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第6回 B型からA型に動く教育改革
2008/10/01
高校生のための大学政策を考えるための第一歩(ホップ)は、進学機会を平等にすることだ。それに次ぐステップが、入学後に学ぶ教育の内容と学力の向上。専門用語では、教育の内部効率性という。そして、ジャンプが、雇用機会と就職後のキャリア形成。教育の外部効率性である。卒業しても就職できなければ、ジャンプの失敗になる。この三つは、連載ので指摘したアウトプット指標、つまり「規模・学力・所得」に対応している。
平等性と効率性の三段跳びに失敗しないように設計するのが、大学政策の要諦だ。この三つさえ押さえておけば、政策が大きくぶれることはなく、三段跳びを忘れた改革は、迷走する。
日本の大学の現在は、ホップの教育機会からつまずいている。奨学金を充実させているから、機会の平等化が進んでいるというかもしれない。たしかに、学生支援機構の奨学資金は潤沢だ。今では誰でもかなりの借金ができる。4年間で500万円も借りられる。しかし、借りるのは、低・中所得の家計。豊かな家計の子弟は親の贈与だ。初任給が上昇しないのに、高級車2台分の借金をかかえて、返却できない若者が増えている。最近の若者が車を買わなくなったのは、高級車2台の借金をしているからだ。というのは邪推だが、借金の平等化は教育機会の平等化ではない。この政策問題は、連載の最後に議論することにして、ステップの段階に入ろう。
中高年世代の大学イメージは、「レジャーランド」だろう。入学する前の受験勉強には熱心だったが、入学後に勉強したという自覚が非常に弱い。学生時代にいかに遊んだか、がサラリーマンの大学思い出話。入学する「前(Before)」だけ勉強する大学を私はB型大学と呼んでいる。これでは、ステップ段階の失敗だ。
このB型レジャーランド大学が、大きく変わりつつある。10数年の大学改革の唯一の成果だ。法制度の改革による成果ではない。市場競争による結果だ。学生を確保できなければ大学は倒産する。確保のためには、教育熱心にならなくてはいけないし、就職できなければ、大学の評判は一挙に下がる。学生の確保、教育、就職指導。大学の経営者と教師が、ホップ、ステップ、ジャンプの三段跳びに芽生えはじめた。とてもいいことだと思う。
大学のパンフレットは、「どのような職業資格が取れるか」「どの分野の就職に強いか」を謳っている。大学もビジネスの一つ。学生たちも、資格やビジネス情報に敏感だ。もはやB型のレジャーランド大学ではない。入学後(After)に勉強するA型の「ビジネスランド」になっている。入学の前後ともに勉強するAB型もある。どちらも勉強しないO型大学もあるが、それでは倒産するのが必至だ。
30あまりの大学を訪問し、教育改革の最前線をレポートしてきたが(リクルートの『カレッジマネジメント』)、「高校時代よりも大学のほうが勉強している」学生の事例が少なくないのは驚かされる。ビジネス志向のカリキュラム改革だけではない。最近では、「教養教育」も見直されている。いかにも日本らしいのは、「英語」が教養教育の救世主になっていることだ。秋田県立の「国際教養大学」、「横浜市立大学の教養教育改組」「4年制を開学した大阪女学院大学」などでは、英語力を媒介にして、教養と専門を統合しようとしている。話せる英語のための語学学校ではなく、英語で学び、英語で考え、英語で専門を語る力がなければいけない。それが、現代人の教養だというわけだ。しかも、英語力は、テストによって測定できるから便利だ。いずれの大学でも、4年間の英語力の成長が顕著だし、学生もよく勉強している。国際教養大学は、すべての授業を英語で行うほどに徹底しており、大阪女学院大学では、1年生のTOEIC-IPの平均点が406点だったが、3年次には619点まで成長したという。横浜市立大学は文系、理系を問わず教養教育の段階でTOEFL-LTPで500点以上の成績を修めないと専門課程に進級できないというハードルを設定し、実際に9割が目標を達成した。入学時の英語力が最高で、その後は低下する一方だった昔のB型大学とは大違いだ。
最近の専門学校では、ビジネス系と語学系の人気にかげりが見えているという。その背景には、大学における教育改革の実践がある。言語的教養だけでなく、数理的教養に光をあてるべきだと私は考えるが、その話はともかく、「B型からA型へ」のシフトを愚直に実践するのが教育改革の王道である。