トップページ > 連載 教育費負担と奨学金 > 最終回 情報ギャップへの対応
最終回 情報ギャップへの対応
2018/03/10
連載 教育費負担と奨学金
最終回 情報ギャップへの対応
小林 雅之
これまで学生支援について、現状とその根拠、各国の状況、さらには新しい経済政策パッケージについて紹介してきた。本連載の最後に、あまり知られていないが重要な問題を提起することで連載を締めくくりたい。それは“情報ギャップ”の問題である。
情報を持つ者と持たない者の間で大きな差が生じることを情報ギャップという。学生支援について日本でも情報ギャップが存在していることを調査結果によって明らかにしてきた。例えば、2016年の調査によれば、高卒者の保護者のうち、日本学生支援機構奨学金に応募しなかった理由として、「よく知らなかったから」という者の割合は、年収1062万円以上の高所得層では5・9%にすぎないが、年収462万円以下の低所得層では15・0%と大きな差がある。
また、報道などによると、奨学金の返還猶予制度や減額返還制度を知らなかったり、そもそも返還しなければならないことさえ知らなかったりする奨学生も決して稀ではない。その結果、自己破産に追い込まれるなどの悲劇も生じているのが情報ギャップの問題である。
今後、奨学金制度が複雑になるにつれて、情報ギャップの問題はますます深刻になる可能性がある。しかし、日本学生支援機構や高校、大学の努力にも限界がある。そこで新たにスカラーシップアドバイザー制度を創設し、奨学金の周知に努めることとしたが、どの程度効果を上げるかはこれからの問題である。
私たちは、複雑化する奨学金制度について、高校の現場がどのように受け止めているかを調査した。この調査は、全国の国・公・私立高校5123校から半数を無作為抽出し、1245校から回答を得た(回収率57・6%)。回答は、「奨学金の担当者あるいは奨学金に最も詳しくご存じの方」にお願いした。
この調査の結果について、興味深い点がいくつも浮上。情報ギャップについては、まず「JASSOの説明資料が理解しづらい」という回答が「とても当てはまる」が27・6%、「やや当てはまる」が49・5%で合わせて77・1%と4分の3以上の方が、分かりにくいと回答している。これは回答者が高校で「奨学金の担当者あるいは奨学金に最も詳しくご存じの方」であることから、日本学生支援機構の情報の提供方法自体に問題があることを示唆している。
同様に、「奨学金制度が複雑すぎて理解しづらい」についても「とても当てはまる」31・6%、「ややあてはまる」48・0%で計79・6%と約8割が理解しにくいとした。
こうした情報ギャップの生じている現状に対して、「奨学金制度について担当者が学ぶ機会が少ない」に対して、「とても当てはまる」38・8%、「やや当てはまる」46・6%で合わせて85・4%と大多数が肯定している。これは回答者が奨学金の担当者あるいは奨学金に最も詳しい方であることを考えると、深刻な問題だと言えよう。
ローン負担やローン回避問題についても、JASSOの奨学金利用の指導方針として「貸与奨学金は返還が大変なのでなるべく利用しないようにしている」に対して、「とても当てはまる」5・2%、「やや当てはまる」27・4%の合わせて32・6%、回答者の約3分の1がなるべく利用しないように指導している点も大きな問題だ。今後、是非はともかくさらに検証・検討する必要があるだろう。
前回の新しい経済政策パッケージでもふれたが、新所得連動型奨学金や給付型奨学金など、新しい制度が創設され、さらに拡充しようとしている。そのこと自体は歓迎すべきであるが、先にふれたような悲劇を防ぐためにも、文部科学省や日本学生支援機構などが、情報ギャップの問題に積極的に取り組むと共に、高校や大学などの関係者も奨学金制度の変化に注意し、正しい情報を得るように努めていただきたいと念願して連載を終える。
最終回 情報ギャップへの対応
小林 雅之
これまで学生支援について、現状とその根拠、各国の状況、さらには新しい経済政策パッケージについて紹介してきた。本連載の最後に、あまり知られていないが重要な問題を提起することで連載を締めくくりたい。それは“情報ギャップ”の問題である。
情報を持つ者と持たない者の間で大きな差が生じることを情報ギャップという。学生支援について日本でも情報ギャップが存在していることを調査結果によって明らかにしてきた。例えば、2016年の調査によれば、高卒者の保護者のうち、日本学生支援機構奨学金に応募しなかった理由として、「よく知らなかったから」という者の割合は、年収1062万円以上の高所得層では5・9%にすぎないが、年収462万円以下の低所得層では15・0%と大きな差がある。
また、報道などによると、奨学金の返還猶予制度や減額返還制度を知らなかったり、そもそも返還しなければならないことさえ知らなかったりする奨学生も決して稀ではない。その結果、自己破産に追い込まれるなどの悲劇も生じているのが情報ギャップの問題である。
今後、奨学金制度が複雑になるにつれて、情報ギャップの問題はますます深刻になる可能性がある。しかし、日本学生支援機構や高校、大学の努力にも限界がある。そこで新たにスカラーシップアドバイザー制度を創設し、奨学金の周知に努めることとしたが、どの程度効果を上げるかはこれからの問題である。
私たちは、複雑化する奨学金制度について、高校の現場がどのように受け止めているかを調査した。この調査は、全国の国・公・私立高校5123校から半数を無作為抽出し、1245校から回答を得た(回収率57・6%)。回答は、「奨学金の担当者あるいは奨学金に最も詳しくご存じの方」にお願いした。
この調査の結果について、興味深い点がいくつも浮上。情報ギャップについては、まず「JASSOの説明資料が理解しづらい」という回答が「とても当てはまる」が27・6%、「やや当てはまる」が49・5%で合わせて77・1%と4分の3以上の方が、分かりにくいと回答している。これは回答者が高校で「奨学金の担当者あるいは奨学金に最も詳しくご存じの方」であることから、日本学生支援機構の情報の提供方法自体に問題があることを示唆している。
同様に、「奨学金制度が複雑すぎて理解しづらい」についても「とても当てはまる」31・6%、「ややあてはまる」48・0%で計79・6%と約8割が理解しにくいとした。
こうした情報ギャップの生じている現状に対して、「奨学金制度について担当者が学ぶ機会が少ない」に対して、「とても当てはまる」38・8%、「やや当てはまる」46・6%で合わせて85・4%と大多数が肯定している。これは回答者が奨学金の担当者あるいは奨学金に最も詳しい方であることを考えると、深刻な問題だと言えよう。
ローン負担やローン回避問題についても、JASSOの奨学金利用の指導方針として「貸与奨学金は返還が大変なのでなるべく利用しないようにしている」に対して、「とても当てはまる」5・2%、「やや当てはまる」27・4%の合わせて32・6%、回答者の約3分の1がなるべく利用しないように指導している点も大きな問題だ。今後、是非はともかくさらに検証・検討する必要があるだろう。
前回の新しい経済政策パッケージでもふれたが、新所得連動型奨学金や給付型奨学金など、新しい制度が創設され、さらに拡充しようとしている。そのこと自体は歓迎すべきであるが、先にふれたような悲劇を防ぐためにも、文部科学省や日本学生支援機構などが、情報ギャップの問題に積極的に取り組むと共に、高校や大学などの関係者も奨学金制度の変化に注意し、正しい情報を得るように努めていただきたいと念願して連載を終える。
[news]