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第29回 北海道大学 中村睦男総長インタビュー

2005/12/25

中村 睦男(なかむら・むつお)

昭和14年生。38年北海道大学大学院法学研究科公法専攻修士課程修了。法学博士。

 49年より法学部教授。63年法学部長。平成9年副学長。12年大学院法学研究科教授。平成13年5月より現職。専門分野は憲法。平成16年フランス政府よりフランス教育功労章オフィシエ勲章を授与される。

変わりゆく大学、短大 -21世紀の展望

受け継がれるフロンティア精神

世界に目を向けた国際性の涵養と全人教育の実践

北海道大学の魅力について

本紙 まず北海道大学の魅力についてお聞かせください。

中村睦男総長(以下敬称略)第一の魅力は180万都市札幌の中心部に広がる緑溢れるキャンパスです。

 本学は12の学部と16の大学院で構成されていますが、函館市にある水産学部を除くとすべて札幌にあります。全国および道内各地より集まった学生のほとんどは、大学周辺に住んでおり、大学が生活の中心として存在しています。

 そして、本学ならではの特長を持つ、例えば農学部や獣医学部、水産学部等と人文、社会、自然科学のほとんどの領域をカバーする学部があり、世界水準の教育研究を行う大学院の存在とともに向学心のある学生にとってすばらしい環境が提供されています。

本紙 個性と多様性が共存しているわけですね。

中村 そうですね。そして本学には教育研究に関わる四つの基本理念があります。

 第一に『フロンティア精神』です。本学の前身である札幌農学校の教頭として赴任されたクラーク博士が唱えた"lofty ambition"(高邁なる大志)という言葉が基となっています。本学出身者には自然と身についている精神ではないでしょうか。たとえば、最近では日本人初の宇宙飛行士として、スペースシャトル「エンデバー」に搭乗した毛利衛さんは代表例と言えると思います。総長室にあるこの校旗は毛利さんと一緒に宇宙を飛んできました。また多くの本学の卒業生が国際協力機構(JICA)に勤務しており、大学院卒業者が多数青年海外協力隊で活動していることはこの精神が受け継がれている一例だと思います。

 二つ目は「国際性の涵養」です。これは今お話し申しあげたこととも関連がありますが、外国語によるコミュニケーション能力を高めることと世界に視野を向け国際的に活躍できる人材の育成は開学以来の伝統です。

 三番目は「全人教育」です。本学では学生の力を総合的に高めるために教養教育を重視しています。入学後1年から1年半は全ての学問の基礎となる幅広い科目を履修します。学際的なテーマに取り組んだり、少人数のゼミナール形式授業によりコミュニケーション能力を身につけたりと多様なカリキュラムが用意されています。教室内だけでなく学外でも教育の場は用意されています。特に北海道は自然には恵まれていますので、水産学部の所有する実習船の利用や、演習林へ出かける事もあります。教養教育は視野を広げ豊かな人間性を養う重要な期間であると考えています。

 このシステムと取組みは「進化するコアカリキュラム」として平成15年度、文部科学省の「特色ある大学教育支援プログラム」に採択されました。

 そして「実学の重視」です。これは研究の応用とフィールドワークを重視する伝統の二つの意味があります。実例を挙げれば、中谷宇吉郎先生による雪の研究や、時代はさかのぼりますが、宮部金吾先生の植物の研究など、フィールドワークを重視し、また北海道の産業の発展に寄与した研究が少なくありません。

研究の応用とフィールドワークの重視

教育の特長

本紙 今お話をうかがった教養教育を基礎として、どのような教育研究が行われていますか。

中村 本学は大学院重点化大学であり、教育研究組織は大学院を軸にして組み立てられています。

特に理系は学部教育と大学院修士課程で専門が完結することが一般的な傾向にあります。文系は基本的には学部で修了しますが、専門的職業人を養成する専門職大学院を設立しましたので、選択肢は多くなっています。現在、法科大学院、公共政策大学院そして会計専門職大学院があります。また2007年には、大学院のなかに観光学専攻をつくる予定です。北海道の観光産業にも寄与できると考えています。

本紙 最近は競争的資金獲得の動きも盛んですね。

中村 そうですね。本学でも大学院レベルでは「二十一世紀COEプログラム」を着実に獲得しています。なかには北大ならではの特色をもつ研究も採択されています。

また学部教育に対するものでは「特色ある大学教育支援プログラム」と「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」がありますが、それぞれ採択されています。先程お話しました教養教育のシステムは実例です。

産学連携と地域連携

本紙 産学連携の具体的な動きについて教えてください。

中村 北大北キャンパスと呼ばれている地区があります。元は農場だったのですが、このエリアが本学の産学連携の拠点となっています。

 ここに創成科学共同研究機構という学際的組織を設け「北大リサーチ&ビジネスパーク構想」を軸に産学連携を進めています。

 このプログラムは文部科学省の科学技術振興調整費・戦略的研究拠点育成プログラムに採択されました。

 これには北海道及び北海道経済界に全面的な支援をいただいています。

このエリアでは科学技術の研究開発機能と産学官連携機能が集積しています。現在次世代ポストゲノム研究棟、触媒化学研究センター、ナノテクノロジー研究センターが建設されており、世界水準の研究拠点として注目されています。

 この拠点のコンセプトは「知の創造」と「知の活用」であり、研究を進めた成果を企業と連携し社会に還元していくことをめざしています。具体的には、国内の優れた企業との共同作業により先端分野の研究を行う事と、北海道の大学として地域の産業に貢献する事の二つの方向性があります。

「知の創造」と「知の活用」をめざす

国立大学法人化と組織改革

本紙 中村総長は就任後国立大学の法人化にあたり様々な作業の管理運営に当たられたと思いますが、法人化前と比較してどのような変化がありますか。

中村 法人化は時代の流れでもあり、いずれは行わなければならない事だったと思います。海外の大学は国立大学でも法人化が進んでいます。大切なことは行政改革的な要素と大学の自主性、自律性のバランスをどう取るかの点だと思います。現実問題として、今年から国立大学法人としての予算組みとなり運営費交付金に効率化係数がかけられています。国が財政赤字であるのは理解していますが、教育研究の部分にはお金を掛けて欲しいと思います。諸外国と比較しても予算の割合は高くないですね。そこは心配な所です。これからの社会を担っていく世代を育てていくために、高等教育機関にはきちんと財政支出をしていただきたいと思います。

本紙 法人化のメリットとしてはどんなところがありますか。

中村 大学は法人化を契機として変わったと思います。従来は象牙の塔と言いますか、閉ざされた世界のなかでの自治だったと言えるでしょう。今は、社会や学生との接点をもとめられますし、行っている事、いただいている税金をどう使っているのかを説明する責任が出てきています。

 大学組織に外部の人材が参加するようになり、社会との接点を常に意識するようになっています。

 教員も自分の研究のことだけでなく学生を大切にする意識が強くなってきました。今までは÷`自分の背中を見て学びなさい÷a的雰囲気がありましたが、少子化の影響も重なり学生を積極的に育てていく気風が出てきました。その辺は大きく変わってきたと思います。

 また業務の効率化を積極的に進める体制も整ってきました。実際、旅費業務のアウトソーシング化も実行しています。

本紙 法人化により競争原理が導入されつつありますが、基礎研究とのバランスはどのようにとられますか。

中村 そこがまた難しいところなのです。最近は競争的資金の導入がさかんになりましたが、かつての日本では基盤的な事に予算を掛けてきたわけです。両者は並立させたいと考えています。二十一世紀COEプログラムをはじめ競争的資金の獲得のためには必要なことではありますが、審査の準備や資料作成で膨大な時間と労力が掛かります。反面、時間をかけて結果を出していく研究をおろそかにする事は出来ませんので、あるところでラインを引いて、バランスを取る必要があります。

これからの大学のあり方

本紙 今後の大学に求められるものについてお聞かせ下さい。

中村 大学固有の任務は教育にあることを私たちは強く意識しています。

次の世代を担う若者の教育を教養教育、学部、大学院の大学全体として実践していく事だと考えています。一つの事例ですが学生支援としていくつかの奨学制度を設けました。

 たとえば成績優秀な大学2年生を対象とした「新渡戸奨学金」、研究者を目指す女子大学院生のための「大塚奨励金」など学生に対するインセンティブと言えるものです。

本紙 最後になりますがどのような学生に入学してもらいたいとお考えですか。

中村 それには北海道大学としての理念と各学部の理念がありますが、大学全体としては大きな夢と大志を持つ学生にぜひ来てもらいたいと思います。問題意識と向学心のある学生にとってはすばらしい教育環境であると自負しています。

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