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第9回 大学院の位置づけと役割
2014/02/13
■大学院の位置づけの変化
大学の学部の上に大学院がある。戦前から大学院は存在していたが、有名無実である。戦後になってこの学制は法律に基づいて制度化され、修業年限が2 年の修士課程とその後3 年の博士課程ができた。大学院の目的は高い水準の学問を修めて、学問に従事する研究者、教育者を育成することにあった。日本の企業・官庁では学部卒業後の就職者がほとんどだったため、大学院出身者は非常に少なかった。ただし、理科系にあっては学部4 年間だけでは十分な学識を習得できないので、修士課程に進む人はかなりの数いた。博士課程は研究者になる人のためのものであった。
転機は20 年ほど前、旧制だった大学を中心にして大学院大学に移行して、学部は大学院の付随機関となったことだ。以前は大学院が学部の付随機関だったことの逆転だ。学問の内容が高度化したことへの対応策というのが表面上の理由だが、真の理由は大学が大衆化した中で、大学間で格差をつけるのを認めたことにある。大学院大学には研究費などで優遇して、そうでない大学との区別を図ったのである。大学院大学での研究と教育の質がどれだけ上昇したのか、検証を行う時期に入っている。
博士課程の学生が大幅に増加した結果、オーバードクターの数が目立つようになった。博士号を取っても職のない人の増加である。あちこちの大学で非常勤講師をしながら低所得で暮らす「高学歴ワーキングプア」という言葉が流行したほどであった。
なぜこのように博士号保持者の職を見つけることが困難になったのかには二つの理由がある。第一に、大学教員の需要予測を間違えた。これに関しては博士課程在籍者の数を減少する策しかない。第二に、大学・研究所以外の民間の職場において博士号保持者の採用処遇に関して確固たるものがない。とはいえこれからの時代は博士号保持者が専門職として活躍する場は増加すると予想するので、この点に関しては楽観視している。ただし民間企業に対して“専門馬鹿”だけを送り込むということは避けたい。
■苦戦する専門職大学院
大学院に関してもう一つの変化は、ビジネススクールという経営大学院と、法曹関係者になる人のために法科大学院を創設したことである。アメリカではMBA(経営学修士)教育が定着しており、経営幹部になるにはMBA がかなり有利になっている。日本はどうかといえば、まだ経営修士号への評価は定まっておらず、企業での経験を重ねた結果、仕事上でよい出来栄えを示した人が経営幹部になることが多い。しかし外資系企業ではMBA 保持者が多いし、グローバル経済の下、英語に強いビジネスマンの活躍の場はこれから目立つであろう。そういう意味では英語を強くする外国のビジネススクールと日本のビジネススクールとの間の競争が激化しそうである。
問題は法科大学院のほうが深刻である。法曹関係者の数が増加するだろうという予測の下で、法科大学院の数は増加したが、予想されたほど需要は伸びず新しい司法試験の合格者数も増加しなかった。日本はアメリカのように紛争を法律と裁判で決着をつけるという文化にまだ至っていないので、法科大学院は縮小均衡に向かっている。
アメリカは医者になるにもメディカルスクールという大学院レベルでの教育が必須である。日本では現在の学部6 年(教養2 年、専門4 年) の医学教育を、教養4 年の
学部教育と専門4 年という大学院教育に変更するという案は、おそらく8年間の学費負担は学生にとって苦痛であるということからほとんど語られておらず、医学教育のメディカルスクール化は当分ないと予想できる。