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第39回 和光大学 白石昌夫学長インタビュー

2007/08/25

白石 昌夫(しらいし・まさお)

  東京芸術大学卒業後、開学当初から、同大に教授として勤務。表現学部長を経て、2005年4月より学長に。専攻は絵画(油絵)。学長となったいまも、作品制作を続け、個展を開催するなど精力的に活動。講義を担当する日は、卒業生からもらったというエプロン姿で授業に臨む。常に学生一人ひとりにマンツーマンの指導を心がけている。

学生と教職員が和光の『光』

個性が混ざり合って和光らしさとなる

大学を自分の居場所と感じてもらう

本紙 貴学の創立時から今日までの歩みについてお話しください。

白石昌夫学長(以下敬称略) 本学は、成城学園から分かれた和光学園が母体となっており、1966年に開学し、40周年を迎えました。初代学長には、創立者であり、日本の教育史学の確立者としても有名な、梅根悟先生が就任し、これまでの大学教育になかった「自由教育」という概念を盛りこみました。

  梅根先生は、数ある大学のなかでも、独自の存在感を発揮できる大学をめざし、開学当初の挨拶で、「大学とは自由な研究と学習の共同体であるべき」と語ったのです。これは、大学は自由に学べる環境を用意し、学問を追求する場として機能すべきだということです。

  この理念は、現在も、本学の基盤となっており、私を含め、これまでの学長たちは、それを受けつぎ、大学の運営を行ってきました。

  今日まで築いてきた本学の独自性は、梅根先生の人柄、雰囲気、学識経験の深さに加えて、開学当時集まった教員が、非常に個性的であったことが関係しています。梅根先生は、教員の個性を尊重し、学生の指導を任せていたことから、教員から「みんなで大学をつくっていこう」という思いが強く、学生もその思いにのって、ともに大学を形作ってきたのだと思います。

  また、小さな大学なので、全体が見渡せることもあり、教員と学生の距離が近かったため、講義外でも学生と交流を持つ教員が多かったのです。放課後には駅前の居酒屋で飲み交わし、楽しそうに語り合っている光景がよく見られました。私も学生とは夏休みにゼミ旅行に行くなど、親睦を深めていました。旅行では、「実物に触れて、感じること」を意識し、枠に当てはめないよう、指導していましたね。

  そういったことが出発点にあったため、学生一人ひとりの個性が発揮され、それぞれのカラーが混ざり合い、作り上げたものが積み重なり、今日の「和光らしさ」になっていったのだと思います。

本紙 学長は、現在も講義を持っているとおうかがいしましたが、その理由についてお聞かせください。

白石 初代学長の代から「学長が講義を持つ」という体制は引き継がれています。なぜ梅根先生がそうしたかというと、「大学とは学生あっての大学だ」と考え、現場で学生と接することで「大学としてどうあるべきか」ということがわかるからです。それに、学生と接していると、「大学にいる」という実感を持つことができますからね。

  私は、週1回、油絵の講義を担当しています。最近の学生から感じることは、「大学を自分の居場所」と感じる学生が減ったのではないかということです。昔の学生は、大学を自分の居場所とし、講義がない日でも大学にやってきて、研究室などにたむろしていました。そのため、先生方も、ゼミ生の出身地や私生活まで把握することができましたが、今はなかなかそこまでわかりません。

  たとえ、自分の居場所が大学内になくとも、アルバイト先などにあれば良いと思います。なぜなら、自分の居場所があるということは、どんなかたちであれ、そこで自分の勉強ができる空間が確立されるからです。問題なのは、どこにも自分の居場所がない学生がいるということです。大学は、そういった学生は、こちらから居場所ができるように仕向ける必要があると思います。講義を受けたらすぐ帰ってしまうような状況でなく、大学内で自分の居場所を作れるようにしたいですね。学生の出席率も良いので、それをきっかけに改善していきたいと思います。

  具体的には、専門教育に入るまえの導入教育として1年次にゼミを行っています。この制度はプロゼミといって、創立当初から行われてきた本学独自のスタイルです。ゼミというと普通は、3~4年生で、研究をするために行うものですが、本学では、学生が一人歩きできるよう、一人ひとりに対してサポートを行います。

  ゼミによっては、毎週、研究成果を発表させるなど、課題の多いゼミもあります。ですが、こうした取り組みは、学ぶための基礎力を身につけさせるだけでなく、大学が自分の居場所なのだと認識させることにつながるのです。少人数で課題に取り組むため、自主性が求められるからです。また、欠席が続くような学生がいれば、教員自らが連絡を取る場合もあります。

  1年次で、学ぶ楽しさに気づいた学生は、自分で一人歩きできるようになります。学生の自主性を尊重し、個性を伸ばしてあげることが、教員の役割ですからね。

学生は入学して二度生まれ変わる

本紙 学生の自主性を、どのように伸ばしてあげているのでしょうか。

白石 大学は学生あってこそであり、大学を磨いていくのも学生です。学生が活発でないと、大学の存在意義は薄まってしまいます。

  昨年、学内をアート空間にした「WakoExpo(和光エキスポ)」というイベントがありましたが、そういった活動が大学を磨いていくのです。大学としても、学生の自主性を尊重し、支援を行うべきだと思います。むろん、学生の思うままにやらせるのではなく、教員が、それをうまく軌道修正し、実現しやすい方向に導いてあげる必要があります。前回のイベント時もそうですが、本学は、大学全体を巻き込んだイベントが盛んです。そのため、教員は、学生が活動しやすいように、いろいろなことを配慮しなくてはいけません。

  学生から上がってきた企画のなかには、大学職員が心配するようなものもあります。ですが、事前に教員が判断したうえで企画を進めているので、職員に対して、きちんと説明をし、学生のためにも、ぜひやらせてほしいと言っておかなければなりません。

  教員の立場とは、学生が自主性を発揮し始めたときに、それを実施しやすいように配慮し、学生を指導しながら、個性を伸ばしてあげることです。こうした教員たちの支援が学生に伝わり、個々の成長につながっていくのです。

本紙 具体的にはどのような場面で、学生が成長するのでしょうか。

白石 本学の学生は、成長するチャンスが二回あり、私は「入学して二度生まれ変わる」という表現を使っています。

  一度目は1年生の夏休み後です。それまでは、学生のほとんどが高校生と同じです。ところが、「基礎ゼミ」や「プロゼミ」などで勉強の楽しさを知り、夏休みに何かしらの経験をすることで、9月からようやく「大学生」の顔つきに変わってくるのです。

  二回目は、4年生の卒業論文・制作が終わった時です。この時は、大学生から社会人への顔つきへと変わっていきます。学生は「自分の出発点ができました」と言います。これから先、自分が何をやって生きていくべきかが、わかるからです。それが二度目の生まれ変わりになります。そして、学生は、自らの個性を発揮すべく、社会へと巣立っていくのです。

  今いる学生たちには、大学を専門教育の場として認識してもらい、自分の核となる勉強をしてほしいと考えています。専門領域を深めるために、広い視野をもって勉強する必要があります。そこで総合的に学ぶ意味でも、本学の「講義バイキング」などの制度が生きてくることになるのです。そのなかから、自分がやりたいことをしっかりと見つけ、勉強してもらいたいと思います。また、最近は、「健康」というところにも気を使ってもらいたいです。それは、精神面も含め、心身ともに健康でいるということです。そのため、学内に精神科のカウンセラーをおくなど、さまざまな取り組みをしています。

本紙 大学としては、今後どのような取り組みを行っていかれますか。

白石 本学は、今日までなにも変化せずに運営してきたのではなくて、所々で改革を行ってきました。開学当初は、2学部4学科でスタートしましたが、現在は3学部7学科で構成されています。時代の変化に応じて、大学を改革し、無駄なところは整理してきたのです。もちろん、改革を進める際にも、学長だけで決めるのではなく、教職員のみなさんの意見を聞いています。そのために、「将来構想委員会」というものを設置しており、大学の将来に向けて検討すべき議題があった場合に、みんなで話合う機会を設けているのです。

  最近では、周りの教職員から、「入試をもう少し変えたらいいのではないか」というようなことを、聞いています。そのため、次年度に向けて、「入試をどうしようか」ということを議題にあげています。

  会議では、意見が分かれたり、難解な課題に直面したとき、「梅根先生だったらどうするだろう」と思うことがあります。そのような時は、多くの教員に意見を求めるようにしています。学部長会議などでは、現場の教員たちの意見を聞くことができるため、参考にしています。

  また、教員も世代交代をうまくしていかなければ元気がなくなってしまいます。最近は、新しい教員を採用するときには、若い人を採用するようにしています。若い教員には、本学の理念を理解してもらったうえで、個人のカラーを出してもらいたいです。教員の個性が発揮されることで、学生の個性も引き出され、それが本学の独自性になっていくからです。もちろん領域や学問の内容によっては、若い教員ではなくて、熟練した教員の力も必要です。そこで影響を受けることが、若い教員の成長につながります。そして、定年退職された教員の後を、若い教員が引き継いでいくことで、大学がうまく循環するのです。

本紙 次の時代に向けて、学長がめざす方向性についてお話ください。

白石 和光の光はダイヤモンドの光だと梅根先生は話していました。それを私なりに解釈するならば、和光のダイヤモンドは、学生であり、職員であり、教員なのです。さまざまな面が、いろいろ合わせて光っていることが大事なのです。学生だけが光っていても仕方がないですし、教員や職員だけが光っていても仕方がありません。学生、教員、職員と、それぞれが隣り合わせて光っていないと駄目なのです。

  私は、伝統というものは、成長するうえでの弊害にもなると考えています。大学の理念は残しながら、新しい伝統を作り上げていかなければならないのです。大学は5年の歳月を過ごしたならば、その時間の分だけ進化していかなければなりません。そのためにも、現状に満足することなく、変化を続けていきたいです。

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