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第37回 山野美容芸術短期大学 山野 正義理事長・学長インタビュー

2007/04/25

山野 正義(やまの・まさよし)

  1936年、東京日本橋生まれ。学習院大学に入学後、ウッドベリー大学(米国ロサンゼルス)へ留学。同大経済学部で経済学博士号を取得。ミュチュアル・オブ・ニューヨーク生命保険会社での勤務実績が認められ、米国永住権を獲得。その後、数々の滞米ビジネスに従事。1973年より山野学苑総括に就任し、1995年、山野美容芸術短期大学理事長・学長となる。著書に「YES、YOU CAN」(白馬出版)、「地球社会に向けて」(IN通信社)、「思えば叶う」(IN通信社)、「生きるほどに美しく」(IN通信社)、「YES、YOU CAN ver.2.0」(白馬出版)など。

美の五大原則で美を追究

究極の癒し「美容福祉」

本紙 山野学苑といえば、山野愛子さんの美容学校という受け止め方を持つ人が多いと思います。愛子先生はお亡くなりになるまで、飽くなき美の探求を続けられたとうかがっていますが、短期大学設立の精神、教育方針のバックボーンにもそれが生かされているのではないでしょうか。まず短大認可までの経緯からお話ください。

山野正義理事長・学長(以下、敬称略)  日本で初めて、美容教育のための短期大学開学認可を申請した時、文部省(当時)は「髪を切るのは生活の方便であり、高等教育になじまない」という回答でした。そういうところから始まり、今や、社会的にご理解をいただき、文部科学省の信頼も厚く、美容を中心として、健康・福祉へと、さまざまな取り組みが認められた短期大学になりました。このように、本学はユニークな短期大学です。世界を見渡しても美容を中心とする高等教育機関は珍しいことです。これは、大変意味のある画期的なことだと思います。

  余談ですが、今も郵便物が「山野美容芸術短期大学」といわずに「山野愛子美容芸術短期大学」として届きますから、「山野学苑=山野愛子」が生き続けている証拠でしょう。

  山野愛子は16歳から美容界に入り、86歳でこの世を去るまで70年間、ひたすら美容の探求、お客様をきれいにして喜んでいただくことのみに専念していました。熱中すると、昼間だろうが夜だろうが関係ありません。これが山野愛子の人生でした。

  私ども、学苑全体で2700人ほどの学生を、日々、教えさせていただいています。そこでは、一人でも多くの学生に美容に関する最高のノウハウを覚えてもらいたい、知ってもらいたいという気持ちで、教育に携わっています。

本紙 「教えさせていただきたい」という点が実に素晴らしく思います。

山野 このごろよく考えるのです。「教えてあげる」という言葉は、自分の持っているものを与えるという、上から見下す姿勢を感じさせます。ところが、山野愛子は常に「教えさせていただく」と言いました。「教えることは教わることの多かりき」とずいぶん言っていたことを覚えています。私どもが技術指導で修得したことを教えさせていただくと、学生も私どもも、ともに技術が上達するのです。

  私はようやく、山野愛子の言っていた意味がわかってきた気がします。 本紙 山野愛子先生は「髪」「顔」「装い」「精神美」「健康美」の五大原則に基づく「美道」という理論を提唱したとうかがいますが。 山野 人間の美といいますと、どうしても外側を言いがちです。しかし、内面も非常に重要なのです。例えば絵を見たり、彫刻を見たりしても、その外見の美しさというのは、芸術家のさまざまな感性が、その彫刻や絵に表現されているのです。

  美容も同じことが言えます。何万円もする化粧品を使ったとしても、キレイになったとはいえません。健康であるということと、精神的な充実がないと、本当の美しさというものはないわけです。五大原則は、外面と内面との美しさを持ったことをいいます。

  山野愛子は若いときから美容師としてお客様の相手をした実績と、美容師を育成するための指導者として経験を積む中で、美容は単に髪を整えるだけではなく、「髪」「顔」「装い」「精神美」「健康美」という五大原則が必要であり、それは、茶道や華道と同じように「美道」とすべきだと提唱し、山野学苑の教育理念にしたわけです。

本紙 そうした理念は、70年の歴史の中にも息づいているわけですね。 学長の著書を拝読させていただきましたが、「美は癒しでなければならない」とありました。「美容福祉学科」は、そういう考え方の中で設置されたのですか?

山野 そうですね、介護や福祉というと、美容とはまったく違う業界に思われますが、実はその接点が「究極の癒し」なのです。

 汚れているおしめを一刻もはやく替えてあげる、あるいは自分でトイレに行かれない方をお連れする。そういうことが介護・福祉の心だと思います。一方、美容というのは入店されたお客様が出店されるまで、ただひたすらその人の美しさを創造し創作していくわけです。従って美容と福祉には「癒し」という共通項があるのです。

 また、お年を召されても、身体に不都合がおありでも、「美しくありたい、若くありたい」、そして「触れてもらいたい」とは誰もが思うことです。これは「食事をしたい」「勉強をしたい」という欲望と同じです。このように考えて「美容」と「福祉」を融合した「美容福祉」という概念で提唱しました。

 私は、これからの美容師は、弁護士よりも医者よりも、もっと勉強してもらいたいと思います。なぜなら美容師は、イスに座っているお客様を上から触るわけです。さらに鏡を見ながら、お客様とお話をしますが、上から物を言うわけです。このようにお客様に対して上からもの申すという空間にいるわけですから、もっと美容師には勉強してほしいと思います。そして、いろいろな提案ができる美容師が、これからの時代に求められます。それができれば、美容界・福祉業界にとって素晴らしいことだと思います。

 例えば美容師が、お客様から「私病気なの、気分がすぐれないの」と聞いたときに、これまでの美容師は「そうですか、お大事に」と、それだけで済みました。

 しかし、これからの美容師に求められることは違います。お客様の話をよく聞いて知っていれば「すばらしい医者をご紹介しましょう」とすぐに提案できますし、知らなければ「次にいらっしゃるまでには、いろいろ調べておきましょう」ということになります。

 今は医者に行っても、待ち時間の割に、診察時間が短いという場合があります。しかし考えてみると、美容師の場合、最低30分、長いときで2時間、しかも一対一でお客様と話ができるという、すばらしいポジションにいるわけです。問題は、その時間をどのように過ごすか、これが大切だと思うのですね。つまり、「一番無防備で、リラックスしている状態にいるお客様に対して、美容師がどう関わるべきか」ということを、われわれは教えさせていただいているのです。

 時間をどのように活用するかは、美容師だけではなく、教育に携わるすべての人、学校も同じことです。昨日教えたことを今日も、そして明日も教える、それではダメなのです。やはり考える力、クリエイティビティと英語では言いますけれど、そういうことを、学校として教えさせていただかなければ、教育にあらず、と私は思っています。

マイタワーは美容の発信地

本紙 授業改善にも、ユニークな取り組みをされているようですね。

 山野 学校教育法の改正によって、大学・短期大学に対する第三者評価が義務づけられました。本学は、開学以来そうした自己点検を行っています。例えば、無記名で、学生によるすべての先生の授業評価をし、その結果をグラフにして、学生にも公表しています。学生は「お客様」ですから。

 お客様によろこばれないような先生は、山野学苑は必要としません。「教えさせていただきます」という人だけがほしいのです。「教えてやる」とふんぞり返っている先生を学生は求めませんから、本学としても必要ありません。

 また、先生の評価について、入学式では、学生たちに学生担当学長補佐の教員を紹介して「学校から給料を出していますが、雇い主はあなた方ですよ」と言っています。

 授業について、学生から、「モソモソしゃべってよく聞こえない」とか、留学生からは、「日本人ウルサイ」と学習環境についてのクレームが届いたりします。「遠い国から来て、高い授業料を払って一生懸命勉強しているのに、そんなうるさい環境を取り締まれない先生は、私の先生じゃない」と、はっきり言う留学生もいます。

 そうした場合、私たちはそのクレームが正当かどうか調査し、問題のあった先生について教授会で解雇するかどうか話し合いをします。解雇する理由はたった一つ、「お客様が満足していません。だから、お辞めください」ということです。幸い教員の努力によって解雇されるような教員は出ていません。そういう背景がありますから、先生も学生もみんな真剣に授業に取り組んでくれています。

本紙 話は変わりますが、今まで「こんな学生がすばらしい」、また「これからはこういう気持ちをもって山野の大学の門を叩いてほしい」という学生像はありますか?

山野 難しいことはなにもありません。山野愛子も私も同じですけれども「お客様を美しくしたい」、そして「お客様から評価をしていただけることが自分の幸せだ」、と思う人なら、誰でも入学していただきたいだけです。

 何もファッショナブルなセンスがなければいけないとか、そういう難しいことではないと考えています。

 私は、どんな素晴らしい技術者でも、30年やったら、ドングリの背比べで、この人が上手で、この人が下手ということはないと思います。

 ですから必要な要素は、個性です。個性が7割、技術が3割です。あとは、「お客様を美しくしたい」という気持ちさえあれば、われわれがお引き受けして、一流の美容師になるように教えさせていただくということです。

本紙 美容師の本質は、お客様の一人ひとりが持っている個性を引き出し、それをヘアスタイルなどでどのように表現するかという問題といえますでしょうか。

 さて、今年4月に完成した「My Tower(マイタワー)」について一言お願いします。

山野 前のビルでは、「ちょっとした地震で、あなたは600人の学生を殺すことになりますよ」と建築士に指摘されました。そこでさっそく補強を考えたところ、補強をする金額と新校舎を建築する値段がほぼ同じでしたので、日本一の耐震ビルディングを造ってみたいと、この「マイタワー」を建設しました。

 名前の由来ですが、「MY」は「マイク山野」と米国で22年呼ばれていた私のイニシャルです。また、ここで勉強した人が「私の母校だ」、「私の原点だ」と思ってもらいたいと思いまして、「マイク山野タワー」と言わずに、「マイタワー」としたわけです。

 新校舎が完成して、たくさんの方から祝辞をいただいたのですが、「世界の美容とファッションの拠点であってほしい」というメッセージをたくさんいただきました。そして山野学苑もそのつもりで、この代々木の地から世界に発信していきたいと考えています。

本紙 山野愛子生誕100周年に向けて、これからどのような事業をお考えですか。

山野 新・山野ホールでのビューティーショーなどを考えていますが、最大の記念事業というのは、このマイタワー建築です。

 この代々木の地では、通常の建築法でいきますと、50メートルのビルしか建ちません。しかし、「山野愛子生誕100周年にちなんで、100メートルのビルを記念事業として建てたい」と数年前から各方面に働きかけました。たくさんの専門家のノウハウを持ってきて、総合設計という新しい設計方法が認められ、今、日本ではたった3棟しかない方法で完成しました。

 これからも山野学苑は、美容教育の神髄を求め、よりよい先生を雇い、どこよりも授業料を安くし、すばらしい機材を入れ、将来にわたって学生や親御さんに心配を与えないことを心がけていきます。

 現在の大学教育がどうのこうのというのではなく、山野学苑のような、新しい生き方の大学もあるのだということを、知っていただきたいと思います。 本紙 時代が変わっても「教えさせていただく」という愛子先生の精神が今も生きていることがよくわかりました。ありがとうございました。

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