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第38回 酪農学園大学・酪農学園大学短期大学部 谷山 弘行学長インタビュー

2007/06/25

 谷山 弘行(たにやま・ひろゆき)

 1951年生まれ。酪農学園大学酪農学部獣医学科卒業。帯広畜産大学大学院畜産学研究科獣医学専攻修士課程修了。その後、帯広畜産大学で助手、酪農学園大学で講師を務めた後、1991年から約1年間、アメリカ合衆国オハイオ州立大学医学部に留学し、ジストロフィンの研究に取り組む。1993年に酪農学園大学酪農学部助教授を務め、1994年に北海道大学で獣医学博士を取得。2003年に酪農学園大学獣医学部教授、2007年には同大の学長に就任する。 

 2002年には「産業動物における遅発性感染症の発見とその病態解明」をテーマにした論文を発表し、日本獣医学会賞を受賞するなど、獣医学に関する分野で活躍をみせている。

北海道から酪農教育を広めるのが使命

土を離れては人類は存在しない

本紙 学長になられた経緯と、どのような研究をなさってきたか、おうかがいしたいのですが。 谷山弘行学長(以下、敬称略)

  私は、もともと、本学の卒業生であり、獣医学科で学んでいました。卒業後は、帯広畜産大学の研究室で獣医病理学を学び、家畜の病理について研究をしていました。主な研究成果として、80年代の日本において、当時存在しないといわれていた羊のスクレイピー(羊の海綿状脳症)を発見し、日本にも存在することを証明しました。そうした研究が認められ、酪農学園大学から、「ぜひ来てほしい」と依頼を受け、20年間教育・研究を続けていましたが、この度、学長に就任いたしました。

 私は卒業生ですので、本学の強みと同時に弱点が見えています。そこで、学長としての就任を機に、いろいろな場面で問題点や、今後の戦略なども提案していきたいと思います。また、本学が日本の大学の中でどのような特色を出していけばよいか、どのような位置付けであるべきかという点の整理をし、20年先・30年先の大学のビジョンを提案いたします。このモデルを基盤として、今後の大学改革のたたき台にしたいと思っています。

本紙 谷山学長が感じる酪農教育の現状とは、どのようなものでしょう。

谷山 まず、獣医学科を例に挙げます。一つ目は、今まで、獣医学という領域は、狭い領域でとらわれすぎてきたということです。動物の医療としてしか見てこなかった部分が、反省すべき点であったと思います。

 二つ目は、生産動物に関して、衛生管理などの研究がなされているのかという問題です。生産性という点においては、過去と比較して、牛1頭当たりの生産性は上がってきたのですが、それが健康な動物なのかどうかということにおいては、認識が欠如していると思います。牛舎の衛生状況や、飼料はどのようなものを使っているか。治療や予防に関しても、抗生物質や化学的な薬品を使い過ぎていないかなど問題は沢山あります。それらを獣医が整備し、一定のルールを社会的に提案する必要性があると感じます。

 三つ目は、酪農に限らず、他の一次産業のなかでも、酪農以外の畑作、園芸との関連と、野生動物・自然との関係も視野に入れた、総合的な教育をする場を作っていく必要があると感じています。既存の3学部相互のコラボレーションなどの共通教育・研究が、今後の課題であると考えています。 本紙 教育目的のなかに「実学教育」とありますが、どのようにとらえているのですか。 谷山 社会には、挫折する出来事がたくさんあると思いますが、それに対処する方法はいろいろあります。それは、多元的・複眼的な考え方ができれば、すべて臨機応変に対応できるという考え方です。そして、その場に応じて、適切な方法を選択する能力を養うのが実学だと考えています。

 ある意味、大学で学べるのは「勉強の仕方」です。知識だけを詰め込むのではなく、知識の使い方、要するに「知恵」を身につけるのです。本学ではそうした「生きていく上での基盤」を学ぶことができるのです。

本紙 それは、貴学の創設者である黒澤酉蔵先生の理念に基づいているのでしょうか。

谷山 われわれは、本学の教育理念をわかりやすく発展させる責任があると思います。その考え方の原理として、黒澤酉蔵先生の「三愛精神(神を愛し、人を愛し、土を愛す)」があります。それは、土や自然を大切にすること、他者を理解し、互いの個性を認め合うこと、そして、神を愛するということは、現代では証明できない物事の真理を、探し続けるということです。三愛精神は、本学の建学精神の思想である「健土健民」にも通じています。土を離れて人類は存在しない、自然との調和を図らずして、人類の幸福はありえないという考え方です。それはわが国だけの問題ではなくて、世界の人々に共通することだと思います。

本紙 貴学には、キリスト教の精神が、至るところに組み込まれているのですね。

谷山 現代科学が完璧ではないというのであれば、補てんするものが必要です。何かを達成するために、一本芯の通った共通認識が必要なのです。そこで黒澤酉蔵先生は、神の教え、キリストの教えを取り入れたのではないかと思います。

 しかし、ただ単に宗教を、神を愛する行為だけではなく、科学が現代社会にあたえる矛盾や、不安の本質を冷静に見極め、対処する知恵を学び取ることであると、とらえています。現代社会は、科学と人類の関係が問われる時代だと思います。

酪農実習で自分を見つめ直す

本紙 北海道という地域の特性などを生かした、貴学ならではの独自の教育を教えてください。

谷山 われわれは、北海道の大地そのものが、最大の教育者であると認識しています。そしてそれをいかに維持していくか、自然をそのままに維持して、人との調和をとれるような社会ルールを作っていくことが、学園の使命、責任だと思います。おもしろいことに、本学の獣医学部の学生は、関東、関西、九州など約8割が道外出身者で、全体的にもその傾向が強いです。

 その要因の一つには、「土に触れたい」、「アスファルトの上ではなく、土の上を歩きたい」と大自然に憧れる学生が多いことです。もう一つは、机の上だけではなく、実際に自分の手と足を動かし、額に汗をして、学びたいと希望する学生が多いことが挙げられます。ですから、新入生に対しては「酪農実習」というのを行っています。北海道中のいろいろな農家に実習を委託して20日間の実習をします。

 農家の家庭の中で生活するわけですから、すんなり入っていく学生もいれば、なかなかなじめない学生もいます。食事が合わないですとか、朝4時に起きて農作業するなど、都会に住んでいては経験できないことばかりです。しかし、そういう作業を通して、自分を見つめ直すことができるのです。実習の終了後に、もう一度体験したいかと聞くと、半分以上が「YES」と答えます。

本紙 地域に開かれた大学作りを目指していると、うかがいましたが。

谷山 地域と同時に、日本全体、そしてアジア全域まで広げていきたいと思っています。日本だけが新しいことに取り組んでいても、新たな発展はありません。農業の問題は、農業に従事する人の問題だけではなく、農作物を消費するすべての人にも関係することです。農業関係者は、都市部に在住する人々にも、農業に関する情報を提供する必要性があると思っております。

本紙 国際交流を積極的に行われているのですか。

谷山 JICA(国際協力機構)との協力でアフリカ・アジア・南米など、いろいろな大学から研修生が来ています。とくに酪農分野に関しての学習ニーズが高いです。一方、受け入れるだけでなく、こちらから積極的に研修に出て行くことも重要だと考えています。ですから、いろいろな大学との提携も行っており、アメリカ合衆国・カナダをはじめ、東南アジア・中国・台湾・ドイツなどで研修をしております。卒業生の中には、青年海外協力隊に参加する人が非常に多いです。

本紙 今後の日本の農業の中で、貴学はどのような役割を果たすとお考えですか。

谷山 農業は、食料を生産するだけではありません。量を生産するのも大切ですが、いかに質の高いものを提供するかが大切です。農家は消費者に対して、ただ食料を提供するだけではなく、「食料をどのように調理をすればいいのか」など、消費者の人々に提案をしなければならないと思います。単なる食の提供者に、とどまってはいけません。われわれも、基礎知識はありますから、食文化としての、食品の提供をしていくことが今後の課題だと思っております。

学生の「スチューデントパワー」を高めたい

本紙 学長として、これからの意気込みや、貴学の方向性を教えていただけますか。

谷山 まだ構想段階ですが、本学独自の学びとして「酪農学のススメ」というものを考えています。本学が持つ建学の精神を踏襲し、長期的なプランを計画しています。具体的には、主な構想の一つとして、学生の持つ潜在能力を引き出し、「スチューデントパワー」を高めていきたいと思っています。具体例として、本学の食品流通学科では、学生たちに、自ら販売企画部などを作らせています。彼らは、食品の売り方・展示・販売の仕方をどうすればいいのだろうかと議論することで、お互い切磋琢磨し、自らの可能性に気づいていくのです。机上の学問も大事ですけれど、学生たちが自ら何かを作っていけるような環境を用意することで、学生の才能を開花させることができるのだと思います。それが学生の力-スチューデントパワーなのです。

 また、大学職員の職場環境も大切にしたいと感じています。私がいつも心がけていることとして、「会議の中でタブーな話題を作らない」ということです。触れてはいけない部分を作らずに、問題点は、どんどんディスカッションしなければいけないと考えています。たしかに自分の意見が通らないこともあります。しかし、発言をすることによって、自分の考えの矛盾点に気付くことができますし、反論するにしても、議論の中で、本質はどこにあるかというのが見えてきます。議論の仕方、提案の仕方など、技術的なことも学長として、考えていかなければならないと思います。

本紙 最後に高校教諭や保護者の方に向けて、伝えたいことはございますか。

谷山 本学の学生だけではないと思いますが、現在の学生は非常に品行方正です。逆に物分かりが良すぎる感じがします。ですから、危ないことには近づかないですし、自分にとっていいことだけを選びます。教職員の手間はかかりませんが、学生の本質に触れているのかという点では、少し疑問があります。今は、トラブルがあると、周囲が必要以上に騒ぎ過ぎてしまいます。結果として、物事の本質が見抜けない場合が多いのです。学生も大人も、お互い何か踏み込めない、暗黙の了解ができ上がっているような気がします。

 そういう意味で、高校の先生方には、普段のご指導などで忙しいとは思いますが、もう少し一人ひとりの本質を見出すような努力をしていただきたいと思っています。

 最後になりますが、広大なキャンパスと、酪農分野について深く学べるのが、本学の特色です。生協購買部では、本学特製のアイスクリームや牛乳を販売しております。教職員も学生もお待ちしておりますので、オープンキャンパスには、ぜひ足を運んでいただきたいと思っています。

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