トップページ > トップインタビュー > 第70回 東京交通短期大学 学長 松岡 弘樹氏
第70回 東京交通短期大学 学長 松岡 弘樹氏
2016/07/19
時代や社会の要請に対応できる人材の育成を目指す
東京交通短期大学 学長 松岡 弘樹氏
全国で唯一の「運輸科」の強みを活かす
全国の短期大学で唯一「運輸科」を設置する東京交通短期大学(東京都豊島区)。同大は鉄道業界からの要請により、交通関連産業の人材育成と勤労学生に対して高等教育を提供する目的で設立された。開学以来、鉄道業界や交通サービス業界に多くの人材を輩出し、関連業界の評価と信頼を得てきた同大の学びの内容は実践的かつ専門性が高い。しかし、学生には幅広い教養を身につけてもらうことが第一であるとの理念を語る松岡弘樹学長に同大の教育が目指す方向性についてうかがった。
人間力を基礎として高い専門性を修得
―貴学は鉄道業界の人材養成のために創立されたとうかがいました。
本学は鉄道会社に勤務する社会人が学べる機会を提供するために、夜間の大学として開学しました。現在では、入学者のほとんどが高校新卒者となり、設置基準上は夜間の大学ですが授業は13時10分からの始業となっています。しかし、創立当初の教育の理念と伝統は引き継がれ、交通・運輸分野の科目を中心にカリキュラムが編成されている全国唯一の短期大学です。「交通経済学」や「交通政策論」、そして、電車の運転シミュレーションを行う「鉄道基礎」などがあり、それぞれ実務経験豊富な講師による実践的な学びは他大学にはない本学独自のものです。そうした科目を履修することにより鉄道業界をはじめとする交通産業界で活躍できる有為な人材を輩出してきました。それは、63年間で約4000人を超える規模となっています。
ほとんどの入学者に共通する点は「かなりの鉄道好き」ということです。そういった学生にとって本学の専門科目はとても魅力的なのです。しかし、「自分は鉄道にしか興味がないから鉄道関連の科目しか履修しない」ということでは実際は困ったことになります。なぜなら、本学の教育の目的は鉄道をはじめとする交通産業界が望む人材を育成することであり、サービス業のウェイトが高い現在の交通産業界では、単なる「鉄道マニア」では務まりません。そのため、本学では、幅広い視野を身につけるための一般教養を重要視しています。
1年次で履修する「鉄道基礎」ではシミュレータを使用した運転のシミュレーションを行いますが、これは運転技術の修得だけが目的ではありません。事故等の不測の事態が発生した時にどのように対応すべきかなど、鉄道員として必要とされる基礎を学ぶ科目であり、的確な判断力と責任の自覚能力を身につけることが目的です。そのための人間力を教養教育を通して1年次から養っていきます。
卒業後はどこの会社でも通用する人材を育成することを念頭に教育に注力しています。将来のために、学生にはできるだけ多くのことを学んで欲しいのですが残念ながら短期大学の2年間だけでは、時間が足りないのが実情です。そのため、入学前教育を導入し、入学後に円滑に講義等に取り組めるように入学予定者への学習課題を課しています。入学前教育導入後は文章力がアップするなどの成果が見られるようになりました。
―学びの特長を教えてください。
1年次は基礎科目として教養教育を中心に履修します。歴史学や哲学などの人文系から社会科学系、自然科学系、外国語など幅広い知識を身につけていきます。また、キャリアデザインや文章表現技術、ビジネスマナーなど、社会人基礎力養成のための科目も履修します。
2年次には専門科目として主に「交通科目」系と「観光科目」系を学ぶことができます。交通科目系には、「世界の鉄道研究」や「鉄道史」など鉄道好きなら誰しも受けたくなる講義が多数開講されます。もちろん鉄道関連だけでなく、陸運、航空、海運と、交通・運輸全般にわたります。そして、これらの「交通」に関わる20科目が体系的にカリキュラムとして組み込まれ、交通産業界から要望される人材としての基礎をしっかりと学ぶことができるのです。
また、そうした科目を教えるのは、現場体験の豊富な実務家教員であることが特長です。公益財団法人鉄道総合技術研究所(本部東京・国分寺市)や一般財団法人運輸調査局(本部東京・新宿区)出身の教員もおり、業界に即した内容の講義は社会人となってから、現場で役立つ実践的なものであると自負しています。
また、鉄道写真家や現役の駅長が講師として来学する特別教養講座も、大学では学べない知識を身につけ将来へのイメージを広げるための貴重な時間として開講しています。
1・2年次それぞれに「ゼミ」があることも本学の学びの特長と言えます。1年次は「基礎ゼミ」、2年次は「専門ゼミ」と称しています。特に2年次のゼミは専門テーマごとにグループをつくり、フィールドワークによる調査から、文献による研究まで自主的な学びが要求されます。少人数の学生が教員も含めて密に接することから、ゼミ員相互の親交は深く、卒業後も親密な関係が構築されます。
―高校生にメッセージをお願いします。
鉄道や交通関係に興味・関心のある高校生は本学のことを知っている場合が多いと思います。そうした高校生にこそ入学後の学びと将来のことをよりよく理解していただくためにオープンキャンパスや体験入学会にぜひ足を運んで欲しいと思います。入学後のミスマッチを防ぐためにはとても大切なことです。
そして、交通産業界への就職を目指す高校生には、本学のすばらしい就職実績を知って欲しい。業界へのステップとして道を開いて行くことが容易になります。特に、女性は鉄道会社等からの採用需要が高まっていますのでぜひお勧めします。
また、2017年後期になりますが新校舎が完成します。とても斬新なデザインで、私たちも新校舎の完成と共に、みなさんと学ぶことができる日が来ることを心待ちにしています。
交通産業界に向けたキメ細かな就職指導
鉄道会社をはじめ交通産業界への高い就職実績を誇る東京交通短期大学。しかし、学生への就職指導には苦労することも多いという。松岡弘樹学長と同大で就職指導を担当する田邉友昭准教授にキャリア支援についての現状をうかがった。
松岡:本学の学生が鉄道に対して持つ情熱と愛情には目を見張るものがあります。
田邉:就職担当としての課題はその情熱をいかに就職活動に導いていくかです。入学時に面接をすると「将来はこの鉄道会社で電車を運転するのが夢です」と申し合わせたように語る学生が多く、その意識を変えさせることが指導のポイントです。
松岡:その通りです。鉄道会社は運転士と車掌だけを人材として求めているわけではありません。総合的なサービスを提供する側面があることを学生の多くは当初は理解していません。
田邉:まず、仕事は趣味の延長線上にあるものではないと認識してもらいます。そして、就活の中で企業研究をしっかりと行ってもらい、鉄道会社にはどのような職種があるのかを理解させていきます。実際にはさまざまな職種があり、求められるスキルや人材のタイプも異なります。運転士も大切な職種なのですが入社してすぐになれるわけではありませんし、多くの人命を預かる責任の重い仕事として採用者の適性は厳しくチェックされます。
松岡:それでも多くの学生は今まで抱いてきた夢と希望がありますので、それらを損なわないようにしながらも、選択肢が増えるように学生に力をつけてもらう取り組みを進めています。
田邉:鉄道に限らず交通関連業界はサービス業ですので、その感覚は身につけてもらうように指導しています。また、どんな仕事であっても交通機関と接点を持ちたいと考える学生も多く、最近では、駅構内の警備を請け負う警備会社や空港内の保安施設などに就職する学生もいます。
松岡:鉄道関連の企業は本学創立時から採用面でのお付き合いがあり、就職は堅調です。
田邉:特に女性は有利です。交通関連業界では女性が活躍できる環境が整い、求人需要が高まっていますので、業界志望の女子高校生は本学への進学を選択肢の一つに加えていただきたいと思います。
松岡:小規模な短期大学ですが、専門特化した本学ならではの強みを最大限に活かし、今後も交通関連業界に貢献できる有為な人材の育成に邁進していきたいと考えています。
[news]