですが、若者に対してメッセージをお願いします。

古在 私は、今の若者に対して、そんなには心配していないんです。人間は、面白いか困るかしないと、一生懸命何かに取り組んだりはしないものですよね。人間の本質はなかなか変わりませんし、昔も今もあまり変わっていないと思います。今は、総じて困っている人が少ないだけなのだと思います。しかし、わざと困らせる必要なんてないので、できるだけ面白いことを見つけてほしいですね。ただ、この面白いことというのは、考えていただけでは見つかりませんよね。体験しなければみつかりません。ちょっとだけ勇気をだして新しいことをやってみようということを言いたいですね。

 例えば、通学路を変えるだけでも違います。決まりきった道を歩いていると、だんだん無感動になってまわりの景色が見えなくなってきてしまうんですよ。ちょっとずつでも変えていくうちに、気に入った道が見つかるように、気に入ったこと、気に入った目標が見つかるんじゃないかと思います。大学は、その手伝いをします。

 例えば、「これは面白いからやりなさい」と言っても上手くいくわけはないのですよ。自分で見つけるしかないのです。そのためには、いろいろ試してみることが必要ですね。私もいろいろ回り道をしましたけど、回り道したことは後から大きなプラスになっていますから。

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