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第41回 旭川大学 山内 亮史 学長インタビュー

2007/12/25

旭川大学  山内 亮史 学長

 山内 亮史(やまうち りょうじ)1941年生まれ。 北海道出身。1970年3月北海道大学大学院教育学研究科博士課程教育社会学専攻単位取得満期退学。1970年4月 旭川大学へ赴任。専門分野は教育社会学、社会福祉論、地域政策論。日本教育社会学会、日本教育政策学会、日本平和学会などに所属。2003年4月より旭川大学学長、旭川大学女子短期大学部学長。2004年4月より学校法人旭川大学理事長、旭川大学大学院研究科長。
 

 
 
地域に根ざし、世界にひらかれた大学へ

 旭大(きょくだい)の愛称で地域に親しまれている旭川大学。寒冷積雪の地として知られる北海道旭川市に立地しており、同市は札幌についで、道内で2番目に人口が多い。
 同大は、周辺市内に住む高校生や住民のために、地域貢献に主軸を置いた教育研究体制をとっている。来年度新設される保健福祉学部は、地域の福祉問題を改善するために新設される。今回は、山内亮史学長に、新学部に対する構想とともに、大学の理念や、同大がめざす方向性についてお話をうかがった。         (インタビュー 11月14日)

「志立」旭川大学としての使命

若者の「類的情熱」に応えたい
 
本紙 創立以来、地域に根ざした大学として、多くの人材を社会に送り出してきた貴学として、学部を新たに設置する背景には、どのような理由がありますか。

山内亮史学長(以下敬称略)
 旭川の地に誕生して以来、本学は、100年を超える歴史と伝統を育んできました。創立から今まで変わらないことは「地域のために」という考え方です。
 大学が設立された昭和43年前後は、旭川空港の開港など、市内の経済発展が始まった時期でした。本学は経済学部を有しており、その当時、人材育成の点で、旭川周辺の経済発展に貢献できていたと思います。
 来年度新設される学部にも、地域貢献に重点を置いた構想が練られており、新学部には二つの狙いを持たせています。
 一つは、今の若者が抱く、人間とともに生きていきたいと願う「類的情熱」という思いに応えることです。
戦後復興間もない頃は、国家を挙げて、「日本国民としての生き方」がモデルとして掲げられていました。今はそういった目標が明確化されていないことから、若者たちは、「自分がどのように生きればよいか」思い悩んでいます。
 しかし、学生たちと対話していくと、「人の幸せのために働きたい」といった声が聞かれるようになりました。将来の自分の生き方について自問自答を繰り返すうちに、「人類はひとつなのだ」という哲学的思想に達し、「人間とともに生きていきたい」と感じるようになったのだと思います。そうした要望に大学教育が応えていかなければならないと感じたのです。
 二つ目は、北海道が抱える医療福祉の人材不足問題です。いま旭川を中心とした道北地方は、少子高齢による深刻な過疎化と、経済不況に脅かされています。また、道内に住む75歳以上の高齢者の割合は年々増加しており、このままの状況でいけば、2025年までに、その割合が46%に達することが予測されています。この姿は日本の少子高齢社会が先取りされた状況にあるともいえます。北海道が積雪寒冷の地であることを考えると、街としての維持が困難になり、高齢者に対するケアが滞っていくでしょう。しかし、医師や看護師をすぐに配置できる財政状況でもありません。そのため、訪問看護師など、その役割を拡大した機能\\\\\が必要になってくるのです。地域社会のニーズに応えた人材を養成し、行政や医療機関に送りだすことが大学の使命だと思います。
 この二つの狙いを軸に、新学部では看護に加え、ケアワーカーや精神保健福祉士、保健師など、福祉、医療、保健の分野を統合的にカバーできる人材を育成します。本学の保健福祉学部では、各学部同様、建学の理念に基づいて、教育指導を行っていく予定です。

本紙 各学部に生かされている建学の理念には、どういったメッセージが込められているのでしょうか。

山内 本学の建学理念は「地域に根ざし、地域を拓き、地域に開かれた大学」です。これには、「大学は地域貢献なくしては存在しえない」という意味が込められています。
 地域における大学の役割は四つあり、一つ目は学生への進学による経済負担が減ること、二つ目は地域へ人材が供給されること、三つ目は研究や情報集積などの役割、そして四つ目は地域活性につながることです。
 その一例に、全国的に有名になった旭山動物園でのエピソードがあります。それは、本学の卒業生、安田佳正さんが議員として旭山動物園の老朽化問題を取り上げ、改修するよう市議会で意見したことが発端になりました。
 厳しい地方財政のなか、動物園再建の決定打になったのは、本学の小野保前教授が調査した『旭山動物園の経済波及効果分析』だったのです。また後に動物園の入場者が道内一を記録するなど、道内で人気が出始めたころ、本学の卒業生で、新聞記者として活躍していた有我栄一さんが「旭山動物園物語」として、新聞連載したことで、全国的に知られるようになりました。
 旭山動物園の例は、地域の大学としてのあり方を示し、地域に根ざすことで、結果として、全国的にその取り組みが広がったことを証明してくれました。
 地域の志を受け、その思いを実現していくことが大学としての役割だと思っています。そのため、パンフレットなどでは、あえて私立ではなく、「志立」旭川大学と名称を明記しています。学生にも、それを意識して学んでもらいたいですね。

本紙 地域の志を担う学生たちに、旭大生として、どのようにあってほしいとお考えですか。

山内 本学は、学生に対して「取り組むこと」の大切さを実感させるために、講義と併せて課外活動を実践しています。内容は、学生が地域の街づくりに関心が持てるよう、北海道の自然や文化を題材にしたものが多いです。 
 例えば経済学部だと、「北海道学」という講義があります。自然や文化を始め、さまざまな角度で地域の特色を知ることで、地域を十分理解し、そのなかで自分にできることを考えてもらいたいのです。
 人間は考えること、すなわち想像力なくして、進歩はないと思います。大学で出会う人々や新たな学問と自分の経験がぶつかることで、もやっと湧き上がる思い=内念(イマジネーション)が生まれるのです。私はこれを「立ち上がる想像力」と名づけ、勉強をするうえで必要な力になると考えています。
 高校までは進学するための「手段」としての勉強が中心でしたが、大学は、答えのない問いに対して、「考える」勉強が求められます。そのためにも、学ぶ力となる「想像力」が、大学での学びを深める動機につながっていくのです。また、学問に対する想像力を、学生たちが交歓し合うことで、大学としての機能が高まっていくのです。
 旭大生には、想像力を糧に、地域社会、そして世界に貢献できる人材として育ってほしいと思います。そのために、大学としても発展していかなければならないと考えています。

「村を捨てる大学」より「村を育てる大学」を目標に

本紙 来年度は新学部を構え、新体制になりますが、他大学を含め、日本の大学教育はどのように変化していくのでしょうか。

山内 今の大学の傾向として、「村を捨てる大学」と「村を育てる大学」の二つがあると思います。
 村を捨てる大学とは、経済市場のニーズに合わせ、教育効果を生産面にしか発揮せず、地域とのつながりを失った大学のことを指します。
 一方、村を育てる大学とは、経済市場のニーズに応えながらも、地域が求めるものを提供する大学のことです。具体的には、ハンディキャップを持った人や高齢者など、社会的弱者のニーズにあった教育効果を生み出すことです。社会的弱者がより良く生きられる社会として、そこを「再生産」の分野と命名しています。
 本学では、経済学部を「生産の場」として考え、新設の保健福祉学部を「再生産の場」としています。大学として、経済市場に人材を送り出しながらも、医療福祉の分野をカバーし、地域社会が求める声に応えていくのです。もちろんベースには環境問題があります。
 近年、家族間での殺人事件などを耳にし、地域や家族のコミュニティーが崩れ始めていると感じています。その一因に、日本が経済的発展を求めるあまり、生産部分に偏重し、本来崩れてはいけない、愛の共同体に亀裂が生じ始めたのだと思います。「勝ち組」などの言葉に象徴されるように、大学教育でも、資格や就職実績など、市場のニーズに合わせたものが多いと感じます。都心の大学などは、立地している地域に、どれだけ貢献ができているでしょうか。
 本学は、地域に根ざし、地域が求めるものを教育内容に反映してきました。そうした活動が、地域から日本全体へ広がり、ゆくゆくは、世界へと普及していくものに進展していくのだと思います。

本紙 最後に、これから貴学がめざす方向性についてお話ください。
 
山内 学長として気力がなくなったらおしまいだと思っているので、常に高いモチベーションを維持するよう、心がけています。
 今後、少子高齢による北海道への影響はますます深刻化していくでしょう。そうした事態に困惑するのではなく、大学としてできることを行っていくべきだと感じています。
 大学院では、「君の椅子プロジェクト」という企画を実施しています。これは、近隣地域に誕生した子どもに対して、「君の居場所はここにあるよ」という意味を込めて、道産の木材で創られた「小さな椅子」を贈るプロジェクトで、地域で成長を見守ろうという趣旨で行っています。
 また、経済学部に設置している昼夜開講制の「社会人生涯学習クラス」や、地域住民に対して、地方自治や少子高齢などをテーマに講座を行う、「旭川大学AEL(あえる)事業」などを展開しています。これからも地域のニーズをよく汲み取り、社会のためにさまざまな企画を提案していく予定です。大学全体で、若者を含めた、地域の住民に夢を与えられるよう、教職員ともども、ひたすらまい進し続けます。
 

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