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第32回 山口大学 丸本 卓哉学長インタビュー

2006/06/25

丸本卓哉(まるもと・たくや)

1967年九州大学農学部農芸化学科卒業、72年同大大学院農学研究科博士課程単位取得退学。73年農学博士(九州大学)。山口大学助手、助教授、教授を経て、2004年4月より山口大学理事・副学長に就任。2006年5月より現職。著書は、「土壌のバイオマス」、「土のバイオテクノロジー」など多数。

チャレンジ精神に富む学生を育成

「共育」こそが教育の基本

本紙 学長に就任してまだ間もないですが、感想、抱負をお聞かせください。

丸本卓哉学長(以下敬称略)  副学長の経験があるので、そう違和感はありませんが、やはり学長になると、大学を代表する立場になり、責任をひしひしと感じます。

  私の一番の抱負は、「チャレンジ精神に富む、元気のある学生が育つ大学にしたい」ということです。夢と元気のある学生が育ってほしいと望んでいます。

激動の時代を生きた先人から学ぶこと

本紙 山口には、長州時代からの質実剛健というイメージがあるので、元気な学生が多そうですね。

丸本 私は本年4月、「長州五傑(長州ファイブ)」という長州出身で近代日本をリードした5人の石碑を作りました。

  尊皇攘夷か佐幕開国かという激動の時代、長州藩の内命で、1863年に5名の若者がロンドン大学に派遣されました。これが、伊藤博文(初代内閣総理大臣)、井上馨(初代外務大臣)、井上勝(鉄道の父)、遠藤謹助(造幣事業推進者)、山尾庸三(工業近代化の推進者)です。命がけの渡航でしたが、外国で学び、世界の視野で将来の日本を展望するというチャレンジ精神で、日本の近代化を成し遂げました。

  学生には、その精神的風土のある山口で、先人のチャレンジ精神と社会貢献の精神を学んで欲しいと思います。

  また、山口は歴史的にも吉田松陰先生をはじめとして、学問を非常に大事にしてきた土地柄で、自然にも恵まれ、勉学するのに大変環境がよいところです。

  大学は広い視野と深い洞察力をもって自ら目標をもち、勉強して、自分自身を鍛えあげていくところです。そういう意味で刺激の多い都会が勉学環境に優れているわけではありません。学生時代に、雑音に惑うことなく自分をみつめ、多くの人と語り合うことのできる環境として、山口大学を選んでほしいと思います。 本紙 丸本先生は教育ではなく、「共育」というお考えをお持ちのようですが。 丸本 教えるだけの教育ではなく、教員も学生に教わりながら、「共に育つ」ということを、山口大学の教育の基本に据えたいということが、私の考えです。

  それは教員と学生のキャッチボールです。研究の最先端の知識や技術を伝える、学生は咀嚼しながら疑問や意見を返したり、自分で検証したり、実験したりしたことを成果として先生に返す、それを受け止めた先生は自らの研究を検証しつつ学生のその疑問や発見に対してコメントを加える。

  そのように「共に育つ」という教育のあり方を根付かせようと、学長就任時から、ことあるごとに話しているところです。

  少し前に、1年生の前で話をしたときの感想文を読むと、「共育という言葉に感銘した」という学生がたくさんいました。そういう考え方が、学生にも浸透してきたと手応えを感じました。しかし、むしろ今度は、先生方にもっと理解してもらいたいと思います。

本紙 学生はもちろんのこと、教職員に対して、その考えを浸透させるには、どうしたらよいでしょうか。

丸本 学長が先頭に立って自分の考えを率直に伝え、いろいろな場で討議することが大切ではないでしょうか。私は月1回、メールマガジンで私の考えを配信することを考えています。また週2回程、「コーヒーアワー」という時間をつくろうと思っています。学生、職員、教員、だれでも、どんな些細なことでもいいから、話をする場を提供します。そういう場を通じて、「共育」というものを議論したいと思っています。実直に、そして真理に向かってひたむきに取り組む、という精神が「まっすぐ山口大学」というスローガンにも表れています。

本紙 学生支援のおもしろい取り組みがあると聞きましたが、どのようなものでしょうか。

丸本 「山口大学おもしろプロジェクト」というものを実行しています。 これは、「失敗から人は学ぶ」という考えで、学生の自主的な企画に対して、一企画に対し最高60万円まで直接資金援助をするものです。10年以上続くいい企画で、昨年の文科省の特色GPに採択されました。

  大学の主役は学生、学生の創造力こそ宝です。教職員が協働して学生支援に力を入れたいと思っています。この取り組みによって学生が成長していく姿がよくわかります。

 

本紙 学生ならではのアイデアはありますか。

丸本 「めだかの学校」というものがあります。田んぼの遊休地でメダカを育て、世話をしながら地域の子どもたちや地域の住民と交流していくというものでした。しかし、いまでは子どもの環境意識が生まれてくるようになると同時に、学生の環境意識も変わるという変化も起きています。

  それから、山口大学の環境を美化しようというものがありまして、掃除をしたり、ゴミ拾いをしたり、花壇をつくったりという、学生ならではのプロジェクトもあります。 本紙 大学の美化運動は、おそらく大学に対しての帰属意識も高まりますし、「共育」ということを実践しているようですね。 丸本 今年7月から、「山口大学クリーンウィーク」という、大学内を掃除する活動を始めます。教員、職員、学生が一緒になって掃除をします。

  このような学生の活動をみて、先生方の意識が変わってくるでしょう。意識が変わり、みんなで元気な大学にしたいと思います。 本紙 法人化3年目を迎えたわけですが、いかがでしょうか。 丸本 法人化に関しては、判断するにはまだ時間が必要だと思います。ただ、私たちは法人化ということとは別に、学生支援を充実しようと動き出していました。例えば3年前に学生支援センターを、法人化の時期と一緒になりましたが、学生相談、生活支援、就職支援する部所を他の国立大学に先駆けて設置しました。これにより、学生の就職相談も非常に成果が上がっています。

  「大学ランキング」(朝日新聞)によると、キャリア支援の項目では、全国で24番目でした。国立大学だけでみると、4番目です。国立大学として、私どもが学生の就職支援や、その他の学生支援で評価を受けていることだと思っています。

  いままでの国立大学は「学生支援」という点では、非常に努力が足りなかったと思います。これからは、学生支援が充実した大学で、卒業するときの学生の質を保証しないといけません。旧帝大とは規模が違う山口大学は、教育に重点を置いて、学生をきちんと教育して、卒業させる。そういった大学をめざすべきだと思っています。

 

本紙 広報活動が活発になりましたか。

丸本 法人化して競争しなければいけない時代では、広報が非常に重要です。

  入試広報も3年前からかなり力を入れています。いままでは、県内でしか行っていなかった広報を、福岡や関東や大阪など、各地で説明会を行うようになりました。

  ただ宣伝するというのではなく、大学としてのポリシーが大切です。高校の教育活動を励ましながら大学教育を準備する入試広報のあり方を追求しています。高大連携や広報を専門にするスタッフも設置しようと考えています。

  まだ構想中ですが、入試そのものを将来、地方で実施することも考えています。例えば、AO入試の地方入試が実現すれば、さまざまな可能性を秘めた受験生を山口大学に入学させることができるでしょう。山口大学は古くから東アジアとの接点をもっています。国内ばかりでなく、東アジアからも学生を広く受け入れて、「学びのフィールド」を広げていきたいと思います。

  それから山口大学のことを知るチャンスが少ないと思うのです。特に、地方の大学のことを大都会の人はあまり知りません。大学の特長やビジョン、他大学との違い、そして入学するとあの大学では何が得られるのか-。インターネットなどさまざまなメディアも駆使して、学生や保護者の方々に知っていただけるような広報をしたいと思っています。

  法人化して一番厳しいのは予算のことです。予算が一番厳しいのですけれども、厳しい中でも、元気がでるような大学にしたいと思います。

  

本紙 お金のことを考える必要があるようですね。

丸本 本学には、「山口大学教育研究後援財団」があります。もうスタートして5年目になります。最初は、スタッフ、教員だけで2億円を集めました。私は、それを100~200億円に増やしたいと思っています。目標は大きく持ちたいですね。

本紙 それを達成するには、卒業生たちの力も必要となってきますね。

丸本 卒業生の他に、県内・県外を含めた企業を対象に、本学の教育理念に賛同していただけるところから寄付を集めようと思っています。

  また、卒業生の組織化でも、各学部の卒業生組織を連合し、山口大学として連合同窓会というものを組織しています。やはり、大学全体の同窓会というまとまりが必要ですから、私が先頭になって、リードして参りたいと思います。

  いままでの国立大学の学長は、お金のことを考える必要はなかったのですが、いまではそうはいきません。財団の充実ということは、私の大きな使命の一つです。

グローバル化と地域連携の両立

本紙 地域との連携はどのようにお考えですか。

丸本 山口県でも県内11大学と連携した「地域大学コンソーシアムやまぐち」が発足しました。これから協力関係が進むと思います。

本紙 連携によるメリットは大きいのですか。

丸本 連携によって窮屈になってしまったら意味がありません。実現可能なプランから取り組み、活性化をすすめます。

  単位互換制度はもちろんのこと、遠隔授業、図書館の共有などがすぐに考えられるものです。学生だけでなく、教職員に対しての研修会も予定しています。

  大学の規模では、本学が一番大きいですから、本学が世話役も含めて、担当することが多いかと思います。他大学と協力することが、やがて地域貢献の一環となり、地域の高等教育レベルが上がるようになれば一番いいと思っています。

本紙 もともと山口大学は、ナンバースクールではなく、地名のついた旧制山口高等学校として、独自の歴史がある地域ですね。

丸本 経済学部の前身である山口高等商業学校から見ると、もう101年目に入ったようです。100年以上の歴史、地域の特長を大事にして、それを高等教育にも生かしていくということが重要です。グローバル化の一方で、地域をしっかり大事にしていくことを、私は山口大学の特長の一つにしたいと思います。

本紙 地域の高校との連携も進めていらっしゃいますか。

丸本 文科省のスーパーサイエンスハイスクールに山口大学は貢献しています。また、高等学校と連携協定を結び、山口大学の授業のなかに要望がある科目などについては、高校生をいれて授業をするということもやっています。

  出前講義もそうですが、高校生の学修については、これから大学に入学しようとする高校生に対して、高校の学習と大学の学習の質的な違いを認識させ、大学教育を受けるにふさわしい力を身につけようとさせることや、未来を築く大学生を作る連携が必要だと考えています。

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