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第4回 産業界との接続という視点

2013/02/13

大学改革の行方

産業界との接続という視点

                                 本田 由紀


 これまでの本連載において、第1回では秋入学とそれに伴う「ギャップターム」について、第2回では学修時間の増加について、第3回では「分野別質保証」のための教育課程編成上の参照基準について、それぞれ批判的な検討を加えてきた。これらはいずれも大学教育の質を高めようとする改革の一環として提唱されてきたものであるが、本連載はその実効性に対して疑問を投げかけてきた。今回、これらの改革への批判的観点としてさらに付け加えたいのは、これらの改革が総じて大学教育内部に閉じたものであったということである。ギャップタームや学修時間増、分野別の教育課程の参照基準を導入したとして、そして仮にそれらが学生に何らかの変化をもたらしたとしても、そうした大学教育内部の営みを外部社会が適切に評価してくれることがなければ、努力は徒労に終わるおそれがある。
 
 外部社会の諸領域の中でも、特に重要なのは仕事の世界である。文部科学省が学校基本調査における卒業後の進路に関する項目として平成23年度から新たに「正規の職員等でない者」を加えたことにより、その該当者を含めると新規大卒者のほぼ4人に1人が卒業後に不安定な状態にあることが、昨夏に明らかとなった。むろん、大学教育の目的は、卒業生が仕事に就く・仕事をする上で役立つこと「のみ」にあるわけではない。しかし、多額の学費と最低4年の時間を学生から徴収しているにもかかわらず、大学教育が卒業後の仕事に対して何ら益をもたらさないとすれば、それは学生や保護者の切望を裏切る詐欺に近いものではないかと私は考えている。それゆえ、大学側はただ内部で教育の質の向上に努めているだけでは不十分であり、その内容や成果が仕事の世界で正当に評価されるように取り組むことを避けて通ることはできない。
 
 そして周知のように、この課題に関しては非常に厳しい現状がある。日本の企業は従
来、新規大卒者の採用選考の際に「大学で何を学んだか」にはほとんど関心を払わず、
「地頭」と呼ばれる知力と「コミュニケーション能力」と呼ばれる対人的ふるまいを専ら
重視してきた。それは経営者団体等が実施している調査結果からも明らかであるし、就
職活動中の学生の間でも、〝集団面接で「大学でがんばったこと」を「勉強」と答えた人
がいて、フィードバックで面接官が「勉強以外で答えてほしかった」と言った〞という類のエピソードが広く流通している。こうした産業界からの大学教育に対する関心の希薄さに対して、一体いかなる策がありうるのか。
 
 この点に関して注目すべき活動を行っているのが、「大学教育と就職活動のねじれを直し、大学生の就業力を向上させる会」(以下DSS)というNPO だ(http://www.npo-dss.com/index.html)。DSS はいくつかの大学の文系学部の学生各数百人に対して調査を行い、「考える力」を育成し成績に反映させている授業名を抽出してウェブサイト上で公開している。こうした情報が企業の採用活動において関心を払われるようになることを通して、大学教育の質と採用選考の精度のいずれをも向上させる良循環の発生をDSS は企図している。
 
 大学の世界と仕事の世界をすり合わせるやり方は、DSS のような手法に限られるものではない。しかし、こうした側面への配慮を欠いた大学改革が空回りに終わることは確かである。


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