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第40回 法政大学 平林 千牧 総長インタビュー

2007/10/25

ひらばやし ちまき 1935年生まれ。 東京都出身。1960年3月法政大学経済学部卒業、1971年3月同大大学院社会科学研究科経済学専攻博士課程満期退学。2005年4月学校法人法政大学総長・理事長として現職。同大以外の活動では、日本私立大学連盟常務理事や学術・文化・産業ネットワーク多摩副会長を務めるなど、活躍の場は多岐にわたる。

改革をつづける法政大学の未来

 今年のデザイン工学部新設に続き、2008年度に新学部として、GIS(グローバル教養学部)、理工学部、生命科学部の3学部を新設し、大学改革を進める法政大学。法学部と経済学部を持つ大学としてスタートした当初と比較すると、学部数は14学部に増え、日本を代表する総合大学として、優れた人材を育成し続けている。今回は、平林千牧総長に、新学部に対する構想とともに、総合大学として、法政大学が社会に担う役割についてお話をうかがった。             (インタビュー 9月6日)
 
私大が担う責務を果たすために
 
 
本紙 来年は3学部を新たに設立するなど、数年間にわたり、大規模な大学改革をなされていますが、その基本コンセプトとは何でしょう。

平林千牧総長(以下敬称略)
 本学は社会貢献を担う人材を送りだすために、社会の変化に応じた大学改革を行ってきました。ここ数年の特徴として、文系、理系の順番に学部を改革しています。こうした傾向は、時代に応じた学部改編を行っていった結果でもあります。
 第一段階は、平成11年に設置された人間環境学部や国際文化学部から始まり、今春度初めて卒業生を送り出したキャリアデザイン学部などの文系学部が中心でした。第二段階は、来年度新設のGIS(グローバル教養学部)、理工学部、生命科学部の理系学部を中心とした改革です。3学部にはそれぞれ新しいコンセプトを持たせて出発する予定ですが、学部改編には、それぞれの学部に共通した本学の教育理念が盛り込まれています。それは「改革を進める社会の発展を担うべき人材の育成」です。本学が建学当初掲げた理念として、「自由と進歩」という言葉がありますが、これは、本学が明治期に法律の専門学校として設立されたなかで、日本が近代化するためのルール作りを行う法律家が必要だったことに関係しています。そのため、新設する各学部の教育理念に反映させています。
 生命科学部では、日本初の「植物医科学専修」という教育プログラムを用意しています。このプログラムは、植物医師の育成を目的としており、今後の地球環境問題、人口増加にともなう食糧問題の解決に向けて設置されたコースです。地球環境維持にもっとも重要な植物も人類と同様に、常に病気の脅威にさらされており、食物の総生産量の3割近くは何らかの病害におかされ、失われているといいます。これは、世界の8億人の人口を支える量になるそうです。そういった問題を改善するためにも、植物のお医者さんというのが、人間のお医者さんと同様に重要になってくるのです。
 理工学部の「航空操縦学専修」は、パイロット養成コースです。このコースは、学部から大学院まで一貫教育でラインパイロットを養成します。これには、本学の工学部の前身が航空専門学校であったということにも関係します。また、本学には学生の自主活動で航空部というものがあり、かつて「青年日本号」という飛行船で、日本で初めてユーラシア大陸をわたったという記録があります。そうした本学の伝統とノウハウをもとに、「次世代のパイロットを育てよう」という考えが、同専修の根底にあります。現状として、団塊の世代が退職となるなか、パイロット不足が深刻になることが予想されます。ところが今の日本には、若いパイロットを育成する教育環境はまだまだ少ないのです。世代交代がおきるこの時期に、本学の伝統を生かした、人材養成を行っていくことが、社会貢献につながっていくと考えているのです。
 また、GIS(グローバル教養学部)は、世界全体が抱えるさまざまな課題を解決できる能力を持った人材の育成を目的としています。この学部の前身には、国際教育を行う、IGIS(アイジス)という学部横断型のプログラムがあり、英語をコミュニケーション手段として、世界で活躍できる人材を育成するというものです。そのシステムを発展させ、GIS(グローバル教養学部)では、国際社会で活躍できる人材を育成する予定です。

■時代のニーズに合わせた大学改編

本紙 さまざまな分野で改組改編を行っていますが、貴学が大学改革を進めているのは、どのような理由があるのでしょうか。

平林 本学がこれほどまでに改革を進めるには理由があります。それは、現在の大学教育が、社会が求めるものに応えていないということです。先ほど本学の教育が果たす役割について触れましたが、大学改革のコンセプトには、「社会が求める人材の育成」があるため、総合大学として、多分野で活躍できる人材育成を行っていかなければいけない、と考えています。 21世紀に入り文科省は、現代の日本社会の状態を、「知識基盤社会」であると言いました。知識基盤社会の前提には、新しい知識や技術を生み出す「創造性」が求められてきます。そのためには、個性的で、多様な人たちが社会に存在していなければなりません。そういった人材を育てる役割は、日本の大学教育の七割以上を占めている私学が担う部分になってくるのです。そのため、私学の教育は、常に時代に対応した教育プログラムを提案していかなければならないのです。
 かつての大学教育は、経済学部には経済学科、法学部には法学科など、どの大学でも、単一学部、単一学科が基本でした。ところが近年では、一学部に複数学科があり、その種類は多様化しています。例えば、国際経済学科などは、経済学を学び、社会で活躍するうえで、国際社会に関する視点も求められることから誕生しました。学生は、法学や経済学などの学問体系を学ぶだけでなく、社会に出てから必要とする能力も身につけようと大学へやってくるのです。大学はその部分を提供できるよう教育体系を創造し、教育プログラムとして確立していくことが大切になってくるのです。

■「リーディング・ユニバーシティ」を目指して

本紙 大学教育が社会のニーズに応えていないとおっしゃりましたが、そのことについて、どのようにお考えですか。

平林 今日の大学教育は、かつては、一部のエリートだけが受けられた教育から、だれでも受けることができるユニバーサルな教育へと変化をしました。そのため、大学はさまざまな役割を担う、複合的な機能を持たざるをえなくなったのです。こうした現象は、外国の教育学者の間では予想されており、それを「マルチバーシティ=多機能大学」と呼んでいました。大学を取り巻く社会の状況が変化しているにも関わらず、これまで日本の大学は、適切な対策を進めていなかったのです。ようやく大学教育が深刻だということに気づいたのが90年代で、そこで、教育プログラムの改革が始まったのです。
 外国の大学では、70年代頃からこうした議論がなされていましたが、日本では90年代に入ってからといってよい状況でした。そのため、日本の大学は20年余り遅れてしまっていることになります。今日の大学改革が盛んなのは、そういったことが根底にあるからでしょう。
 本学が進めている大学改革は、規模的にも大きく、ここ数年で一挙に学部数が増えたため、一見すると常識的ではないと思われる側面もあるかもしれません。ですが、本学としては、20年の遅れを取り戻すためには、このスピードでも足らないと思っているほどです。
 一方で、18歳人口は減っており、約4割の大学が定員割れという現状があるなか、学部数を増やすのはどうかと言われることがあります。ですが、定員不足なのは、社会のニーズにあった大学改革を行っていないことが関係していると考えています。例としては、福祉系学部は、定員充足の困難は比較的小さいといえるでしょう。というのは、今の日本は、地域福祉の担い手が必要とされており、ニーズがあるからです。ですから、大学は21世紀を維持していくための教育プログラムを開発し、改革を推し進めていく必要があるのです。そのため、本学の大学改革は、第三弾、第四弾と続けていく予定です。

本紙 今後の大学改革の予定も含めて、貴学がめざす方向性についてお話しください。

平林 本学がめざす方向性を表す言葉として、「リーディング・ユニバーシティ」という言葉を使っています。これには二つ意味を持たせており、一つは、日本の大学改革のなかで、先端をいった教育プログラムを提案し、大学教育を先導しているということです。もう一つは、本学の卒業生が、社会のさまざまな分野のリーダーとして活躍するということです。
 この二つの意味を重ねて「リーディング・ユニバーシティ」といっています。その言葉の意に沿って、再来年度は、スポーツ振興と個人の健康づくりに貢献できる人材を育成する 「スポーツ健康学部」(仮称)を設置構想中です。また、実際に本学で学んだ学生たちは、さまざまな分野、全国各地域で活躍しています。例えば、一度は泊まりたい旅の宿として一位に選ばれた旅館の経営者や、大手有名家電量販店の社長など、一部の分野に限らず、多様な業界の第一線で活躍しているのです。また、活躍する場所も首都圏だけでなく、日本全国に広がっていってほしいと考えています。それは、日本社会の問題の一つとしてある、人口減少による地方の超高齢化現象です。若い人材が、首都圏だけでなく、地方にも還元され、日本全体が活性化していかなければ、社会の幸福は育っていかないと思います。そのために、本学では、東京で学んで地方で活躍する人材を育てていきたいと考えています。地方入試を活発に行っているのは、こうした理由があるからです。
 時代は常に変化するので、それに対応できる能力を強化していかなければなりません。そのためにも、大学は卒業生に対して、いつでも知的再生をサポートできる「開かれた大学」であるべきと感じています。大学として、卒業生が絶えず自分の知的能力を再生産していく場として、機能していきたいですね。

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