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第84号 大日本印刷株式会社 常務役員 山崎富士雄氏
2012/07/17
1876 年の創業以来、日本の印刷業界はもちろん、現在では情報・生活・エレクトロニクス等の諸分野においても世界を牽引する大日本印刷株式会社(本社東京・新宿区)。
同社の基幹事業である出版印刷部門のキーパーソン常務役員・山崎富士雄氏に、最近の新入社員の印象や、これからの若者に対する期待などを、女子栄養大学常任理事・染谷忠彦氏が聞く。
■天命だった印刷業界
染谷 山崎さんはどのような学生生活を送っていらっしゃったのか、振り返っていただけますか。
山崎 大学では経済を専攻していましたが、夢中になったのはもっぱらサッカー部の活動でした。だからというわけではありませんが、体力と元気にはその頃から自信がありました。
染谷 就職先に大日本印刷株式会社を選んだ理由を教えてください。
山崎 実家が印刷業を営んでいましたので、幼い頃から印刷は私にとってごく身近なものでした。長男ということもあり、将来は家業を継ぐつもりで手伝いもしていましたが、時代は丁度活版印刷からオフセッ
ト印刷に切り替わる転換期で、父の会社も舵をどう切るか決めかねていました。そんなタイミングで折り悪く父が体調を崩してしまい、結局店
を畳むことになりました。
そこで私は卒業後どうするかということになりましたが、すでに印刷業をやっていく覚悟もできていましたので大日本印刷への入社を決めた
のです。
■挑戦する気概に期待
染谷 ご入社以来、一貫して営業畑で活躍されてきたとうかがっていますが、最近の新入社員と接する際、どのような点に注目されていますか。
山崎 やはりコミュニケーション力でしょう。私どもの会社ではコミュニケーションや対話をとても大切にしています。お客さまはもちろん、社内の同僚たちと接する上で、欠くことのできない資質だと考えています。自分の意見を持ち、それをしっかりと相手に伝えられることができると印象がとても良くなります。そのために大切なのは、自分
をしっかり持つということなのだと思います。
染谷 おっしゃる通りです。
山崎 それに、〝礼儀と作法〞も非常に重んじています。最近は、どうかするとこの部分が欠けている若者が多いように見受けられますが、お客さまあっての仕事だと考えれば礼儀作法を心得ていることはむしろ当然です。「礼儀と作法に勝るものはなし」と、何度も言い聞かせています。
ただし難しいのは、こうした感覚は簡単に身につくものではないということです。ですから、社会に出る前の学生時代に、例えばサークル活動などで先輩・後輩の良好な関係をいかに作り上げていくかということに心を砕いてみる必要があるのだと思います。
染谷 これから社会に巣立っていく若者に求めていることを挙げていただけますか。
山崎 グローバル化と言われて久しいですが、やはり語学力と世界を見る力は欠かせないでしょう。私たち日本人は語学を長い時間かけて学んでいるにも関わらず、満足に会話一つすらできないのは大きな問題です。感受性が強く、柔軟な思考力のある中学・高校時代に、ぜひしっかりと世界標準の素養を身につけて欲しいと思います。
染谷 大日本印刷は世界有数の大企業ですから、海外での仕事も多いでしょうね。
山崎 出版業務はこれまで国内が中心でしたが、外国市場の動向にも少なからず影響を受けるため、海外の仕事ももちろんたくさんあります。そのような環境なのに、海外駐在員の希望者を募っても、ほとんど手が挙がらないというのは、本当に残念です。TOEICなどの高得点取得者など、優秀な人材がいるのは確かですが、海外に出て活躍してみたいという気概を持った若者は非常に少ない印象があります。
やる気やチャレンジ精神がある若者にはとても期待していますし、その気持ちに賭けたいというのが偽らざる気持ちです。
■経験増やし幅を広げよう
染谷 大日本印刷では、新入社員に対してどのような教育を行っていますか。
山崎 入社後2週間程度は全員で研修を受けてもらいます。その中で、会社の考え方や方向性、社会人としての基礎を学び、各部署に配属されます。部署単位ではOJTという形で先輩社員につき指導を受ける流れになります。
染谷 日本型のオーソドックスな人材育成手法ですね。
山崎 新入社員の中には入社した頃はしっかりと挨拶ができていたのに、次第にしなくなってしまう者が少なくありません。悪い意味で先輩たちに感化されているのでしょうが、言語道断です。そういうことにならないように、先輩社員たちにも、礼儀作法を十分に意識して対応するようにという指導をしています。
また、ほとんどの若手は、良い先輩につくとラッキー、悪い先輩につくのはアンラッキーだと考えているようですが、私はまったく逆の立場です。良い先輩につくのはラッキー、悪い先輩につくのはさらにラッキーだよと伝えるようにしています。
大事なのは、そうした諸先輩を超えていくことなんですね。先輩の善し悪しは関係ないと分かって欲しいのです。
染谷 超えられまいとして先輩社員も頑張る。好循環が期待できますね。
山崎 新入社員や若手が意見を言いやすい環境づくりを行うことも私たちの役目でしょう。自分の意見をまずは自由に言えることが会社の発展には欠かせません。そういった社風をこれからも大切にしていきたいと思います。
染谷 最後に、高校生、大学生へのメッセージを。
山崎 若い時にこそ、いろいろな経験をして欲しいと思います。もちろん、苦しいことや困難なこともあるでしょう。けれども、それを自分の
力で乗り越えていくところに大切な何かが潜んでいます。その瞬間は大変かもしれませんが、経験することで力がつき、力がつくことで達成感や自信も醸成されます。苦しくても必ず克服できるという成功体験があれば、いずれ社会人になった自分を支えてくれるに違いありません。