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第1回 選択制の導入と単位制度の成立

2012/09/04

大学の単位制度を考える

1回 選択制の導入と単位制度の成立

                                         清水一彦


■形骸化した大学の単位制度

 大学が大きく変わろうとしている。学習する時代から学習させる時代への転換が求められているからである。

 平成24 年は文部科学省の主導で、学生の主体的な学びを確立するための「学修時間の確保」をテーマとする大学改革地域フォーラムも各地で実

施されることになった。

 各方面から日本人学生の授業以外の学習時間の少なさが指摘されて久しい。そのため国際競争の時代にあって大学教育の質保証に懸念が抱かれている。このことは制度的にいえば現在の単位制度の形骸化であり、1 単位の実質化が図られていないことを意味している。

 わが国においてすでに導入から60 年以上も経過している大学の単位制度について、いま一度原点に立ち返って認識を新たにする必要性があるのではないかと私は考えている。

 

■授業の選択制が発展の契機に

 ここで言う単位制度(Credit System)は、学生の学修量を時間という概念で測定する制度である。

 大学の歴史において時間を単位とする教授学習形式はすでに中世のヨーロッパに誕生していたが、クレジット・システムといわれる現行の単位制度は19 世紀後半のアメリカで開発されたものである。

 それは、1869 年に当時のハーバード大学で初めて導入された選択制が契機となって登場した。選択制の導入は、真面目な学生に興味や関心、能力によって学習を選択させ、知的大望を持つ学生たちにより多くの学習機会を与えるために考え出された。

 同時に、知的大望を持たない学生に対しても、彼らの意欲を促し知的喚起させる狙いもあった。しかも、この選択制は、多様な学生集団の編成をとることになった。つまり、異なった学年・クラスの学生を一緒にさせ、同じコース・科目において学部学生と大学院学生を混在させ、相互刺激、寮生活、若者と年長者といった混合グループを形成させたのである。

 こうした選択制は広く支持され、学生が自由に学ぶドイツ流の考え方をアメリカ的に表現したものであり、ユニバーシティの本質でもあると評価されていた。大学で学ぶ学生のキャリアにおいて必要不可欠のシステムとして位置づけられた。

 

■カリキュラムの等価値性と新教授法

 その後、ハーバード大学では選択制が急速に発達し、学年を追うごとに選択学習の時間が多く設けられ、哲学やギリシャ語等の伝統的な科目を除いた多くの科目に選択コースが拡大していった。

 それと同時に、関連する科目群をまとめて配列するカリキュラム・システムも採用され、また時代や社会が要請する新たな科学的、学問的、専門的な科目も次々に取り入れられるようになったのである。

 こうした選択制の導入は、単にカリキュラムを拡大させたばかりでなく、新たな教師を必要とし、従来の一方通行的な授業方法をも変化させることになった。

 教授であろうと講師であろうと誰が教えても、いつ教えても、どこで教えても各科目の価値は等しく、同時にまた教え方に巧拙があってはならないことが前提条件とされた。つまり、カリキュラムの等価値性と共に新たな教授法の開発が求められることになったのである。

 時を同じくして、学生の学修の量を計る工夫が考えられ、ここに単位制度が誕生することになったのである。

 その意味で、単位制度の成立は、選択制の導入が契機となり、さらに今日でいうFD(Faculty Development)と密接な関係を持っていたことになる。我々は大学改革においてこのことを忘れてはならない。

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