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第71回 お茶の水女子大学 学長  室伏 きみ子氏

2016/07/20

学ぶ意欲のある世界のすべての女性のために
お茶の水女子大学 学長 室伏 きみ子氏


「グローバル女性リーダー」の育成を目指す



 お茶の水女子大学(東京都文京区)の歴史は明治8年(1875 年)に日本初の官立女子高等教育機関として御茶ノ水(現・文京区湯島)の地に東京女子師範学校が設立されたことから始まった。女子教育を普及させるための女性教員養成がその設立の目的だったが、その原点は変わることなく現代に継承されている。同大では、2004 年の国立大学法人化の際、「学ぶ意欲のあるすべての女性にとって、真摯な夢の実現の場として存在する」という標語を掲げた。大きく社会が変化する中において、女子教育のあり方と新たな時代に向けての構想について室伏きみ子学長に話をうかがった。




最大の魅力は目標となる女性教職員の存在


―貴学の今後のビジョンについてお聞かせください。
 本学は建学の頃より、日本の女子教育を先導してきました。そして、2004年の国立大学法人化の際に日本の女子教育だけでなく、世界中の女性たちの学びの拠点となることを宣言しました。もちろん、以前より世界に向けての活動はしていましたが、特にアジア、アフリカ圏の開発途上国に注視して、女性や子どもの教育に積極的に関与していく方針を打ち出したのです。現在、本学では「グローバル女性リーダー」の育成を目標として掲げていますが、それは日本国内だけなく、「世界中のすべての女性のために」ということを内包していることをご理解いただきたいと思います。
 それらを具体化する実践として2002年からアフガニスタン・イスラム共和国への女子教育支援を開始し、続いてアフリカ西部諸国での幼児教育支援にも取り組んでいます。こうした活動を継続する中、女性がさまざまな場所でリーダーとして活躍できること、女性の視点で世界中の人々の幸福のために研究や開発ができること、それらを大学のミッションとして推進していくことが本学のこれからのビジョンのコアとなります。
 進展するグローバル化に歩調を合わせるかのように、現代社会はさまざまな問題を抱えています。140年を超える教育・研究を積み重ねてきた本学の有する学問的資産を社会に還元していくことがいままで以上に求められていることを強く感じています。そうした問題解決に果敢にチャレンジできる人材として「グローバル女性リーダー」の育成は急務となっています。そのため、本学では運営組織として「グローバル女性リーダー育成研究機構」を立ち上げ、その傘下に「グローバルリーダーシップ研究所」と「ジェンダー研究所」の二つの教育・研究機関を設置しました。今後これらの研究所は日本だけでなく、世界的な拠点としての役割を担っていくことになります。女性が活躍できる裾野を広げるためには、社会の中で意思決定ができる場に関われる人材の育成が重要なのです。
 そして、それらに加えて本学の学問的資産を社会の役に立てるための研究組織として2016年4月に新たに二つの研究所を開設しました。子供たちの心身の健全な発達を促進し、生活習慣病の克服や高齢者の健康長寿をサポートするための研究を推進する「ヒューマンライフイノベーション研究所」と、アクティブラーニングなど教育・保育に関わる実践研究や子ども達の発達に関わる研究や教育を手掛ける「人間発達教育科学研究所」です。これらの組織における研究を通して本学が推進しようとしていることは、人間がその一生を通じて心身共に健康で幸せな生活を送ることができるようにすることなのです。これが2つ目のミッションです。

―女子大学の魅力と役割をどのように考えますか?
 本学の卒業生たちは、さまざまな分野で力強くかつのびのびと活躍しています。その大きな理由は本学には優秀な女性教職員が数多く在籍していることです。身近に見本となるよう女性がいることで、学生たちは自分の将来をポジティブにイメージし、社会に巣立っていきます。もちろん、社会人となればさまざまな現実にも遭遇しますが、悩んだ時に母校を訪ねれば、教職員が相談に乗ってくれます。「ガラスの天井を突き破れ!」などと励ましてくれるので、また元気に頑張れる。本学はそんな雰囲気の大学です。
 男性が多い環境では、女性が躊躇してしまうことが多い現実があります。特に学生時代に女性が理系に進もうとした時に、教員の多くが男性だとどうしても心理的なハードルが高くなります。
 私自身は本学の附属中高の出身なのですが、中学時代の理科の先生は全員女性でした。ですから、女性が理科を学んだり、教えたりすることは自然なことと考えていました。そして、高校卒業時に何の躊躇もなく本学の理学部に進学しました。身近に女性のロールモデルが存在することは女子生徒・学生が将来を考える上でとても大切な要素なのです。
 本学出身で日本初の女性理学博士の保井コノ氏や国際的に活躍した女性物理学者の湯浅年子氏など、創立当初からの歴史と伝統がいまも本学の理学部には脈々と引き継がれています。いわゆる「理系女子」の源流を本学に辿ることができるのです。
 しかし、現実的にはビジネスや学問研究などさまざまな分野で女性が活躍できる環境が充分に整っているとは言えません。本学は女子大であることを特色にして、女性支援を行っていくことは当然ですが、女性だけでなく、男女両性が共に手を携えてより良い男女共同参画社会を創るためのいろいろな試みをしていくことも女性支援のあり方だと考えています。

―高校生へのメッセージをお願いします。
 
本学の学びの特徴は、少人数の大学だということもあり、すべての学部の距離が近いことです。「文理融合リベラルアーツ」と称していますが、1、2年次の教養教育は文系・理系から幅広く履修して視野を広げることができます。専門教育に進むための基礎として、また社会で生きていくための、幅広い視野と教養が身につきます。
 いまの社会が抱える諸問題は複雑で多様なものになっていますのでそうした問題を解決していくためには、特定の知識と考え方だけでは対応ができなくなりました。異文化理解や文系と理系が学び合いお互いの可能性を高めることなど、「しなやか」な学びの姿勢が必要です。本学には三つの学部がありますが、学びのコアとなる主専攻と視野を広げる副専攻のバランスをとることにより、幅の広い学びが展開できます。
 そして、何よりも本学には学生が将来の目標にできる多くの女性教職員の存在と、困った時にとことん面倒を見てくれる環境があります。自由な雰囲気の中で女性だけで、さまざまなことにチャレンジしていけることも女子大の魅力です。学生一人ひとりの可能性を尊重し、決して「あなたにはムリ」とは言わないお茶の水女子大の学風の中で、充実した学生生活を送ることができます。ぜひ多くの高校生に本学の魅力を知っていただきたいと思います。


スペシャルタナーレクチャー
―21世紀の女性の生き方―









 5月18日にお茶の水女子大学講堂(徽音堂)にてスペシャルタナーレクチャーが開催された。タナーレクチャーは米国の学者であり実業家でもあったオバート・クラーク・タナー氏により設立されたもので、米国および英国の著名大学において40年の長きにわたり毎年実施されてきた。その目的は「Human Value」に関連した学術的かつ科学的取り組みを推進し、かつ回想することにある。講演者は哲学・宗教学・人文科学・科学等への取り組みにリーダーシップを発揮した世界的に影響力のある人物が選出される。米国、英国以外の国々において、数年間に一度のスペシャルタナーレクチャーが行われるが、今回、お茶の水女子大において日本での記念すべき初開催となった。
 同大での開催は、その存在が世界的に評価されていることを証明するものである。スペシャルタナーレクチャーに登壇した講演者は、英国のケンブリッジ大学ニューナム・カレッジで学長を務めるキャロル・ブラック氏と文部科学大臣や駐トルコ共和国特命全権大使を歴任した遠山敦子氏だ。キャロル・ブラック氏は「女性:教育、生物学、能力およびリーダーシップ」を、遠山敦子氏は「未来を担う若き友人たちへ」をテーマに講演を行った。 
 ブラック氏はさまざまなデータに基づき、環境が性差を生み出している問題や高等教育機関における女子学生の現状についてケンブリッジ大学を事例に講演を展開した。そうした女性のキャリアパスの現状についての示唆に富んだ講演に来場者はみな強い感銘を受けていた様子であった。
 また、遠山氏は、日本が直面する課題として少子高齢化の現状を提示し、これからの社会は女性、若者、外国人など多様な人材が主体的に参加し、動かしていくべきとの意見を述べた。そして、自身の経験を基に、女性が活躍するための社会的な環境整備推進の必要性についても言及した。
 「21世紀の女性の生き方」をテーマに実施された今回のスペシャルタナーレクチャーは、日本の女子教育の先達であるお茶の水女子大が今後も女性が活躍できる社会を創るために挑戦を続ける存在であることを象徴するものとして盛況裡に閉幕した。


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