トップページ > 連載 大学改革の行方 > 最終回 大学教育のデザインと検証に向けて

前の記事 | 次の記事

最終回 大学教育のデザインと検証に向けて

2013/03/05

大学改革の行方

大学教育のデザインと検証に向けて

                                 本田 由紀

 
 これまでの本連載では、さまざまな改革動向について批判的な見解を述べてきた。最終回の今回は、「では一体、いまの大学教育をどうすればいいのか」について論じておきたい。しかし恐縮だが、筆者は魔法の杖を持ってはいない。以下に述べることは、極めて平凡かもしれないが、筆者が本気で必要だと考えていることである。
 それは、個々の学部や学科が社会に送り出したいと考えている人材像に照らして、教育課程、すなわち個々の授業の内容と方法およびその配列を設計し、それが機能しているかどうかを絶えず点検し修正するということである。これだけでは当たり前すぎるが、より具体的には次のようなイメージで考えている。
 まず、上記の根幹をなす教育課程の設計に関しては、①学術的専門分野、②取り上げるテーマ・事象、③取り組み方、という3つの軸から成る三次元空間を想定することが有効である。このうち①は理論や専門用語、方法論などからなる学問分野、②は教育で扱う対象、すなわち諸事象を時間や空間の範囲を区切って焦点化したものである。そして③については、a 既存知識の習得と熟考(デリバレーション)↓ b 独自のデータ収集と分析(インベスティゲーション)↓ c 得られた知見の提示(プレゼンテーション)↓ d 現実社会の中での適用(アクション)という順番で高次化する、段階性をもつ軸として考えている。前回述べた、外部社会との接続や、学生の主体的な学びという観点からは、大学教育は③のa にとどまることなく、b からc へ、そしてd へと延びるベクトルを含んでいることが不可欠である。
 学部や学科の教育課程を構成する要素である個々の授業は、上記①~③の3軸についてそれぞれの守備範囲を持ち、ある体積を持つ立体を形成している。その集積が当該組織の教育課程全体で教えることができることの総量となる。逆から述べれば、その学部・学科で育成しようとしている人材像に照らして、教育課程全体の①~③の射程をまず設定し、そうして描かれる大きな立体を個々の授業の組み合わせによって満たすことができるように各授業の内容を定め、学習の順序性を考慮して各学年に授業を配置していくという作業が、教育課程設計の際には不可欠となる。
 このように当然にも見えることが、実は日本の大学教育の現場ではあまり取り組まれていなかったり、うまくいっていなかったりすることが珍しくない。たとえば、教育課程設計に関する筆者のヒアリング調査によれば、ある学部での教育に体系性を持たせようとして全授業をいくつかの領域に分類しそれぞれから選択して履修させるような工夫をしていても、順序性への配慮が薄いために結局は体系的でない履修になっているケース、またある分野に不可欠な方法論を早い学年で確実に教えることができていないために③のb ~d にあたる教育が希薄になっているケースなどが見られた。これは、実際に学生が何を学んでいるかという教育成果と、もともとの教育目標との間のギャップを把握し、それに即して教育課程を点検・再設計するというサイクルが十分に機能していないことを意味する。
 日本の大学教育を改善していくためには、こうした足元の地道な努力が欠かせない。派手な制度改革やスローガンでごまかすのでなく、本体の教育課程自体を鍛えることにしか答はない、と筆者は考えている。

前の記事 | 次の記事